第267話 写真展示会
ブリンクマン総督とヴィンケル提督がホクト城に登城した数カ月後、遠征艦隊がアマト国へ戻ってきた。
ソウマ提督と主だった部下たちは、湊からホクト城へ整列して行進した。大通りを進むソウマ提督たちを大勢の国民たちが拍手と歓声で出迎える。彼らが偉大な功績を残したのだと知っているのだ。
ソウマ提督は讃えてくれる国民たちを見て、
「これで海軍に入りたいと言ってくれる若者が増えると嬉しいのだが」
それを聞いたサコンは頷いた。
「必ず増えます。間違いありません」
ホクト城に到着したソウマ提督とサコンは、大広間に向かった。その二人の姿を見た俺は、笑顔になって声を上げる。
「提督、よくやってくれた。遠征艦隊の功績により、列強諸国の間でもアマト国の評価が変わったはずだ。それが何よりも嬉しい。さあ、詳しい話を聞かせてくれ」
大広間には評議衆や奉行衆だけでなく、息子たちや妻のフタバ、
「まず、イングド国の首都アドラムを、初めて目にした時、その規模に驚きました。ホクトの三倍ほど大きかったのです」
それを聞いた奉行衆がざわめいた。ホクトはミケニ島やハジリ島の歴史の中で最大の町だと言われているからだ。
ソウマ提督が戦いの様子を話し始めると、大広間が静まり提督の声だけが聞こえるようになる。息子のフミヅキとハヅキが頬を赤らめ興奮した様子で聞いていた。
話がフラニス国の首都リスタルを攻撃した様子に移ると、複雑な顔をする者が現れた。フラニス国はアマト国とも交易をしていたので、フラニー人に親しい者が居る奉行衆も居たのである。
だからと言って、フラニス国を攻撃した事に反対している訳ではない。
「話はここまででございます。イングド国とフラニス国には十分な報いを与えたと思っております」
俺は頷いた。
「異国の地で亡くなった者のため、その栄誉を末永く語り伝えるように、新しい神社を建立しようと思う。そして、無事に戻ってきた将兵には、この国の将帝として褒美を与える。……よくやってくれた」
サコンは多くの写真を撮ってきた。それを俺は受け取る。マサシゲとドウセツに写真を床に並べるように命じる。皆で見ようという事だ。
写真は白黒だったが、イングド国やフラニス国の街並みと同時に、炎を上げている海軍基地や造船所が写っている。その写真を見ながら、俺も行きたかったと思う。
たぶん行く事は一生できないだろう。俺の命令で列強国の将兵や国民の多くが死んだという事実が、歴史に書き込まれたからだ。
イサカ城代が俺に顔を向けた。
「上様、これらの写真を多くの臣民に見せたいと思うのですが、如何でしょう?」
「良い考えだ。写真展示会を開こう」
ホクトで開かれた初めての写真展示会は、長蛇の列ができるほど盛況なものになった。アマト国の人々は、異国の情報に飢えていたらしい。
写真展示会の事を聞いたブリンクマン総督とヴィンケル提督は、わざわざホクトまで見に来た。そして、見覚えのある街並みが燃えている写真を見て絶句する。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
時間を遡り、遠征艦隊により攻撃を受けた直後のイングド国では、バンジャマン王が主要な臣下を集めて会議を開いていた。
会議の冒頭でギボンズ軍務卿が被害状況を説明し、今後どうするべきかを問う。
「もちろん、アマト国に報復するべきです」
発言した植民地行政総監を国王が睨む。
「どうやって、報復するのだ?」
「それは……艦隊を再建し極東に送り出すのです」
国王は軍務卿に視線を向ける。
「第一艦隊と同じものを再建するとしたら何年掛かる?」
ギボンズ軍務卿は頭の中で計算し答えを出した。
「海軍基地と造船所を立て直すのに四年、それから艦隊を造り直すとなると合計で十年ほどの歳月が必要になるでしょう」
国王は財務卿に顔を向け質問する。
「その費用として、どれほどが必要になる?」
財務卿は顔をしかめて、国家財政が傾くほどの金額を口にする。それを聞いた植民地行政総監は、弱々しく頭を振る。
「それでは報復など無理ではありませんか?」
「それだけではございません。その資金を捻出するための一番の方法は、極東の国々との交易でございます。特にアマト国との交易が可能になれば、国家財政が潤うでしょう」
財務卿の言葉に、国王が憮然とした顔になる。その顔を見て財務卿が言葉を続けた。
「陛下、素直に敵を認める事が必要だと思われます。アマト国は我々より進んだ文明国となったのです。先進国となったアマト国から、謙虚に学ぶという姿勢も必要です」
「財務卿は、報復するべきではないと言うのだな」
「このまま戦っても、また敗北するだけでしょう。これから二十年を雌伏の時と定め、内政を充実する事に注力するべきです」
ギボンズ軍務卿が不満そうな顔をする。
「このまま海軍基地や造船所を放置するつもりではないでしょうな。再建は必要ですぞ」
「再建はします。但し、元のような綺羅びやかな海軍基地は不要です。必要最低限の建物を建設して、海軍基地とします」
「馬鹿な、海軍の伝統を無視するつもりですか」
軍務卿は怒ったが、財務卿は冷たい視線を向けた。
「今回の戦いで、海軍の将兵が大勢死にました。特に海軍基地に勤務していた者たちが死んだのです。人材が居ないのに、入れ物だけを豪華にしてどうするのです」
軍務卿は財務卿が嫌いになった。だが、反論する事もできずに口を閉じたまま会議を見守る。
「フラニス国も、アマト国の攻撃を受けて多大な被害を出した。アムス王国との戦いは、フラニス国が引く事で決着しそうである。この状況の中、他の列強諸国に対する備えはどうする?」
国王が問うと、重臣たちは難しい顔になる。フラニス国は良いとして、無傷のアムス王国が勢力を伸ばすかもしれない。その対策を考えると一つしかなかったのだ。
「フラニス国と手を組んで、アムス王国を牽制するしかないでしょう」
外務卿が嫌々答える。イングー人はフラニー人が嫌いなのだ。
国王が頷いた。
「外務卿はフラニス国の元老院議員と話し合い、協力体制が取れないか協議してくれ。それと交渉が上手い者を極東に派遣して、アマト国に戦争の終結を申し出るのだ」
外務卿は終結条件を質問する。
「チュリ国をくれてやれ」
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