第228話 アマト国海軍の新型戦艦
フラニス国のロジュロ提督がホクトに来ているタイミングで、十二センチ砲弾の威力を確かめたのには理由がある。
サナダ型戦艦の存在は、次第に庶民に知られるようになった。それを抑える事はできないので、フラニス国海軍の動きを抑止するために使った。
わざとサナダ型戦艦の噂を流し、フラニス国がサナダ型戦艦の正体を探り出すまで動かないように牽制したのである。俺としてはサナダ型戦艦三隻と新型巡洋艦六隻が完成してから動き出して欲しかった。
「上様、ヒリュウサイ殿から実験が成功したという報せが届きました」
小姓のドウセツが声を上げた。
「おっ、成功したか。早速見に行こう」
俺と小姓の二人は、ホクト城の敷地内にある研究棟に向かった。この建物は俺が欲しいと思ったものを研究開発させている場所だ。
「ヒリュウサイ殿は、何を研究されているのでございますか?」
マサシゲが尋ねた。
「電動モーターと発電機だ」
「それはどういうものなのです?」
「電動モーターは、電気の力で回転する機械で、発電機は電気を作る機械だ」
「電気というと雷の事だと聞きましたが、人間が雷を作り出す事ができるのでございますか?」
マサシゲは雷を神仏が作り出すものだと考えているようだ。一般的にそのように考えられているので、マサシゲだけが遅れている訳ではない。
俺が建てた学校では詳しく教えているのだが、小姓をしているマサシゲは学んでいない。一度学校に入れて勉強させた方が良いかもしれない。将来の事を考えてやらねばならない時期になっているのだ。
研究棟に到着しヒリュウサイの研究室に入る。板張りの床に様々な機械が並んでいた。
「お待ちしておりました。上様の指示通りに製作したものが完成いたしましたぞ」
ヒリュウサイが満面の笑顔で迎えてくれた。
簡単そうに言ったが大変だったようだ。天然磁石を探し出して加工し、銅線を絶縁体で皮膜するなど苦労したらしい。
作業台の上には二つの木製の箱があり、その一方にはハンドルが付いていた。俺はハンドルが付いている方を指差す。
「こちらが発電機だな」
「そうでございます。そして、導線で繋がっているこちらが、電動モーターになります」
発電機側のハンドルを回すと電気が発生して、電動モーターが回転するという仕組みのようだ。ドウセツとマサシゲは不思議なものを見るような顔をしている。
「まずは見せてくれ」
「畏まりました」
ヒリュウサイは助手の若者にハンドルを回させた。すると、電動モーターが唸り声のような音を発して回転を始める。
「ふむ、成功だな。回転している」
マサシゲが首を傾げる。どうして回転しているのか、理解できないようだ。
磁石というもの。磁気・電気・力の関係を説明するのに時間が掛かった。俺は満足して研究室を出ると、隣の研究室を覗いた。
ここでは空気ボンベの開発をしている。研究しているオダ・コウゲンに話を聞くと、空気ボンベ自体は完成しているが、それに空気を詰め込むコンプレッサーの開発が遅れているらしい。
「それはどのような機械なのでございますか?」
マサシゲが尋ねた。
「コンプレッサーというのは、空気を圧縮する機械だ。圧縮した空気は、工作機械などの動力源となる」
「圧縮空気が動力源となるのでございますか? 不思議な事でございますね」
「上様、電気を作って電動モーターを回転させるより、直接回転させた方が簡単なように思えるのですが?」
ドウセツは空気ボンベやコンプレッサーには関心を示さず、先ほど見た発電機と電動モーターの事が気になっていたようだ。
「……例えば、川沿いの場所に水車を作り、その回転で電気を発生させ、導線で電気を山まで送り、電動モーターを使ったポンプで水を汲み上げるという事もできる。一度電気にすれば、どこでも電気の力を利用できるようになるのだ」
この説明にドウセツは納得したようだ。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
交易区のホテルに商館長のコリンズが訪ねてきた。ロビーに居たドランブル総督がその姿を見て声を上げる。
「商館長、何かあったのか?」
コリンズの姿を見たドランブル総督が声を上げた。
「アマト国海軍の新型戦艦に関する情報が手に入りましたので、お報せに参ったのです」
「ふむ、ロジュロ提督の部屋へ行こう」
二人は提督の部屋に向かった。提督は部屋で報告書を書いていた。
「何ですと! 新型戦艦の情報が……」
コリンズは手に入った情報を二人に伝えた。
「馬鹿な、鋼鉄製の戦艦だと言うのか?」
「はい、間違いありません。アマト国海軍の新型戦艦は鋼鉄製なのです」
「鉄板を貼っているだけではないのか?」
ロジュロ提督は信じられないという様子で確かめた。
「間違いありません。海軍基地で働いている男を買収して手に入れた情報なのです」
ドランブル総督が不機嫌な顔でロジュロ提督に顔を向ける。
「提督は、これでもアマト国海軍に勝てると断言できるのかね?」
「お待ちください。この目で見ないと確かめられません。鋼鉄製になったからと言って、強力な戦艦だとは断言できませんから」
コリンズは精力的に動いて、戦艦サナダがモウリ家の居城があったヒュウガへ行く事を突き止め、ロジュロ提督へ知らせた。
ロジュロ提督はすぐにヒュウガへ行き、戦艦サナダが現れるのを持つ。そして、戦艦サナダがヒュウガの湊に現れた時、ロジュロ提督の身体が震えた。
「こ、これが戦艦サナダか。戦列艦のマリアンヌより二回りほど大きいではないか。それに搭載砲も大型化している。あれは間違いなく長距離砲だ」
あれはフラニス国海軍の幹部が頭の中で描いていた未来の海軍の姿だった。
「あのような戦艦をアマト国海軍が揃えたら、フラニス国は極東に手が出せなくなる。今が最後のチャンスではないか。それともすでに遅いのか」
ロジュロ提督は悩んだ。
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