第227話 戦列艦の装甲板

 ホクトを訪れたロジュロ提督は、アマト国の軍事技術を見たいと思った。だが、さすがにアマト国側が見せてくれるはずがない。


 仕方ないので、庶民の暮らしからアマト国全体の技術水準を推測する事にした。アマト国の生活水準は、列強国と変わらないように思える。


 ホテルのレストランで総督と食事をしていたロジュロ提督が声を上げた。


「ドランブル総督、アマト国の技術は、列強国と同じだと考えねばならんようですな」

「信じられぬ事だが、そのようだ」

「ですが、海軍の歴史は浅いようです。海軍力に関しては列強国にがあるように思えるのですが」


 総督は頷いた。

「確かにアマト国海軍の歴史は浅いが、その戦力はイングド国海軍を打ち破った事で証明されておる。だから、本当にアマト国海軍に勝てるのかと確かめたのだ」


「アマト国海軍は、最大の戦力である戦列艦を所有していないという事でした。大きな軍艦を建造する技術を持っていないのではありませんか?」


「そうかもしれんが、装甲巡洋艦と呼ばれている軍艦が三隻あれば、戦列艦を沈められると聞いている」

「それは今までの戦列艦ならば、そうかもしれません。ですが、新型の戦列艦は違いますぞ」


 新型戦列艦は動力船となったばかりではなく、主要部分の装甲を強化している。アマト国海軍の装甲巡洋艦を真似たのだ。


「そう言えば、アマト国海軍には、鉄製の船があり、その船首に爆弾の付いた竿を取り付けて、体当りしたと聞く。その対策は有るのかね?」


 ドランブル総督が意地悪く質問する。この総督は勝つ事が好きで、ちょっとした議論においても言い負かしたいと思うようだ。


「アマト国が所有する小型鉄船は一隻だけだと聞いております。その一隻が現れたなら、集中砲火を浴びせて沈めてやります。心配ありません」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 オウメ湊に入港したフラニス国第七艦隊旗艦マリアンヌを詳細に調べた忍びから報告が届いた。報告したのは、ホシカゲである。国内の事だが、対象がフラニス国の軍艦なので影舞の担当となっている。


「フラニス国の新型戦列艦ですが、搭載砲が後装式ライフル砲となっております」

「それは脅威だな。しかし、小型砲が多いのはどうしてだ?」


「まだ精度の高い測距儀などを含む照準システムが存在しないので、命中精度が低いのだと思われます」


 小型砲を多数揃えて、命中数を上げるという方針は変わらないらしい。

「船体に鉄板が貼られていたというのは、本当か?」

「本当でございます。あの様子だと、撃沈するのは難しいでしょう」


「もしも戦になったならば、新型戦艦に期待するしかないな」

「二十センチ速射砲で、あの装甲を貫けるでしょうか?」

「実験してみよう。ツツイに準備させる」


 どこから聞いたのか、その実験を見たいとフミヅキが言い出した。仕方なく許可すると大喜びする。その実験が行われるのは、海軍基地のあるチガラ湾だ。


 俺とフミヅキ、それに守役であるヨシノブも一緒の馬車に乗ってチガラ湾へ向かう。

「ふむ、ホクトとチガラ湾の交通量がだいぶ増えてきたようだな」

 俺が行き交う馬車や旅人の姿を見ながら言うと、ヨシノブが頷いた。


「海軍基地の規模が大きくなり、チガラ湾のトウリ湊が大きくなっているからでございましょう」

 トウリ湊は小さな漁村だったのだが、近くに海軍基地ができた事で、海軍基地に務める軍人の家族が住む町として発展していた。


「ホクトとトウリ湊を往復する鉄道を造るかな」

 フミヅキがパッと俺に顔を向ける。

「父上、鉄道とは、どのようなものでございますか?」


「そうだな。二本の鋼鉄の棒を地面に並行して置いて、その上に馬車の車輪を乗せたものを想像してみよ」

 フミヅキが首を傾げる。

「その鋼鉄の棒が、ホクトからトウリ湊まで続いておるようなものだ」


「なぜ、そのような事をするのです?」

「鋼鉄の棒の事を『レール』と呼ぶのだが、レールの上を走る乗り物は、普通の道を走る乗り物より小さな力で動かせるのだ」


 話を聞いていたヨシノブが、身を乗り出した。

「つまり、二頭の馬でないと動かなかった馬車が、一頭の馬でも動かせるようになる、という事でございますか?」


「その通りだ。それに蒸気機関を使えば、大量の物を運べるようになる」

「でも、船の方がたくさん運べると思います」

 フミヅキが言った。


「そうだな。だが、海や川がない場所もある。それに鉄道の方が早い場合もあるのだ」

「そうなのですか。鉄道というのは、凄いのですね」

 この話から、鉄道建設が本格的に始まった。


 馬車がチガラ湾の海軍基地に到着。俺たちは戦艦サナダに乗り込んだ。戦艦サナダはチガラ湾から外海へ出て、砲撃の準備を開始する。


 標的になるのは古い型の装甲巡洋艦である。チトラ島沖海戦で損傷した軍艦だったが、修理して使っていたものだ。


 最後の任務として標的艦となった。標的艦から乗組員が離れると、まず十二センチ後装式ライフル砲が火を噴いた。砲弾が飛翔し、標的艦の手前に着弾する。


 微調整しながら撃ち続け、初めて砲弾が標的艦の装甲を捉えた。だが、装甲に跳ね返された砲弾が海中に沈んでから爆発する。


「装甲は、十二センチ砲弾に耐えたか。二十センチ速射砲に切り替えろ」

 俺の命令で、二十センチ速射砲からの砲撃が開始された。最初の数発は的を外したが、命中弾が出た。砲弾が装甲を貫き、内部で爆発する。


 一撃で沈没はしなかったが、小破となる。その後も次々と砲弾が命中し、爆発が続き標的艦が沈んだ。


「鉄製の装甲が有っても、砲撃を完全に防ぐ事などできないという事だ。問題はフラニス国海軍の新型戦列艦に使われている装甲板の厚さだな。それほど厚くはできないと思うのだが」


 装甲板を厚くして重量が増すと速度が遅くなる。俺は敵の装甲板の厚さも、アマト国海軍の軍艦とあまり変わらないと思っているのだが、確かめる方法は実際に戦うしかなかった。


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