第229話 キナバル島開戦
アマト国と戦うかどうかで悩んだロジュロ提督は、アマト国海軍が新型戦艦を増やす前に、戦いを始めなければならないと思うようになった。
ただロジュロ提督だけでは開戦を決められない。本国の命令でドランブル総督と話し合い戦う相手と開戦時期を決めるという事になっていたからだ。
「提督はアマト国海軍の新型戦艦を見て、戦列艦では勝てないと言っていたではないか。それなのに戦うというのは、なぜなのだ?」
「今なら、新型戦艦の数も少なく我が艦隊が勝てますが、あのような軍艦がアマト国で増えれば、とんでもない化け物国家が誕生する事になります」
「馬鹿な。本国でも同じような軍艦を建造すればいいではないか」
「あのような戦艦を建造するために、どれほどの研究開発期間が必要か、想像できますか? 少なくとも十年は必要だと思いますぞ」
「十年だと……極東同盟が強固なものになっているだろうな」
「そうです。戦うのなら、今なのです」
ドランブル総督は開戦を渋った。だが、それを本国に報告すると言われ、心がぐらついた。政治家としての本能は開戦反対なのだが、手柄を立て本国の元老院へ戻りたいという欲望があった。
「いいだろう。提督に任せよう。目標はキナバル島なのだな?」
「ええ、あの島を手に入れてから、大陸のテヘル国やアラバル国に手を伸ばそうと、考えています」
バナオ島のフラニス国艦隊とフラニス国陸軍は戦の準備を始めた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
バナオ島のフラニス国総督府が戦の準備を始めたと報告を受けた俺は、ちょっと落ち込んだ。戦を先延ばしするために、新型戦艦の情報まで流したというのに、それが裏目に出たからだ。
「新型戦艦の情報を流したのは、失敗だったな」
「如何いたしますか?」
海軍のソウマが尋ねた。
俺の周りに評議衆が集まっている。だが、不安そうな顔をしている者は一人も居なかった。俺が『失敗した』と言っているのにである。
それだけ信用されているという事だろうか?
「キナバル島のマレス族に警戒するように伝えよう。そして、こちらも戦の準備を始める。ソウマは第三艦隊を派遣する準備をするのだ」
ソウマが深々と頭を下げる。
「畏まりました。それと試作艦を同行させてよろしいですか?」
「良いだろう。但し、運用には注意してくれ」
「分かっております」
アマト国海軍の第三艦隊は、新型装甲巡洋艦五隻・新型装甲砲艦八隻・補給艦三隻・試作艦一隻で構成される艦隊である。
イサカ城代が異議を挟んだ。
「本当に第三艦隊でよろしいのですか。第一艦隊を出すべきでは?」
第一艦隊は新型戦艦を含む最強艦隊である。
俺は首を振って、
「フラニス国海軍の主力が、キナバル島へ来るとは思えない。あの島を攻略するのに必要なのは、兵員を輸送する輸送船だ」
「ですが、バナオ島に駐留するフラニス国兵は、二万ほどだと聞いております。それに比してキナバル島の兵は、五万。数から言えば勝てぬと考えるのが普通でございます。それを挽回するには、軍艦からの砲撃が必要ではないでしょうか?」
「フラニス国はそう考えていないようだ。フラニス国兵が一人居れば、島蛮の兵十人を倒せると豪語していると聞く」
「マレス族の兵が、弱いという事でしょうか?」
「フラニー人たちはそう思っているようだ。その自信がどこまで本気なのかは分からん。俺たちはマレス族がどのような戦い方をするのか、知らぬからな」
「マレス族に対する支援は、どうなっているのでございます?」
「中古であるが、多くの火縄銃と火薬を提供している。問題は銃による戦闘の経験が、マレス族にはないという事だ」
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
バナオ島に駐留しているフラニス国陸軍のデスピオ少将は、指揮下の一万の兵を輸送船に乗せて、キナバル島に向かっていた。
少将が乗っている輸送船は、新しく建造された兵員輸送船である。短距離ならば二千名を運べる画期的な輸送船だった。同型船五隻がキナバル島の中心的な町であるバルハブ湊から十キロほど東にある入り江に到着した。
その入り江に上陸したフラニス国兵は、西へと進軍を開始した。その事はマレス軍の斥候部隊が突き止め、マレス族の指導者たちに伝えた。
キナバル島にはいくつかの町があり、その町ごとに導主と呼ばれる指導者が居る。その導主が集まったものが導主会であり、この導主会がキナバル島を統治していた。
導主会は兵をバルハブ湊の東側に集め、フラニス国の侵攻に備えた。その数は二万である。フラニス国の狙いがバルハブ湊である事は分かっていた。
この湊はカイドウ家が資金を出して整備し、キナバル島で最大の湊町となっていたからだ。この湊町にキナバル島全域から産物が集まり、アマト国に輸出されている。
最初の戦いが始まった。前回列強国と戦った時は、島のジャングルに逃げ込み、その地形を利用して列強人たちを撃退したが、今回はどうしても守らなければならない町がある。
銃撃戦が始まった。フラニス国兵は激しい銃撃を受けて混乱した。マレス族から激しい銃撃を受けるとは思っていなかったのだ。
「
デスピオ少将は放った銃弾の数で、マレス族を圧倒しようとした。ただマレス兵の数は二倍である。少将が考えていた戦いとは、戦況が異なり始めていた。
「少将、死傷者の数が五百名を超えました」
「チッ、仕方ない。一時退却する」
その日の戦いは、フラニス国軍が退いた事で終了した。
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