第7話 英雄の腹心(2)

 近づいたり離れたりしながら、魔龍の顔に向けて魔法を放っていく。

 水も火も光も、鱗に当たって砕けてしまう。


「やっぱり効かないよ?」

「どうせ効かないので、第一級で構いません。とにかく嫌がらせをしてください」


 そう言いながら、ヨシノは炎熱召喚を放つ。

 わたしも光の槍を撃ちまくると、確かに魔龍は鬱陶しそうに顔を振ったり、足を踏み鳴らしたりしている。


 けれど、それも長く続かなかった。

 魔龍が巨大な魔法陣をその顔の前に出した。

 一瞬、逃げようかと思ったけど、それよりも別のことを閃き、光の盾を並べて一直線に魔法陣に向かって突っ走る。


 魔法陣に魔力が注ぎ込まれていくのを感じながらも、確信があった。


 間に合う!


 魔龍の魔法が完成する前にわたしの魔力を一気に注ぎ込んで完成させる。


「ツェリオ・ハルデリオール!」


 詠唱は最後の部分だけだ。長々と魔龍が詠唱していたのだから、それで足りる。

 そして、魔龍の上半身に巨大な火炎級が降り注いだ。


 並べた光の盾を戻りながら、もう一発発動させると、魔龍の頭が火炎球に包まれる。


「エレアーネ! 急いで戻りなさい!」


 ヨシノの指示が聞こえたらすぐにその場から逃げだす。わたしには見えなくても、ヨシノには反撃がいつ来るか見えているんだ。


 大急ぎで斜め下に向かってニトーヘンを走らせる。背後から魔龍の咆哮が聞こえ、目の前が真っ白になるくらいの強い光に包み込まれた。


「ミラー!」


 ヨシノが叫ぶと同時に、光が消え去る。

 何が起きたのか分からないし、指示に変更はない。真っ直ぐにヨシノのところに戻ると、後ろを振り返る。


「何? 今の? え? どうなってるの?」

「魔龍のレーザーブレス、あるいはフォトンブレスでしょうかね。どちらにせよ、私なら全反射できますけどね。」


 魔龍の頭のあたりはヨシノの魔法の鏡に覆われて、そこから光の柱がずっと上まで伸びている。

 よく分からないけど、魔龍の攻撃をヨシノが防いだってことで間違いないと思う。


 光が収まると、魔龍はさっきより物凄い勢いで吠えて、地団駄を踏み鳴らす。そして、尻尾を振り回し始めた。


「一発顔に入れて、少し下がりますよ。」


 あんなのに蹴飛ばされたらヨシノでも防げない。私の光の盾を並べても、一発で全部踏み砕かれてしまいそうだ。


 魔龍は二分くらい吠えながら暴れていたけど、いきなり静かになった。そして、背中から大きなヒレが広がりだす。


「マズイ! 空から攻撃する気です! 全力で嫌がらせを!」


 ヨシノが焦ったように叫び、ニトーヘンで走りながら総攻撃の赤の光をいくつも打ち上げる。わたしもそのあとに続いて走っていき、光の槍を魔龍の顔に目掛けて撃ちまくる。


 背中のヒレが紫に光りだしたときに、横手から巨大な槍が飛んできて、魔龍のヒレに突き刺さった。


「エレアーネ、アレをもう一発!」


 ヨシノの指示を待つまでもなく、わたしは魔法を撃った人たちのところに全速力で向かっていた。

 高階級の魔法は、再利用できる時間がとても短い。


 到着まで十四秒。いけるか?


 ニトーヘンから飛び降りながら、魔法の残りカスに魔力を注ぎ足し、魔法を無理矢理もう一回発動させる。


「いけええええ!」


 叫びながら魔法をコントロールすると、魔龍の右前足の付け根に真っ赤に焼けた岩の槍が突き刺さる。


「もう一発いきます!」


 杯に魔石を放り込みながらヨシノも飛び込んできて、もう一本の槍を背中のヒレの付け根にぶっ刺した。


「一旦離れますよ!」


 魔力を一気に使いすぎて頭がふらふらするけど、のんびりしてたら魔龍に踏み潰されてしまう。ニトーヘンに乗り、ヨシノと一緒に森の奥へと向かう。大きな魔法を使うと、一気に疲れる。わたしもヨシノも肩で息をしながら魔龍の様子を見る。


「これくらいで終わりません。体力はできるだけ回復しておいてください。」


 そう言ってヨシノは蜜菓子を頬張る。わたしも蜜菓子はいくつか持ってきている。ポケットから取り出して口に放り込む。疲れていると、蜜の甘さがとても美味しい。


 立て続けに強い魔法を食らって、魔龍はしばらくの間、吠えまくりながら悶えていた。長い首を下げて、頭を地面に下ろして呼吸を整えている、ように見えているところに、誰かが集中砲火を浴びせた。


 顔が地面まで下りてきていれば、余裕で射程範囲内に入ったんだろう。隙間が無いほどの火の槍、水の槍、岩の槍が撃ち込まれ、魔龍は絶叫を上げた。


「結構弱くない? もしかして大きいだけ?」

「意外と大したことないですね。これなら結構余裕かもしれませんよ。ですが、油断は禁物です。あの大きさは脅威です。」


 ヨシノも同じことを思ったみたいだ。痛くても辛くても頑張って攻撃するか逃げるかすればいいのに、そういうことは思いつかないみたいだ。


 しばらく頭を振り回していたと思ったら、ガバッと起き上がり、上を向いて大きく吠える。うるさいけど、うるさいだけだ。頭を上げられると攻撃が届かないのが困るけど。


 と思っていたら、魔龍の鼻先が眩しく光り、首を勢いよく振り下ろす。

 その瞬間、魔龍の頭は魔法の鏡で包み込まれた。


「電磁波放射である限り、電磁界遮断を突破できませんよ!」


 何を言っているのか理解できないけれど、ヨシノは魔龍の攻撃を読んでいたようだ。魔龍が首を左右に動かしても、鏡はそれに合わせて動く。


 光が消えて魔龍が首を垂れ、ギョベー、ギョベーと苦しそうに鳴き声を上げる。


「えい。」


 首が近づいてきたらやることは一つ。わたしは光の槍を連射した。

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