第13話 お塩、お塩はいかがですか!?
翌日、朝からキミサント商会へ行くと、塩の鑑定は無事終わっていたようで、商品として売り出すことに問題が無いことがハッキリとした。
塩の売価は末端価格で一キロで銀貨一枚ほどらしい。結構高い。
その七分の四が裕の取り分と決まっている。つまり、一キロで銅貨百十二枚が裕の懐に入る。
ただし、後日、税金を支払う必要があるらしい。
「七分の一を税金として領主様に払わなければならない。ちゃんと帳簿を付けておけよ」
ヤマナムに言われ、裕は頷く。
「近いうちに、いっぱい採ってきます。」
「待ってるよ。」
裕はキミサント紹介を後にすると、服屋へと向かう。
そろそろ注文していた服や靴ができているはずなのだ。
「おお、ヨシノさん。丁度いいところに来た。」
服屋の店員に招かれて奥に行くと、頼んでいた服は概ね出来上がっていた。あとは裾や袖の長さを詰めれば終わりということらしい。
試着して、長さを確認すると「一時間ほどで作業は終わる」と言われ、近くの店を見て回ることにした。
塩の納品のためには、入れて運ぶための容器があった方が良い。というか、無いと、何度も往復することになり、時間や手間が掛かりすぎる。
晴れていれば良いが、風が強かったり雨が降っていたりすれば、森の上を走ることはできない。
あちこちの店を見て回るが、ちょうどいいサイズの背負い籠というものは売っていないようだ。
聞いてみると、注文して作るのが普通らしい。
そんなお金はないし、仕方が無いので、竹かごは自分で作ることにした。
以前にいた町でも、竹細工はしていたし、売り物を目指すのでなければ、竹かごを作ること自体はそれほど難しくない。
――
必要な材料は、竹と紐。
紐は普通に売っている。手間を考えると、狩った方が早いだろう。
竹は、近くに生えているならば、自分で採ってきた方が良い。
今まで見た範囲内には竹林は見当たらなかったけど、まだほんの一部しか見ていない。
あまり行きたくないけど、南側は手付かずだし、どこかにあることを期待しよう。
森の植生調査も兼ねておけば、無駄足にもならないだろう。
よし、思い立ったら吉日、森へいこう!
いや、ダメだ、ダメだ。
その前に服を受け取って、今来ている服は神殿に返さねば。借りた物は返す。当たり前のことだ。
――
今着ている服もサンダルも神殿からの借り物だ。借りた物は返す。当たり前のことだ。
服飾店から自宅へ、そして神殿へとバタバタと走り回り、やるべきことを終えてから町の門へと向かう。今度こそ、竹探しだ。
東側から南へと森の様子をみていくと、意外とすぐに、緩やかな斜面に広がる竹林を発見した。
すぐにといっても、裕のスピードあってこそのものである。そもそも、町をでて四時間ほどは掛かっている。
裕の元々考えでは、数日はかかる想定だったというだけのことだ。
裕は地面に下りると、竹の根元にしゃがみ込んで、鋸を引く。二本、三本と次々と伐り倒していき、五本の竹を伐り終えると大きく伸びをする。
枝を払って紐で束ねると、五本の竹を肩に担ぐ。
太さ五センチはありそうな十メートル以上の竹はそれほど軽くはない。いくら竹が軽い材料とはいっても、伐採したばかりだと、一本二十キロくらいはある。
つまり、五本で百キロだ。重力遮断を使わなければ持ち上げることもできないだろう。
それを担いで平然と走っているのだから、裕は周囲からは怪力の子どもと思われているに違いない。
竹を入手したし、早速竹かごの製作に取りかかろうとしたんだけれど、ナイフが無いことに今更気付いてしまった。
どうしようかと考え込むが、裕にはナイフを作ることはできないだろう。買うしかない。
諦めの悪い裕は部屋の中を見回して気付いた。
「この槍と小剣を下取りに出せば、ナイフの三本や四本くらい買えるんじゃね?」
裕の視線の先にあるのは、ゴブリンのドロップ品だ。
斧、槍、小剣とある中で、槍や小剣は自分では使わないと判断し、売り払うことにした。
金物屋は以前に見つけている。
槍が一本と、小剣が二つ。合わせて金貨一枚と銀貨七十枚になった。
そして、ナイフが銀貨五十六枚。
どうしようかと悩み、結局ナイフ二本と銀貨五十六枚を受け取って店を出た。
家に帰ると、早速、竹細工の開始である。
鋸で適当な長さに切り、それを鉈で縦に細く割り、節の部分をナイフで平らに削る。
それを一晩乾かしてから、籠に編んでいく。
やる事自体はそんなに難しいことではない
三日かけて背負い籠が完成した。張り切って塩を取りに行くぞと気合いを入れるも、もう日が暮れかけている。
玄関を出たところで家の中に引き返していった。なんと意志の弱いやつだろう。
「岩塩は逃げません! 取りに行くのは明朝で良いでしょう!」
誰に向かって言い訳をしているのか、裕は部屋の中で一人喚く。
日の出とともに開けられた門を出て、朝日の注ぐなか、裕は森の上を駆けていく。
――
そういえば、今まで気にしていなかったけど、鳥が全然いないな。それっぽい鳴き声も聞こえない。
というか、こちらに来てから一度も鳥を見ていない気がする。
もしかして、この世界には鳥類というのが存在しないのだろうか?
――
色々と理由を考えてみるが、結局のところ何の根拠も確証もなく、考えても仕方が無いと、一旦思考を打ち切る。
もう、岩塩層の露出した崖は見えてきているのだ。
木を蹴り、地上から三十メートルくらいの高さにある岩塩層に取り付き、ふと、下に目を向けると、鹿らしき動物が塩を舐めているのが見えた。
――
あれ、鹿か? 鹿なのか?
なんかサイズ感がおかしくないか?
周囲の木が巨大すぎるから感覚が狂うんだよ。あれ、絶対、体長四メートルは超えているだろ。
ツノだけで二メートル近くあるんじゃないか?
あれって、食べたら美味いのかな?
いやいやいや、ここで狩るのは危険だ。他にどんな巨大獣がいるのかも分からない。
狩りをする前に、周辺調査は必須だろう。
それに、そもそもとして、獣を狩るのはハンターの仕事だ。『紅蓮』にも話を聞いた方がいいだろう。
今日は塩を取りに来たんだ。わざわざ危険を冒す必要はない。
――
今日のところは塩を採掘して終わりで良い。
そう結論付けて、裕は目の前の岩塩層に向かう。
鉈の背で岩塩を叩いて割り、籠へと入れていく。
裕の背負う籠は、自分が中にすっぽりと入ってしまえるほどの大きさだ。直径一メートルほど、深さも一メートルほどと竹かごにしてはかなりの大きさだ。
普通は耐久力が持たないが、裕の場合は重力遮断をしながら運ぶのが前提だ。中に入れた物が飛散しなければそれでいいのだ。
一時間ほどで籠いっぱいに岩塩を採掘し、裕は満足顔で町へと帰っていった。
キミサント商会へ持って行くと、呆れ顔で迎えられることになった。
「いっぱいって、どれだけあるんですかコレ。」
「ええと、ええと……、いっぱいです!」
店長ヤマナムの質問に、裕の答えは答えになっていない。
商会の倉庫で籠の中身を粗布に出して計量していった結果、銀貨にして六十一枚となった。
重量として百キロ以上あった計算だ。子どもが一人で運ぶ量ではない。商会の人たちが呆れ顔になるのも頷ける。
「毎日持ってきて良いですか?」
「そんなに要らんわ! というか、値崩れするぞ?」
能天気な裕に、ヤマナムは激しくツッコミをいれる。
彼の説明によると、一回の納品量が今回と同じくらいであるならば、二週に一度くらいで丁度いいらしい。
ただし、冬ごもりの準備期間は塩は品薄になるらしく、その時季にはもう少し多めに出してくれると助かるということだ。
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