魔法使いと夢を喰らうテイパー

「うまくいってるか?」

「ええ、悲しぐらいに順調よ」


 たくさんのビー玉が収まる瓶をつついて、私は使にそう答える。


「魔法使いさんこそ、次のビー玉はきちんとあるのから?」

「もちろん。じゃないとシュリが死んでしまうからね」

「……別に。私は大丈夫よ。これは他の困っているテイパーの為のものだもの」


 私はそう言いながら魔法使い……ジークの持つたくさんの透明なビー玉が詰まった瓶をひったくる。


「嘘つき。夢をとりに行った日は毎回飢えて飢えて苦しいくせに」

「ジーク」


 きつく睨みつけてみると、いつもならおちゃらけて引くはずのジークが、なぜだか今日は私の手首を掴んでくる。


「ジーク!」

「なあシュリ。実際限界だろ? お前、あと何年生きられる?」


 その言葉に、私は慌てて目を逸らす。

 気がつかれていた。大丈夫だと、うまくごまかせていると思っていたのに。

 沈黙が部屋を満たす。私が口を開かないのを悟ってか、ジークは一番最悪な強硬手段に出る。


「食べろよ」

「っ……! やっ……!」


 魔法を駆使して、手を捉えたまま口もとにビー玉を押し付けてきたのだ。


「……なあ、お前に感謝してるテイパーは大量にいる。同時に、お前がいないと生きていけないテイパーだって山のようにいるんだ。お前は、死ぬわけにはいかないんだよ。わかったら、とっとと食え」


 ジークはずるい。私の一番弱いところをついてくる。

 誰かのためになるという免罪符と、鼻腔をくすぐる甘い夢の匂いに、私は堪えきれず唇を開きそうになり、慌ててきつく閉じる。

 私は絶対に引かない。そう瞳で強く訴えると、ジークは私をじっと見つめた後に深くため息をつきながら私の手を解放する。

 自由になった手で慌てて口もとに当てられていたビー玉をむしり取る。


「……お前は、お前が生きるためにこのサイトを立ち上げたんじゃなかったのか」


 いつになく悲しげな瞳を向けられて、私はジークを直視できないまま囁くように答えた。


「そうだったけど、やっぱり私は耐えられなかったのよ。夢を奪うという行為に。今だって、依頼者がやっぱり止めたって言うのを期待してる。でも、他のテイパーの苦しみを取り除くために、私はやめないの」

「それは、お前の苦しみと同じだろ」

「そうね。けど、私はいいの。私は、我慢すればそれで」

「あっそ」


 そう言うと、ジークは、私に背を向けて行ってしまった。

 私はため息をついて、その背を追うように、約束をしていたテイパーのもとへ瓶を届けに向かった

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