第6話 天井裏
コンコン
「ん?」
次の日、八雲が部屋でゴロゴロしていると玄関の戸が鳴った。八雲は玄関まで行き、戸を開ける。
「あれっ?どうしたの?」
萌彩だった。小柄な萌彩が一人ぽつんと玄関前に立っている。
「一人?」
「はい」
八雲が辺りを見回す。玄関周辺に舞彩の姿はなかった。
「ちょっと気になったことがありまして」
「はあ・・」
萌彩は八雲の後について部屋に上がった。そして、部屋の中央辺りに立つと、あの幽霊が出て来た辺りの天井を見上げた。
「どうしたの?」
八雲が訊く。
「八雲さん、脚立か梯子ありますか?」
すると、萌彩が八雲を振り向いた。
「梯子?」
「はい」
「う~ん」
八雲は首を傾げ考える。
「そうだ、大家さんちにならあるかもしれない。訊いてくるよ」
「お願いします」
大家さんの家はアパートのすぐ隣りだった。そこへ八雲は走る。
「あったよ」
しばらくすると、八雲は、庭木作業用の一・五メートルほどの梯子を持って部屋に帰ってきた。
「どうするのこれ」
「あの、そこに立ててもらえます?」
「うん」
八雲は萌彩に言われた通り、部屋の端に梯子を八の字にして置く。
「これでいい?」
「はい」
萌彩は、梯子を上っていき、昨日幽霊が出て来た辺りの天板を手でさぐりだした。
「多分・・」
そして、萌彩は、これと思った天板を持ち上げ、体を伸ばし、天井裏に顔を突っ込むと、ペンライトで中を照らし、何かを探し始めた。
「あっ、やっぱり」
「何かあったの?」
八雲が気になって、下から一生懸命首を伸ばして覗き込む。が、当然その位置から見えるはずもない。
「これです」
すると、萌彩が、何かを見せたいように、脚立の上から八雲を見下ろした。それに反応して八雲も脚立に上がり、萌彩の横に並ぶと、一緒になって狭い穴から天井裏を覗き込んだ。
「これです」
萌彩が、持っていたペンライトで先を照らす。
「あっ」
八雲が思わず声を出す。そこには古い白いお札が、柱に立てかけてあった。
「何これ?」
「これは多分・・」
「多分?」
「祠ですね」
「祠?」
「はい、とても簡易的なものですが」
「祠って?」
「何かを祀っているんです」
「祀っている?あの幽霊を?」
「う~ん・・」
そこで萌彩は首を傾げた。
「違うの?」
「う~ん、そこはまだちょっと分かりませんね。ここに書かれている文字がとても古くて特殊なものなので・・」
萌彩はさらに首を傾げる。
八雲は、再びお札を見る。
「あんなものが天井裏にあったのか・・」
そこに何か不気味なものを感じた。
「ん?」
その時、顔を戻した八雲と萌彩の目が合った。その距離はとても近かった。二人は狭い脚立の上で、狭い天井裏の入り口に顔を突っ込んでいたため、かなり顔を近づけ体を密着させていた。二人は急に恥ずかしくなって、その狭い空間の中でお互いの体を離そうとした。
「あっ」
その時、無理に距離をとろうとした二人の乗っていた脚立がバランスを崩した。
「ああっ」
そして、脚立が倒れ、二人はバランスを崩し、脚立から落っこちた。
「きゃあっ」
萌彩が叫ぶ。二人は無防備な状態で畳に落っこちていった。
だが、先に落ちた八雲が丁度下になり、その後から落ちてくる萌彩を抱きとめた。八雲は抱き留めた勢いで畳に思いっきり仰向けに倒れ、その上に萌彩が乗っかるような形で萌彩は着地した。
「ふぅ~、大丈夫?」
八雲が萌彩に話かける。
「はい、大丈夫です」
萌彩は八雲のおかげでどこも痛むこともなく助かった。
「あ、ありがとうございます」
「い、いや、いいんだ」
ふと気づくと、二人は抱き合うような格好になていて、再び二人で顔を赤らめた。
「すみません、あの・・」
萌彩が八雲の上からあやまる。
「あの、あの、私・・」
萌彩が必死であやまろうと何か言おうとする。
「あ、あの」
すると、八雲が苦しそうに下から言った。
「はい?」
「早くどいてくれる?重い・・」
「あ、ごめんなさい」
萌彩は、慌ててすぐに八雲の上から下りた。
「大丈夫ですか」
「うん、いててて」
八雲は腰を押さえながら起き上がる。
「君はケガはない?」
「はい、私は大丈夫です」
萌彩は、そう答えながら、心配そうに起き上がった八雲に寄り添うように近づく。
「本当に大丈夫ですか」
萌彩が、八雲を心配そうにのぞき込む。
「うっ」
マジかで見る萌彩は、かわいかった。思わず八雲は、顔を赤くする。八雲の腕の中には、萌彩のその柔らかい体を抱き留めた時の感触がまだあった。
「どうしたんですか」
萌彩がさらに八雲を覗き込む。
「い、いや、なんでもない」
八雲は顔を真っ赤にして、顔を反らす。
「それにしてもあのお札はいったいなんなんだろう」
八雲は話題を反らして、萌彩に訊いた。
「そうですね。私も気になります」
萌彩が小首を傾げる。その様子がまたかわいかった。八雲はまたドキッとする。
「ちょっと、帰って調べてみます。私も初めて見るお札なので」
すると、突然萌彩はそう言って、すっくと立ち上がると、そのまま帰って行ってしまった。
「突然来て、突然帰っていくんだな・・💧 」
八雲は呆気に取られる。萌彩はかなりマイペースな人間だった。
「・・・」
その時、一人部屋に残された八雲の中に、何かちょっとがっかりしている自分を発見した。
「な、何を考えているんだ。相手は高校生だぞ」
八雲は自分にツッコミを入れるように一人言った。
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