第4話 丑三つ時
「・・・」
丑三つ時、暗闇の中、八雲を真ん中にして、左右を挟むように双子の萌彩と舞彩と三人が並んで座っている。
「・・・」
自分が依頼したとはいえ、八雲は自分の部屋で、少女二人に挟まれ座っている今のこの状況になんとも言えない違和感を感じていた。八雲はなんでこうなっているのか、今の自分がうまく理解できなかった。
「なんでろうそくなの」
八雲が訊く。部屋は電気を消し、六畳の真ん中にろうそくを乗せた皿が一つ置かれていた。
「この方が出やすいだろ」
八雲の左隣に座る舞彩が言った。
「そんなもんなの?」
「そんなもんよ。演出ね」
「演出が必要なの」
「幽霊といえばろうそくだろ」
「なんかいい加減だな・・」
八雲はやはり自分が騙されているのではないかと不安になってきた。
「出ないな」
座り始めてまだ十分も経っていないのに、舞彩は苛立つように言い始めた。丑三つ時にはまだ三十分ほどある。
「まだ早いだろ」
八雲が言う。
「あたしたちが待ってんだからさぁ。気を利かせて早く出て来いよな。まったく」
「無茶苦茶言うなよ。気を利かせて出てくるって、どんな幽霊だよ」
「まあまあ、落ち着いて」
八雲の右隣りの萌彩が、二人を穏やかになだめる。
「っていうか幽霊なんて本当にこの世にいるのか?」
「実際出たから自分で依頼してきたんだろ」
舞彩が八雲を睨むように見る。
「まあ、そうなんだけど・・」
しかし、この状況においてさえ八雲は今だ半信半疑だった。
「何かのいたずらとかさ、何かの自然現象とかさ」
「幽霊の世界は本当にありますよ。むしろ人間の世界の方が狭い世界なんです」
これには萌彩が答える。
「そうなの」
八雲が萌彩を見る。
「はい、異世界というのは世界を支える根本なんです。異世界の無秩序が世界の秩序を浮かび上がらせているんです。今あるこの世界は異世界の無秩序のほんの表面的な一つの表れにすぎないんです。人間の意識も無意識や感覚の世界があってなりたってるでしょ。それと一緒です」
「なるほど・・」
八雲は全然分からなかった。
「あの~、というか、憑りつかれてるってどういうこと?」
八雲は夕方からずっと気になっていたことをおずおずと訊いた。
「う~ん、とてもざっくり、かんたんに言うと・・」
萌彩は 人差し指を顎に当て、目を上に向ける。
「かんたんに言うと?」
「幽霊に気に入られたってことですね」
萌彩は、穏やかに言った。
「気に入られたの」
「はい」
「それをほっとくとどうなるの」
「う~ん、死にますね」
萌彩は、八雲の顔を見つめ、なんてことないみたいに真顔で言う。
「死、死ぬの・・」
「はい」
やはり、萌彩はそのかわいい丸顔で、何てことないみたいに言う。
「・・・」
八雲は、落ち着いた表情のままの萌彩の顔を見つめ返す。死ぬとかかんたんに言ってしまうこの子はいったい・・💧 八雲は、萌彩のキャラクターに戸惑う。
「引きはがすにはどうすればいいの」
「それは厄介だな」
舞彩が言った。
「厄介なの」
八雲が今度は舞彩の方を向く。
「かんたんにはいきませんね」
萌彩も続く。
「そうなの」
今度は萌彩の方を見る。
「一度憑りつかれると厄介なんだ」
舞彩が言う。八雲は再び舞彩の方を向く。
「・・・」
八雲は不安になる。
「でも、大丈夫ですよ」
萌彩が言った。
「ほんと」
八雲が顔を輝かせ素早く萌彩を見る。
「はい」
しかし、なぜ大丈夫なのかは言わない。
「ほんとに大丈夫なのか・・」
八雲はやはり不安になった。
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