2-1 肝胆相照
とある日、天気は晴れのち曇り。いつもの通学ルート、毎朝すれ違うおばさん、彼女を待っている彼氏。そんなどこにでもある平凡な一日がそこにはあった。そんな平凡な朝を迎えているのも関わらず、穏やかではない学校生活を送っているJKの姿があった。彼女は
「今日の授業マジだりー」「それなーサボらね?」「ありあり」
そんな一軍だと思われるクラスメイトの会話を聞きながら、自席に座った。なんで私の方が賢いはずなのに、あんなやつらより立場が下なのだろう。もういいや話にいこ。彗星は腕を枕にして突っ伏した。
「みんなーおはよう!」
「朝から元気だなー」
「ふふふ、まぁ元気なのは良い事じゃない」
彗星には人に言えない、いや理解されない秘密がある。それは、彼女だけの友達がいること。いわゆるイマジナリーフレンドである。この自分だけの世界、ここで友達と話すのが彗星の唯一の楽しみだった。
「あ、やばい!もう時間だ。また来るね」
「んーまたなー」
「いつでも来てね」
あんな一軍より私の方が充実してるでしょ。あんな私の事を分かってくれる友達がい
るなんて。私はそう一瞥していつもと変わらない、面白味のない授業を受けた。
昼休みになり友達のいない私は、教室で一人ご飯を食べていた。私は珍しく考え事をしていた。部活動だ。運動は得意とも不得意とも言えないが、運動部に入ろうと思っていた。なぜなら私は、手先がすこぶる不器用だった。無理して、文化部に入るより、平均的な運動部のほうがいいと思った。でも、運動部でも種類が多く選べなかった。私は頭を抱えていた。こんな時、優しくどうしたの?と声をかけてくれる人がいたなら、、あっちから来ないなら、こっちから行けばいっか。朝と同様にし私の世界に入ろうとしたが、一軍が邪魔をしてきた。
「今日カラオケいかん?」
「おおーありあり!誰誘う?」
「いつものメンバーでいいだろー」
「あ、すいせいちゃんもくる?」
「ギャハハハハハ あんな根暗な奴が来るわけねーだろ」
「そうだよね~ごめんねすいせいちゃん。さそちゃって」
「でも、俺らに誘われるのに感謝しろよ」
こんなの耳が腐ると思い、すぐに世界に入った。
「あーあ、俺らのせいでいじけちゃった」
「もう飽きたから、別の話しようぜ~」
こんな会話がギリ聞こえたが、聞こえないふりをした。
「ふ~やっと入れた~」
「なんだ遅かったな」
「心配したのよ~」
「ごめんごめん。ちょっと相談があるんだけどいいかな?」
「部活の事だろ?」
「来る前から考えていたわ」
「え!?考えてくれたの!?ありがとーー」
やっぱり私は幸せ者だ。あんな表面的な仲じゃない。私には心から理解してくれる友達がいた。
「そんで、こいつと考えたんだけどよーやっぱ、陸上部とかでいいんじゃねーか?」
「あなたは、運動の中でも走るのが得意でしょ?」
「で、でも陸上部には怖い先輩がいるって」
「何言ってんだよ。お前はもう虐められてるからかんけーねーだろ」
「それに、私たちもいるでしょ?」
「二人とも!ありがとう!!」
感謝をし一旦元に戻った。やっぱり私は幸せ者だ。噛みしめながら職員室に部活動届を出しに行った。
午後の授業の時ふと今更なことに気付いた。あの二人の名前が分からない。てか、多分ないのだと思う。お昼の時も思ったが、こいつって呼んでた気もするしなー今考えるか。午後の授業は何も聞かずに名前決めをしていた。
放課後になりすぐに家に帰った。部活は明日からだ。
「いい名前が出来たな~」
おもわず独り言を口にし、扉を開けた。
「ただいま~」
返事はない。それもそのはず、私の両親はどちらとも働いており夜遅くに帰って来る。実質独り暮らしみたいなものだ。でも、私は一人じゃない。家に帰りすぐに世界に入った。
「ん~また来たのかー」
「今回はどうしたの?」
「聞いて聞いて!二人のために名前を考えてきたの!!」
「名前なんてなくてもいいだろ別に」
「あらそんな事言って。本当は嬉しいんでしょ?」
「ば、ばか!名前なんてもらっても嬉しかねーよ」
「だ、だよね。名前なんてもらっても、、、」
「お、お前がどうしてもっていうなら、作られた名前が可哀想だしもらってやってもいいけどな。勘違いするなよ、彗星のためじゃないからな」
「ふふふ、素直じゃないんだから~ 私もありがたく頂こうかしら」
「わわっありがとう!じゃ、じゃあ発表するね!!」
じゃ~ん!とそんな緩い感じの効果音をつけて発表された二人の名前は、あんまり響いていなかった。それもそのはずその二つの名前は、スイセイとすいせい だった。
「おい、これじゃあ有っても無くても変わらなくね?」
「ええ、そうね。声にするときはどっちも同じ発音だから、呼ばれたってどっちが呼ばれてるか分からないわね」
「なぁ漢字彗星さん、何でこの名前にしたんだ?」
「え~だって二人ともまるで私にすっごく似てるし、二人とも私の大切な友達だからさ、自分の名前をあげたいなって思ったの!!駄目だった?」
「ううん。だめじゃないわ、とても素敵な名前。因みに聞くけど、どっちがカタカナの彗星なの?」
「そりゃあ、口が悪い方がカタカナでしょ!色々と尖ってるし~」
「く、口が悪いって私の事か!?」
「なんだ自覚があるじゃない」
「てか別に私は尖ってねーーー!」
こんな楽しい時間を過ごしていたら、あっと言う間に夜になっていた。結局は二人とも名前を使ってくれるらしい。呼ぶときは優しい呼び方で呼んだときは、平仮名でちょっと強く呼んだときはカタカナになった。スイセイちゃんは
「全部お前のさじ加減じゃねーか!」
なんて怒っていたけど、嬉しそうに見えたのは気のせいじゃないよね。あの幸せの時間を思いだし私はベットに入った。
~翌日~
やばいやばい、夢でもあの二人と話してたら幸せすぎて寝坊しちゃったよ。にやけ顔で走っていた彗星は曲がり角で人とぶつかってしまった。
「痛っ!」
「ご、ごめんね~大丈夫?」
その場で尻餅をついた私に手を伸ばし言ってくれた。
「だ、大丈夫です。こちらこそすみません。それでは」
人見知りな私は、自分で立ち上がりその場を後にしようとした時
「ちょっと待って」
いきなり手をつかまれた。私の反射で出た声を遮るように言った。
「君さ、いじめられてるでしょ」
「っ!? 」
いきなり核心を突かれ何も言えなかった。
「鳩が豆鉄砲を食らったような顔してるってことはビンゴだね。分かっちゃうもんなんだよね、いろんな人を見てくると。でも、リーチもしないでビンゴしたのは二回目くらいかな。」
何言ってるんだこの人は。彗星はいきなりの出来事に頭が追い付いていなかった。ただ恐怖、いや恐怖を通り越し気持ちが悪い、そんな状態に陥っていた。そんな恐怖心を超えてしまったため、彗星の安全装置は作動しなかった。
「おや、こんな事を言われて逃げないのは四人目くらいかな?珍しいね~ お姉さん嬉しいな~」
ただ足に接着剤が付いていたかのように動かなかった私に
「逃げろ!」
声が響いた。でも、この声は私にしか聞こえない。この声のおかげで正気を取り戻した私は、全速力で走りその場から逃げた。
「あれれ~言ったそばから逃げられちゃった。足速いな~陸上部かな?まぁそんなことはどうでもいい、お~い君の学校に今日スクールカウンセラーとして行くから待っててねー」
逃げてるのに必死な私の耳にも、最後のセリフは聞こえた。あいつには会わないようにしよう。そっから走ったおかげで、学校には間に合い特に何もないまま昼休みになった。そうだ、今日の朝の御礼言わなくちゃ、そう思い急いで会いに行った。
「スイセイちゃん、今日の朝はありがと~」
「ああ、大丈夫。あいつこの学校に来るって言ってたよな?関わらない方がいいと思うぜ。なんだかあいつは気味が悪い」
「ええ、そうね。私も嫌な感じがしたわ」
「う、うんやっぱそうだよね」
朝のあの人の会話が終わり、私たちが雑談をしようとした時
ピンポンパンポーン
「1-1暁彗星さん 相談室までお越しください」
「彗星、なんか心当たりはあるか?イジメアンケート書いたとか」
スイセイちゃんが聞く
「いやいや、そんなもん書いても意味がないから書いてないし心当たりなんてもってのほかだよ」
「それは、おかしいわね、、、」
「相談室ってところが、そうか!あいつだよ、朝に話していたあいつが呼び出してるんだよ」
「いやいや、何で私の名前知ってるの?」
「た、確かにその説明はできないけど、、」
「私もあの人だと思うわ」
すいせいが続く
「だからあなたは行く必要はないわ」
「う、うん分かった。二人を信じるよ」
そろそろお弁当を食べようと、元の世界に戻った。
「彗星ちゃん~まさか俺たちの事言ってないよな~」
一軍が話しかけてきた。あんなことしといて何にビビってんだか。
「はなしてないよ」
私は小さな声を絞り出した。私は所詮、内弁慶。だから、心の中でしかイキれない可哀想な子。だから、なるべく怒りに触れないように言葉を吐き出す。
「だよな~彗星ちゃんは大事な友達だもんな~」
「友達に裏切られたらたまったもんじゃないしな」
「おい、もし言ったら体でな」
「いくら可愛いからってやめなよ~」
「なんだよ、お友達と話してるだけじゃねえかよ」
「ちがうよ、こいつ彗星に嫉妬してるんだよ」
「ギャハハそれはごめんな~」
そんな事を言って、元の場所に戻って行った。もはや、何も思わなかった。私は何もなかったかのように、お弁当箱をとりだそうとした時
「やあ、ここのクラスに暁彗星ちゃんはいるかい?いや、いるはずだ。あ、いた」
まさかの本物が登場した。朝の事を思い出す、嫌な朝。あんな一軍の奴等よりも嫌で気味が悪い。私は二人の言ったことを守り反対側の扉から急いで飛び出した。
「おいおい、こんな嫌われてるとはね。まあ、みんな最初は私のこと嫌いなんだけど。それでも、やっぱ傷つくんだよね~」
朝とは違い追いかけてくる。こんな形で校内鬼ごっこという夢を実現したくなかった。てか、案外早いし普通に廊下走ってるんですけど。
私が後ろを確認しながらカーブを曲がろうとしたところ、ドスン またぶつかった。
「ごめん大丈夫か?って同じクラスの暁じゃん」
「誰だか知らないですけど、すみません」
逃げてる私は、急いでその場を後にしようとしたが
「彗星ちゃん、もう逃げるのやめなよ。そろそろ腹立ってきたぜ」
「よく知らんがこっちだ」
ぶつかった男の子に手を引っ張られた。
「う、うわっ何してるの!?」
「逃げてるんだろ、ならいい場を知ってる」
そう言い、どっかの準備室に入りそして、鍵をかけた。
「多分ここなら大丈夫だ」
「あ、ありがとう。どこ?ここの教室」
「ああ、ここは俺の親友が使うの許可されてる準備室なんだけど、俺はたまにここでお昼食べるから、鍵は俺が持ってるんだよね」
「そうなんだ」
何ものなんだこの人と思いつつ、一息つく
「そっちこそどうしたんだ?学校で逃げることなんてあるか普通」
「えーとそれはね」
私は助けてもらったお礼に、あの二人の事は伏せて話した。
「そ、それはやばいな。ってか、暁っていじめられてたのか、、、ごめん気付けなくて」
「ううん、大丈夫だよ 慣れてるし」
「慣れって言っても、慣れていい奴とダメなやつがあるだろ」
「そうは言っても、どうしようもないし」
「そういうやつらは案外ビビりだから強気に出ればいいんだよって言っても簡単じゃないけど。そうだな、でも俺がいるからさ俺が見ているところでは止めるよ」
「いいよ、そんなことしなくて。巻き込んじゃうよ」
「何言ってんの、友達がいじめられてるの見て止めない奴はいないだろ」
「と、友達?」
「え、あー違ったか?」
「いや私、友達なんて初めてだから」
「そ、そうか まぁ何でも言ってくれ出来る限りの事ならするからさ」
「うん、ありがとう。じゃあ、一個頼みがあるんだけどいい?」
「何でも言ってみろよ」
「君の名前教えて?」
「おおい、マジか、、、」
そんな会話を宇津木くんとしてたら昼休みが終わった。あの朝の人とはもう関わることはないし友達もできた。あの二人に報告しよう!良い一日だった
蛙手の花 詩乃ルチア @ruchia_utano
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