第12話 ゴールとその先へ

「HAB作戦!?」

らんと彗星が口をそろえて言った。

「そう。HAB作戦。走りであんな奴ら倒しちゃおう作戦の略称だ。」

俺が自慢げにそう答えると

「いやいや、何の略称かを聞きたいんじゃなくて、内容を聞きたいんだけど。」

彗星に冷たく返された。

「まぁ、落ち着き給え。今から説明する。」

「まず、星宮らん!」

俺が大きな声で言った。

「は、はい!」

いきなりでびっくりしたのか、声が裏返ってた。

「てか、場所移動しない?」

これからっていう雰囲気を壊した彗星だった。


「コホン、それではもう一回言うぞ」

俺らは近くの公園の休憩所のベンチに座り、これからを話そうとしていた。

「らん。君に覚悟はあるか?」

俺はいつもと違った、真面目な口調で聞く。

「当たり前です!このままやられっぱなしなんてむかつきますよ!あんなの!あー今思い出しても腹が立つ!」

思ってた以上の怒りに若干引きつつ、話を進めた。

「ならまず、陸上部を辞めろ!」

この言葉に、最初に反応したのは、らんではなく彗星だった。

「どーゆーことよ!仕返しがしたいのに、何でやめなければならないのよ。ほら、らんも何か言って!」

らんと反論しようとした彗星だったが、らんの頭からは湯気が立ち上っていた。

「セ、先輩どういう事ですか?ホントニイミハアルンデスヨネ?」

混乱の中質問したらんの言葉は片言になっていた。

「あたりまえだろ!?俺が何の意味もなく辞めろなんて言わないよ。とりあえず、今から説明するからちゃんと聞いてろよ」

「らんに部活を辞めてもらうのは、新しい部活に入ってもらうためだ。」

「先輩!私は陸上一筋ですよ!」

「だろうな。だからこそ陸上部に入ってもらうんだ。」

「鈴燈?さては頭おかしくなった?病院に行く?」

「あーそうだな。具体的に言えば、陸上じゃなくて、陸上だけどな。」

この言葉を聞いても、らんは全く分かっておらず頭の上に?マークを並べていた。

「ま、まさか鈴燈、同好会を作って大会に出るつもり?」

「おー彗星は察しがいいな。エントリーはまだのはずだ。だから行けるだろ。」

「締め切りは、明日までよ!そもそも同好会設立にはメンバーは五人必要なのよ。しかも、顧問の先生も必要だし、不可能に近いわよ。」

「ああ、そうだな。不可能に近い。だけど、それがらんを助けることの言い訳にはしたくない!ゼロではないんだ。しかも、その問題も全部解決済みだ。」

「そっか、悪かったわ。最後まで話を聞かなくて。でも、早く言いなさいよ!」

「問題がないからこの作戦なんだろ?」

俺が挑発的に言うと、彗星がムッと顔を膨らませてブツブツと文句を言っていた。

そんなやり取りをしていると、沸騰していたらんが戻ってきた。

「それって、また先輩と陸上の練習とかが出来るってことだよね!?」

「ああ、そうなるな。」

「ちょ、ちょっと待って。私、入るって言ってないんだけど!?」

「え、彗星先輩入ってくれないんですか?まーそうですよね、先輩は部としての大会もあるし、、、」

らんは下を向いて悲しげに言った。それを見た、彗星は頭をかきながら

「あーもう!分かったわよ!入るけど、可愛い後輩のためだからね。あんたの作戦に納得したわけじゃないんだから!」

そんなテンプレなセリフを言った。

「彗星先輩ってツンデレだったんですね。」

「まー深い理由があるからなぁ」

この変な返しに、らんはまたしても?を植え付けていた。

この会話が聞こえていた彗星は顔を真っ赤にしながら言った。

「とりあえず、メンバーと顧問に合わせてほしいんだけど」

「明日紹介するよ。一人のメンバーと顧問の先生は許可取れてないけど何とかなる自信があるから大丈夫」

「ふ~ん、ならいいけど。これで無理だったら殴るからね」

この後も、いろいろ話したが作戦の事は話さなかった。久々に人と話す。そんな日常的なことをして過ごした。親には、休んだことで怒られた。


~翌日~


放課後に三人で天文同好会の部室にいた。

「何でここなんですか?先輩」

「それはね、らんちゃん。こいつの唯一の男友だブッフ」

「おい、何笑ってんだよ。唯一じゃないし!俺友達とかいっぱいいるもん」

「あははは、鈴燈先輩。私がいますからね。」

まさかの後輩に同情された。泣きたい。

「アハハハハハっ後輩に同情されてるんですけどww」

なぜこいつがアイドルって言われてるのか理解が出来ない。こいつが口を開けて、笑ってる所の写真をばらまいてやろうかと考えたが、よくよく考えるとただのファンサでしかなかった。

「ごめ~ん、遅れた。」

笑いながら身長が170後半ある男が入ってきた。

「なんでこの部活の奴が一番遅いんだよ。」

「ははは、なんか後輩の子に囲まれちゃって。」

「すごい、モテるんですね。」

「ああー君が例の後輩ね。鈴燈から話は聞いてるよ。これから、陸上同好会としてよろしくね」

「え、先輩が言ってた人ってこの方ですか。こんな人気のありそうな人と繋がれるなんて」

らんが失礼にも俺に目線をやる。

「アハハハハハっまた後輩に憐みの目を向けられてるよ。プークスクス」

「そんなこと言わないで、こいつは俺の唯一の親友だからさ」

「す、すみません。ってか、いまさらですがお名前は」

「そういえばそうだね、僕の名前は四垂耀司しだれようじ

「こいつもね私と同じで、アイドルって言われてるんだよ~」

「た、確かに!前にりらちゃんが言ってた気がします。」

そうらんが言うと、掃除ロッカーから「ゴンっ」と音がした。

「え?怖いんだけど」

らんが掃除ロッカーの方を見て言った。

「う~ん、バレルのも時間の問題だから出てきて大丈夫だと思うよ」

「え!?鈴燈先輩はこのことを知ってるんですか?」

「うん、この教室に入った時から気付いてたよ。僕が仕組んだわけじゃないことも言っとくね。耀司も気付いてただろ?」

「さすがにね。この教室はさ、そんなに使われないから常に鍵がかかっていて清掃の時間も掃除されないんだよね。だから普段部員の僕が掃除をしなくちゃいけないんだけど、僕は掃除が嫌いでねロッカーなんて普段触らないんだよ。ずっと触ってないと埃がたまるはずだろ?でも、ロッカーの表面は凄く綺麗になってる。多分最初に侵入したとき手形とかがついちゃったんだろうね。だから、その手形が分からなくするように、表面の埃をふき取った。それに気づいた僕と鈴燈は中に誰かが隠れてると思ったわけ。」

「なるほど。でも、普段鍵がかかってるなら入れないですよね?」

「この天文室は天文同好会の部員しか鍵が借りられないルールになってる。でも、顧問の先生に言えば全員借りれるんだよ。」

「ど、どうしてですか?」

らんが気になる答えに固唾を飲み込んだ。

「その先生はお年寄りのめっちゃ優しい先生だからです!」

「えええええええええええええええ!?」

変化球すぎる答えに思わずらんが叫んだ。

「ま、そういうことだ。もう出てきて良いよ」

鈴燈がそう言うと、ロッカーから一人の女子が出てきた。その女子を見たらんが思わずその子の名を口にした。

「りらちゃん!?どうしてここに」

「わ、わたしどうしてもらんに謝りたくて、、」

「どうしてここが分かったの?」

「それはらんが授業中に寝言で、放課後天文室って言ってたから」

「いや、変化球度合を更新してきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」とこの二人以外の三人が心の中で突っ込みを入れた。

「でも、どうして今更、、、」

赤面したらんが言う。

「確かに今更かもしれない。もう嫌われてるかもしれない。謝ったとしてもこの声は届かないかもしれない。でも、どうしても謝りたかった。酷いことをしてごめんなさい。」

その言葉を聞いたらんは、りらに近づいた。りらは頭をあげ近づいてきたらんと目を合わせた。

「りらちゃん、、、、」

パシンッッ 部室に音が響く。らんはりらの頬に平手打ちをした。

「これでお相子ね。親友なら痛みも一緒が良いからさ。」

りらは尻餅をつき泣き始めた。平手打ちされた痛みでだろうか、許してくれた安堵感か、多分違う。親友がまだ親友だと思ってくれたこと、再び親友って呼んでくれた事に涙を流していたんだろう。それは絶望ではなく希望の涙だった。

「よっし!これでメンバーがそろったな」

鈴燈が場を仕切った。

「ま、まさか先輩。りらちゃんが加入することしってたんですか!?」

「知ってるわけないだろ。ただ、らんのことだから親友の一人くらいいると思っただけだよ」

「かっこつけてるけど、多分偶然よ。」

「おい、彗星!余計なことは言うなよ」

偶然なんて先輩は言うけど、こうなることが分かってた気がする。本当に先輩は凄いなぁ、私も作戦頑張らないと!

「で、顧問問題は大丈夫なんですか?」

りらが聞く。

「これこらだけど、大丈夫。じゃ、俺はこれから交渉しに行ってくる」

そう言い残し、教室をビューンっと飛び出していった。

五分も経たない内に一人の先生を連れて先輩が入ってきた。

「お待たせ~交渉成功です!!」

「早すぎて待ってないわ。あんたどんな卑怯な手を使ったの?」

「いやいや、卑怯なことはしてないよ。前に部活に入れって言ってきたから、部活作るから顧問やって。そうしないと、一生入りませんって言っただけだよ」

「それを、卑怯って言うんだよ!ってかお前怖すぎ」

「ははは、鈴燈ならそんなことだと思ったよ」

「りんどう君、さすが!やっとこれで作戦開始だね」

「ああ、やっとスタート地点だ。さあゴールに向かって走るぞ」

この場にいた人はみんな作戦の話で気付く人はいなかったが、らんは先輩呼びから、前の呼び方に変えれて喜んでいた。

この日から毎日練習が始まった。この同好会は正式には認められているものの、できたばっかりで尚且つ、いきなりできたこともありグラウンドが取れなかったのでみんなで近所の競技場を借りたり、学校の周りなどを走り練習していた。この同好会発足は学校でもかなり有名になった。あの三人組も勿論反応を示してきた。

「彗星ちゃんさ~同好会入ったんだってね。あんたあんまり舐めたことしてると分かってるよな?」

「やめなよ~麻里ーこいつは私達には逆らえないよ。一年前の事もあるしね。」

「三人の先輩方安心してください。私のおかげで、リレーは勝てると思いますが今のままだと仕返しされますよ?それに、一年前の事を後輩に伝えても多分無意味です。信頼貯金について教えてくれたのは先輩たちですよ。あと、私をいじめたとしても面白くありませんよ。私には二人の姉妹がいますから。」

こんな言葉が帰って来ると思わなかったのか三人は何も言わなかった。

「私たちがあんな同好会に負けるなんてよく言うじゃねえか。面白くなってきた。勝ってさらに心をぼろぼろにしてやろうぜ」

「一回負けたお前がよく言うぜ」

「由里でも次言ったらぶっ飛ばすからな」

「はははごめんよ。あいつらは多分一回でも勝ちに来る。その勝負に全力で来る。だからその全力を潰す。」

「私に走らせてくれよ。タイム測定の時のリベンジをしたい」

「何言ってるんだバカが。リーグで買った奴が決勝レースで走れるんだぞ。私たちは確実。だから三人で表彰台を独占するってことだよ」

「さすが由里ね。当日が楽しみだわ」


~大会当日~


「らん、緊張はしてないか?」

「やだな~りんどう君。私は緊張なんてしないよ。あんなに練習したからさ、きっと大丈夫」

「そうだよなごめん。杞憂だった」

確かに、この大会までの期間らんは死ぬ気で練習をしていた。だからこそ勝ってほしいものだがそれは本人が一番思っていること、だから、上手く言葉を掛けられなかった。

「それじゃあまずは予選だね。まずはここを超えないとね」

「耀司先輩もありがとうございます!」

「ふふっいいんだよ、面白かったしね」

「それじゃあ予選行ってきます!」

予選では成長をすっごく感じられた。一位だったので、決勝に進出できた。嬉しかった。でも、それ以上に緊張が私を包んだ。みんなが」多分」お祝いをしてくれてるんだと思う。でも、なんにも聞こえない。無視されてた時と違って本当に独りになったみたいな。こんな不安と闘っていたら、決勝が始まろうとしていた。控室で待っている時も不安と闘っていた。そんな私に話しかけてきた人がいた。

「おい、久しぶりだな。あの教室以来かってあれ?返事がないじゃん!もしかして緊張してるのかな?まぁそうだよね。せっかく練習に付き合ってもらって、負けましたじゃ顔合わせなんてできないもんね。アハハハハハ」

恐らくバカにしていたんだろうが、なにも聞こえない私にはノーダメージだったが、不安の攻撃はまだ続いていた。

「選手は入場してください」

アナウンスが流れた。

「そんじゃあな~精々頑張れよ。タイム測定の時と同じだと思うなよ」

思いっきり深呼吸しても、頬をビンタしても心臓は暴れることを辞めない。明らかにガッチガチの私の肩を誰かが叩いた。彗星先輩だった。

「らんちゃんがいっぱい練習してきたのは私も知ってる。負けないから。私はあなたを一番のライバルだと思っているわ」

その言葉はすんなり入ってきた。私の心臓を落ち着かせた。泣き止まない赤ちゃんをあやすように。入場し、「On your mark」の声を聞きスターティングブロックに足を掛ける。いつもの間隔、いつもの足の位置。よしいつも通り。

「SET」パンッッッ

始まった。全力で走っていく。ただの直線の勝負でもそれぞれのレーンにそれぞれの思いがある。でも、だからと言って負けるわけにはいかない。私は、負けたくない。憧れの人がライバルと言ってくれた。だから私の全力をぶつける!正直、あの三人は眼中になかった。あったのはライバルへの対抗心と走ることの楽しさ。もうゴールは目の前、自分の順位は分からなかった。あ~あ、もう終わっちゃうのか。さっきまであんなに緊張してたのが嘘みたい。羽が生えたみたい。絶対に負けない!ラストスパートを一気にかけた。

「はぁはぁ、順位は!?」

酸素が足りないのか、ピントがちゃんと合わない。曇りが溶けて目に溶け込んできたのは、二位この文字だった。

「勝てなかったか~」

そう呟き、佇む。悔しくはない、全力を出し切った結果なのだ。すぐ、彗星先輩のところに行き声をかけた。

「優勝おめでとうございます先輩!」

「ふふっありがとう。いい勝負だったね」

「また闘いましょう」

「その時も私が勝つけどね」

「いいえ、みといてください」

私達がこんないいライバルみたいな掛け合いをしていると、声が聞こえた。

「こんな結果嘘よ!」

由里先輩だった。あの人がこんなに取り乱すのは珍しい。

「由里の言う通りだ!なんかの不正があるはずだ!」

「審判の人、なんかないの?由里が三位なんてありえないわ」

麻里先輩と真紀先輩も抗議していた。

「結果に不正はありません。公平です」

審判の人が告げる。

「ありえないだろ!いい加減にしろよ!」

麻里先輩が審判に手を上げようとしたが、麻里先輩がそれを止めた。

「やめて、麻里。私達には信頼があるのよ。また、あいつの心を別の形でおればいいだけ」

その後は特に何もなく一日が終わった。みんなが準優勝をほめてくれた。生きてるなって感じた。おばあちゃんも見てるかな?私、みんなと駆け抜けて、やっとスタートラインに立てたよ。


~翌日~


「あの日家に帰ってから、両親と仲直りしたんだよね」

「それは良かった。そういえば今日表彰式でしょ。何か一言、言わなきゃいけないらしいけど、どうするの?」

「それはもう決まっているから、楽しみにしてて」

昼休みの表彰式。各教室にあるテレビで放送される。まず彗星先輩がそこそこ真面目なことを言っていた。多分、鈴燈先輩から台本もらったな。らんの番が来た。

「みなさんこんにちは。私の一言は長いことを先に言っておきます。実を言うと、私は、麻里先輩、真紀先輩、由里先輩にいじめられてました」

しーんっと静まり返る各教室。先生たちはざわざわしている。

「あの優秀な三人がいじめなんてするわけないと皆思うかもしれません。先生も信じてくれませんでした。自殺も考えました。でも、私には味方がいた。一緒に悩みを背負ってくれる人がいた。だからこそ私は負けませんでした。確かに証拠もありません。なのでこの話は信じる方だけ信じてください。もしあなたが悩んでいたら、まずは周りを見たください。きっと味方がいるはずです。以上で終わりです。ご清聴ありがとうございました」

それからは、先生達が陸上同好会のメンバーに聞き込みをしてきたりと大変だった。

ほかの人は全員いじめに加担していたので、この話はみんなが信じた。

みんな謝ってくれた。私は、次の日からは前の時と一緒のようにしてくれればいいといった。だから、今は皆と会話をしている。あの三人組は信頼を失い、学校を辞めたそうだ。噂では、三人ともお金持ちらしいから何とかなっているとかなんとか。

陸上部に戻り、みんなに感謝もされた。悪い文化が無くなるって。なんだか、一生分謝られたし感謝された日だった。りんどう君にはお礼はいいと言われた。あれからは、毎日りんどう君と会話をしている。私の毎日の楽しみだ。やっとここから私の学園生活が始まる。彗星先輩、私は負けません。陸上も恋愛も!

そう決心し、見上げた空は快晴で雲一つなかった。

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