《追章》その31:波乱の男子会2


 何故かポルコさんが〝光の英雄〟ことクラウさんの恋のライバル(?)になったことはさておき。


 俺たちは食事をともにしつつ互いに近況を報告し合っていた。


 が。



「お前はいいよな……。嫁がキレてても別の嫁が癒やしてくれるんだからよ……」



 はあ……、と酒気を漂わせながらアガルタが肩を落とす。


 なんかいつの間にやら愚痴大会みたいになってるのは気のせいだろうか。


 まあ交流会なのでそれでも別に構わないのだが……。


 しかしまたラマさんと何かあったのかなぁ……。


 ちなみに〝ラマさん〟というのはアガルタの奥さんで、彼が黒人形化して竜人の里を襲った際、守人たちを率いて迎撃に現れた白銀の竜だった人である。


 アルカのような雰囲気を持つ女戦士然とした美女だったはずだが、あの時も強烈なビンタを見舞ってたからな。


 確かに怒らせたら怖そうだけど……。



「でもラマさんはお前が側にいてくれればそれでよかった人だろ? お前だって今は里にいるわけだし、そんなキレるようなことがあるのか?」



「まあな……。つい先日の話だ……。里の若い女連中を鍛えていたんだが、そいつらが妙に俺に懐いちまってな……。里一番の戦士である俺の子を産みたいとか揃って言いやがるから、俺もちっとばかしいい気になっちまって、〝まったくしょうがねえやつらだな。ラマには内緒だぜ?〟つったら後ろに嫁がいた……」



「うわぁ……」



 ずーん、と暗い顔で俯くアガルタに思わず俺も顔を引き攣らせる。


 うちは一夫多妻なのでお嫁さんたちの許可が出ればそういうこともあり得るのだが、竜人は基本的に一夫一妻だって言ってたからな。


 この落ち込み様を見るに、恐らくは半殺しの目に遭ったのだろう。


 と。



「やれやれ、これだから節操のない人は困るんです。女性はもっとデリケートに扱わないと」



「まったくですな」



 むふん、と揃って肩を竦めるのはカナンとポルコさんだ。


 そんな彼らを半眼で見やった後、アガルタは嘆息して言った。



「……はあ。童貞どもは楽でいいな……」



「だ、誰が童貞ですか!?」



「そ、そそそうですぞ!? い、一体何を根拠にそんなことを!?」



 あきらかに動揺している二人を今度はクラウさんが宥めに入る。



「まあまあ二人とも落ち着いて。何も恥じることはないじゃないか」



「「……」」



 何言ってんだあのイケメン……、みたいな顔で見られ、クラウさんがあははと苦笑いを浮かべる。


 だが彼の口から語られたのは衝撃の事実だった。



「安心してくれていい。ここだけの話、実は僕も女性経験はないんだ。そういうことはただ一人、本当に愛する女性とだけしたいと思っていたからね」



「「!」」



 その瞬間、唐突に仲間意識が芽生えたのか、二人がささっとクラウさんの隣に移動する。


 そして強力な後ろ盾でも得たかのように顔に余裕を戻して言った。



「やれやれ、あなたたちもこの彼を見習ってほしいものですね」



「まったくですな。一夫多妻だの、奥方さまがいらっしゃるのにほかの女性にうつつを抜かすだの、論外もいいところですぞ」



「「……」」



 いや、そういうあんたは人の嫁に手出そうとしてただろ……。


 何言ってんだあの人……、と俺が胡乱な瞳をポルコさんに向けていると、まさかのヨミがこのしょうもない話題に入ってきた。



「くだらん。交配の有無で優劣を競うなど愚かしいにもほどがある」



「「「「「……」」」」」



 そ、そんな真顔で言われても……、と揃って酔いが覚める俺たちなのであった。


 てか、恐らくあいつも童貞なんだろうけど、この有無を言わせない圧倒的強者感は一体なんなんだろうな……。


 あんな強い童貞見たことないわ……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る