《追章》その9:真の聖女
それはイグザがイグニフェルさまに呼ばれて不在だったある日のこと。
あたしたちはいつものようにとりとめのない話に花を咲かせながら食堂で昼食を摂っていた。
やれ復興先でのセクハラが多いだの、とっちめてやったら〝もっと叩いてくれ〟と変な性癖に目覚められただの、そんなやつらが列を作って復興が進まないだのと本当にどうでもいい話ばかりだったのだが、まあそれだけ世の中が平和になったということなのだろう。
と、それはさておき。
食事の最中、ふとザナがこんなことを言ってきたのが全ての始まりだった。
「ところで、私たちの中で〝最も聖女らしい人〟って誰なのかしらね?」
「ふむ、それは聖女としての職務に忠実な者という意味か?」
「というより、〝聖女と言えばこの人〟みたいな感じかしら? 現時点で〝救世主〟や〝英雄〟が誰かって言われたら、きっと皆真っ先にイグザを思い浮かべるでしょう?」
「なるほど。つまりイメージのお話ということですね? でしたら――」
マグメルが全員を見渡した後、にこりと微笑んで言った。
「私ですね」
『おい』
当然、あたしを含めた全員から突っ込みが入る。
てか、なんなのよその自信に満ちた微笑みは!?
外見的に満更間違ってないから余計腹立つじゃない!?
いっつもえっちなことばっか考えてるくせに!?
「あら、でも〝神秘的〟という意味で言うなら私だって負けてはいないと思うわ。現に謎の占い師として今まで活動してきたわけだし」
「そうだそうだ! 言ってやれ、ババア!」
「……次〝ババア〟って言ったら殺すわよ、あなた」
額に青筋を浮かべてドスを利かせるシヴァだが、そんな彼女の睨みなど気にも留めず、オフィールは言う。
「つーか、〝聖女〟ってのは魔物やら悪人やらをぶっ飛ばして世に平和をもたらすつえーやつのことだろ? なら相応しいのはあたしじゃねえか」
「ふむ、確かにイグザの存在に埋もれてはしまったが、元来は我ら聖女や聖者こそが〝救世主〟と呼ばれる立ち位置にいたはずだ。であれば民たちも強き者こそが真の聖女として相応しいと思っているのではなかろうか」
私のようなな、と不敵に続けるアルカディアに、当然あたしたちは半眼を向ける。
問題はその強き者が困ってる人とかガン無視で武術大会に出まくってたってことなんだけどね……。
と。
「はい」
『?』
そんな中、ティルナがすっと手を挙げて言った。
「聖女が神秘的で特別な存在なら、人魚と人の間に生まれたわたしが一番相応しいと思う。そこそこ腕も立つし、容姿も端麗」
『……』
いや、自分で〝容姿も端麗〟とか言っちゃったわよ、この子……。
たぶんイグザに可愛い可愛い言われて自信持っちゃったんでしょうね……。
まああたしも〝絶世の美女〟とかよく言ってるんだけど……。
「……やれやれ、これじゃ埒が明かないわね」
「ふむ、そういえばお前は何も主張しないのだな?」
意外そうに小首を傾げるアルカディアに、ザナは「当然でしょ?」と肩を竦めて言った。
「だってイグザの隣に並べるのは最初から私しかいないもの」
『……』
その場にいた全員が〝あ、そうですか……〟みたいな顔になる中、あたしは言った。
「っていうか、あたしが教えられてきた〝聖女〟って、強さと慈愛の心を兼ね備えた清廉にして潔白な美女のことだった気がするんだけど……」
だからあたしもわざわざ猫被ってまでそこを目指してきたわけだし。
「そうか。それは残念だったな」
「いや、どういう意味よ!?」
てか、本気で残念そうな顔するのやめてくんない!?
まるであたしが残念な人みたいじゃない!?
そう異議を唱えるあたしだが、何故かアルカディアを含めた全員があたしに対して残念そうな視線を向け続けていたのだった。
いやいやいや!?
あたしも確かに残念かもだけど、あんたたちも大概残念系女子だからね!?
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