《追章》その8:アルカディアの帰郷2
アルカのご両親に結婚諸々のご報告をするため、俺は彼女の故郷であるアムゾネシア近くの村――カウカスを訪れていたのだが、見事に激高したお父さんに襲いかかられていた。
そりゃ聖女として泣く泣く旅に送り出したはずの大事な一人娘が、いつの間にやら見ず知らずの男と結婚していた上、子どもまで作ってその男ともども帰ってきたのだ。
当然、父親の立場からすれば「ぶっ殺してやる!」と大剣片手に襲いかかってきてもおかしくはないだろう。
こういう場合、普通は男として彼の制裁を甘んじて受け入れるべきなんだと思う。
べきなんだとは思うのだが……。
「いてえ……」
やっちまいました……。
「す、すみません!? つい反射的にカウンターが……っ!?」
ぐったりと地面に横たわっているお父さんに、俺は全力で土下座謝罪をする。
いや、だっていきなり筋骨隆々のおじさまがフルパワーで大剣を振り下ろしてきたら、そりゃ避けて反撃もするだろ!?
というか、身体に染みついてるのか、気づいたら殴り倒してたわ!?
「はっはっはっ、見事にやられたな、父よ」
「いやいやいや!? 笑いごとじゃないんだけど!?」
その豊かなお胸を大きく張り、楽しそうに笑っているアルカに俺がそう突っ込みを入れていると、お母さんがお父さんを膝枕しつつ、「いえ」と首を横に振って言った。
「これでこの人……テゲアも理解したことでしょう。あなたがアルカディアを任せるに足る人かどうかを」
「いや、任せるに足る人かどうかって……」
俺はただお父さんを裏拳でぶっ飛ばしただけなんだけど……。
と。
「ふふ、そうでしょう? あなた」
「……ちっ、癪だが認めてやる。確かにお前は強い。手加減したつもりだろうが、反撃の一瞬に見せた気迫はあきらかに常人のそれを遙かに超えていた。この俺が一瞬気圧されたくらいだ。だから一つだけ聞かせろ、小僧。お前は本当にアルカディアを愛しているんだな?」
その問いに、俺は即答した。
「はい。俺は彼女を心から愛しています」
「そうか。なら俺から言うことは何もねえ。死ぬ気でアルカディアを幸せにしろ。わかったな?」
「お約束します。必ず彼女を幸せにすると」
俺がそう頷くと、お父さんは「……けっ」と膝枕されたままこちらに背中を向けてしまった。
「ふふ、よく頑張りましたね」
そしてお母さんにめちゃくちゃ頭を撫でられている。
いいなぁ……。
俺もあとでアルカに膝枕をしてもらおうかな……、と内心そんなことを考えていると、当の本人が何やら頬を桜色に染めて言った。
「なあ、イグザ。今夜にでも二人目を作るのはどうだろうか?」
「いや、一人目がまだ産まれてないんだけど……」
「うむ、それは重々承知しているのだが、なんかこうお前の男気に当てられてしまってな? このまま二人まとめていけそうな気がしているんだ」
「えぇ……」
それは一体どういうことなのだろうか……。
未だ赤い顔でもじもじしているアルカに俺が呆けていると、
「――戻ったのですね、聖女アルカディア」
「「「「!」」」」
ふいにどこからともなく女性の声が響き、俺たちは声のした方を見やる。
そこでお連れの方々とともに佇んでいたのは、見た目30代半ばくらいの凛とした美女だった。
一体誰だろうかと俺が小首を傾げていると、アルカが彼女に頭を下げて言った。
「お久しぶりです、オルトーレさま。後ほど里の方に伺おうとは思っていたのですが……」
「いえ、構いません。それよりあなたの隣にいる灼衣の者は件の救世主さまですね?」
「はい。私の夫で名をイグザと言います」
「そうですか。それは大義でした。よき戦士と
「ありがとうございます」
再び頭を下げた後、「……ところで」とアルカが控えめに尋ねる。
「何故
「それはもちろんイグザさまをお迎えするためです」
「えっ?」
俺……? と目をぱちくりさせる俺に、アルカが小声でこう言ってきた。
(おい、イグザ。逃げる準備をしておけ)
(えっ? いや、逃げるって……)
と。
――ざっ。
「「「「――っ!?」」」」
俺たちを囲むようにぞろぞろと様々な武器を手にした女戦士たちが姿を現してくる。
その総数たるや50……いや、もしかしたら100にも届いているかもしれない。
俺たちが周囲を警戒する中、オルトーレさんは全てを見透かしたようにふふっと笑って言った。
「そうはいきませんよ? アルカディア。彼にはこれより私を含めた子を産めるアムゾネシアの戦士全てと
「え、えっと、それってつまり……」
「ああ。要はここにいる全員に子を孕ませろということだ。長も含めてな」
「ええっ!? ここにいる全員!? って、長さんも!?」
いや、そりゃ皆さんお綺麗な方々ばかりだけど……。
「おい、何故微妙に嬉しそうなんだ?」
「べ、別に嬉しそうになんてしてないし!?」
「ぐぬぬぬぬ……って、いてててて!?」
「そしてあなたもどうしてそんなに悔しそうなのですか?」
笑顔が目の笑っていないお母さんに頬を引っ張られ、お父さんが涙目になる。
なんかすみません、お父さん……、と申し訳ない気持ちになる俺だが、真面目な話彼女たちに捕まったらそれこそ死ぬまで種馬にされ続けてしまうことだろう。
というか、俺不死身だからマジで子種を与えるだけの機械にされかねない。
さすがにそれはちょっと……。
てか、俺には愛するお嫁さんたちがいるし……。
なので。
「アルカ!」
「うむ!」
ごうっ! とスザクフォームに変身した俺は、アルカを腕に抱き、そのまま上空へと舞い上がる。
『――なっ!?』
当然、オルトーレさんたちが躍起になって俺たちを追いかけてくる中、アルカがご両親に向けて大きく手を振り、こう声を張り上げる。
「父よ! 母よ! 次に帰る時は孫を連れてくるゆえ、せいぜい楽しみにしていてくれ! ではな!」
そんな彼女の姿に、ご両親も笑顔で手を振り返していたのだった。
でも次に行く時はこっそり行くようにしようと思う……。
下からめっちゃ槍飛んできてるし……。
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