《追章》その7:アルカディアの帰郷1
各地の復興も着々と進みつつあったある日のこと。
ふとアルカから故郷であるアムゾネシアの様子を見に行きたいと言われた俺は、いい機会なので彼女の旅路に同行することにした。
というのも、色々と物事が落ち着いたら一度彼女のご両親にきちんとご挨拶をしたいと考えていたからだ。
もちろんアルカだけではなく、いずれはお嫁さんたち全員の親族にご挨拶をしようと思っている。
今までは世界の命運だのなんだのでそういうこともなかなか出来なかったからな。
復興の方も大分進んできたし、徐々にけじめをつけていかないと。
「いかん、顔のにやけが止まらん」
「はは、そりゃ何よりだよ」
というわけで、久しぶりにアルカと二人きりになった俺は、もの凄く嬉しそうな彼女に腕を引かれながら、アムゾネシアがある大森林近くの村――〝カウカス〟を訪れていた。
なんでもここに彼女のご両親が住んでいるという。
確かアムゾネシアは〝男子禁制〟だったはずだからな。
どのみちアルカが里に戻っている間はここに滞在しないといけないし、ご両親とも仲良くなれればいいんだけど……。
「ふふ、そう緊張するな。父も母も戦士ゆえ、強き者には寛容だ。きっと快くお前を受け入れてくれるだろうさ」
「そっか。そうだといいな」
緊張を和らげようとしてくれるアルカにそう微笑みつつ、俺たちはご両親のもとへと赴く。
ご両親の家は質素というか、牧歌的な感じの一軒家だった。
見た感じ、すでに修復済みなのか、魔物の被害もなさそうである。
――こんこんっ。
「私だ。アルカディアだ」
アルカがそうドアをノックすると、中から少々驚いたように一人の女性が姿を現した。
「……アルカディア? 本当にアルカディアなのですか?」
アルカに似た雰囲気を持つ、見た目20代後半くらいの見目麗しい女性である。
姉がいるという話は聞いたことがないのだが、もしかしてアルカのお姉さんだろうか。
と。
「ああ、私だ。久しいな、母よ」
「え、お母さんなの!?」
びくり、とショックを受ける俺。
どう見てもお姉さんにしか見えないんだけど……。
唖然とする俺に、アルカは再び「ああ」と頷いて言った。
「私の母で名を〝ペロポネ〟という。かつてはアムゾネシア最強の〝狂戦士〟とまで呼ばれていた実力者だ」
「きょ、狂戦士……」
確かにキリッとした顔立ちの美女だけど、でも狂戦士って……。
「ああ、本当にアルカディアなのですね。こんなにも逞しくなって……」
ぎゅっとアルカを抱き締めるお母さんに、アルカも感慨深そうな様子だ。
「うむ。私も母に会えて嬉しく思う」
しばらくそうやって再会の喜びを分かち合った後、お母さんが俺を見やって言った。
「ところでこちらの方は?」
「ああ、私の夫で地上最強の英雄――イグザだ」
「え、あ、どうも……」
慌てて頭を下げる俺に、お母さんは「まあ……」と嬉しそうに言う。
「そうでしたか。あなたがあの……。ふふ、よい人に巡り会えたのですね、アルカディア」
「うむ。母の言ったとおりだったよ。ついでにあの寝間着も効果抜群だ。さすがは母がデザインしただけのことはある」
……寝間着?
それってあの透け透けのやたらとセクシーなやつのことだろうか。
え、あれお母さんがデザインしたの!?
なにゆえ!?
「ふふ、そうでしょうとも。ではそちらの方も滞りなく?」
「ああ。すでにこの身には新たな命も宿っている。数ヶ月後には孫の顔も見せられるだろう」
「まあまあ、それはそれは」
ぱあっと瞳を輝かせるお母さんだが、それも含めてきちんとご挨拶をしておかなければ。
そう思った俺は小さく呼吸を整え、「あの、実は――」と改めてお母さんに話しかけようとしたのだが、
――どさりっ。
「「「……?」」」
ふいに家の中から何かの倒れる音が聞こえ、俺たちは揃ってそちらを見やる。
そこで今まさに白目を剥きかけていたのは、筋骨隆々だが身体中に夥しい傷痕のある男性だった。
恐らくはアルカのお父さんだろう。
どうやら今の話を聞いていたらしい。
「お、俺の可愛いアルカディアが妊、娠……っ!?」
ぷるぷるとすでに瀕死状態のお父さんに、俺は慌てて弁解というか、一応ご挨拶をしようとしたのだが、
「あ、あの、お父さん」
「誰が〝お父さん〟だこの野郎!? よくもうちの大事な娘を傷物にしやがったな!? 表に出ろぶっ殺してやる!?」
「ひええ!? 全然寛容じゃない!?」
というように、問答無用で大剣片手に襲いかかってきたのだった。
てか、もう表には出てるんですけど!?
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