《追章》その6:ティルナのお願いでありんす2
前回、不覚にもありんすにこてんぱんにされたあたしだったが、あれはあたしの慢心が招いた結果と言っても過言ではない。
ティルナにおだてられ、その気になったあたしが舐めてかかったのが最大の敗因だからだ。
ゆえにあたしは「あの、私皆さまのお手伝いをしなければならないのですが……」と渋るマグメルの水属性術技で人生初の滝行をし、精神力を極限まで研ぎ澄ませた。
そうしてあたしは再びありんすの前へと立ち塞がる。
一度負けた相手に二度は負けない――その確固たる気概を胸に。
が。
「――ふぎゃっ!?」
いや、なんでよ!?
あたし、今回は結構真面目に頑張ったんだけど!?
「ふふ、また今度遊びんしょうね、お嬢さん」
「ぐぬぬ……っ」
余裕の表情で踵を返していくありんすに、あたしは地面に這い蹲ったまま唇を噛み締める。
おのれ、ありんす……っ。
こうなったらこっちにも考えがあるわ!
あたしの得意なフィールドに引きずり込んで絶対に敗北の屈辱を味わわせてやるんだから!
◇
翌日。
「エルマ、それは……」
「ええ、わかってるわ。こんなことで勝ったってなんの意味もないってことくらいね。でもね、ティルナ。勝負の世界は残酷なの。勝った方が官軍――だからあたしは勝つわ! たとえどんな卑怯な手を使ってでもね! というわけで、〝21ゲーム〟で勝負よ、ありんす!」
ずびっとありんすを指差し、あたしは声高らかにそう挑戦状を叩きつける。
なお、〝21ゲーム〟というのは1から順に最大3つまでの数字を互いに重ねていき、最初に21を踏んだ方が負けという子どもの遊びである。
長旅の途中で暇を持て余していた際、頭の体操という感じで豚が色々と教えてくれたのだ。
「エルマ……」
ちょっとそんな目で見ないでくれる!?
しょうがないでしょ!?
まともにやったって全然勝てないんだから!?
「ふふ、ぬしは可愛い子でありんすなぁ」
「うるさいわね!? そんな余裕でいられるのも今のうちよ!?」
ともあれ、あたしが何故この21ゲームを選んだかというと、この遊びには〝必勝法〟が存在するからである。
そう、21が終着点である以上、常に〝4の倍数〟をこちらが押さえておけば必ず勝てるのだ。
というわけで、あたしはそれをありんすに悟られないよう謙虚な姿勢で告げる。
「まあでも、今回はあたしの提案に乗ってくれたわけだし、先行はあんたに譲ってあげるわ」
「ふふ、わかりんした。ではわっちから……1、2の3」
「じゃあそうね、あたしは4で」
「あら、随分と弱気でありんすな。では5の6」
「7、8」
「9の10の11」
「12よ」
「では13にしておきんしょう」
ふふん、その余裕もここまでよ、ありんす。
あんたは完全にあたしの術中に嵌まってるんだから。
「14、15、16」
はい、あたしの勝ち決定!
あとは何を選んだってあたしが20を取ってあんたの負けよ、ありんす!
思わず含み笑いがこぼれそうになる中、ありんすが「17」と数字を積んでくる。
ここまでくればさすがの彼女も自分の敗北を悟ったのではなかろうか。
でも残念だったわね、ありんす。
あんたはあたしと戦う前からすでに負けていたのよ!
「18、19――」
と。
「ところで、わっちはぬしの実力を少なからず認めていんすよ。さすがは〝剣〟の聖女と言ったところでありんしょう」
「あら、それはどうも。でも今さらおべんちゃらを言われてももう油断なんてしないから。残念だったわね」
「ふふ、そうでありんしょうな。ああ、これは困りんした。では20で」
「はい、21! あんたの負けー! ……って、あれ? 21……? あ、あたしの負けじゃなーい!?」
がーんっ、とショックを受けるあたし。
「エルマぁ……」
え、ちょ、なんでぇ~!?
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