《追章》その2:豚の婚活2
何故か豚の婚活に付き合わされる羽目になったあたしとナザリィだったが、それはそれとして一つだけどうしても解せない疑問があった。
――そう、〝何故あたしたちだったのか〟ということである。
恋愛相談ならもっと適任というか、認めたくはないけどシヴァとかアイティアみたいなエロ魔族の方が断然詳しそうな気がしたからだ。
その上、二人とも豚の大好きな脂肪の塊をぶら下げてるわけだし、むしろ行かない理由が見当たらない。
にもかかわらず、何故あたしたちを選んだのだろうか。
その理由が妙に気になったあたしは、それを豚に尋ねてみることにした。
「というか、そもそもなんであたしたちに頼んだのよ? まあ確かにあたしたちの方が話しやすいのかもしれないけれど」
「ええ、それもあるのですが、やはり結婚となりますと本能の赴くままにお相手を選ぶというわけにはいかないと思うんです」
「いや、あんた今まさに本能の赴くままに爆乳の人妻とお見合いしようとしてるじゃない……」
何言ってんのよこの豚……、とあたしが胡乱な瞳を向けていると、豚は「否ッ!」と無駄に武人っぽく声を張り上げて言った。
てか、いきなり大声出すのやめなさいよ!?
普通にびっくりしたじゃない!?
「豊かなお胸は本能うんぬん以前の必須条件なのです、聖女さま!」
「……」
いや、知らないわよ。
というか、知ったこっちゃないわよ。
じゃあ人妻の色気に関してはなんなのよって感じよ。
「ゆえに豊かなお胸であることは当然と考えつつも、しかし私も男の子――どうしてもそれらを前にすると意識がそちらに向いてしまうのです……っ」
ぐっと悔しそうに拳を握る豚。
何に対して悔しがっているのかがまったくわからない中、「ですから」と豚は続ける。
「私はきちんとお相手の内面に目を向けるため、なんとしてでも豊かなお胸の前で冷静さを保たねばならないのです……っ」
「……まさかとは思うが、おぬし見合いの場にわしらの貧相な乳を同席させることによって冷静さを保とうとしとるんじゃなかろうな?」
「……然りッ!」
「「……」」
すっと揃って〝剣〟の聖神器と大槌を振り上げるあたしたち。
「ちょ、ちょちょちょっと待ってください!? わ、私はこれでも真剣なんです!?」
「あ、そう。ならあたしたちも真剣にあんたを海の藻屑にしてやることにするわ」
「じゃな。我ら持たざる者の平穏のためにも、このクソデブにはここで死んでもらうしかあるまい」
「はわわわわ……っ!?」
がくがくと青い顔で後退る豚だが、そこであたしはふとあることに気づき、それを豚に問う。
「っていうか、慎ましやかなお胸が必要ならなんでティルナはここに呼ばなかったのよ? あの子だってあたしたちと同レベルくらいのお胸でしょうが」
そう、何故か呼ばれていないティルナの存在である。
「まさか子どもっぽくて可哀想だからとかそんな理由じゃないでしょうね?」
言っておくけど、あの子あたしより年上だからね?
「い、いえ、決してそのようなことは……。ただティルナさまはお母さまが巨乳の未亡人ゆえ、もしかしたら私の娘になる可能性が――」
「「あって堪るか!?」」
「ひいっ!?」
あたしたちに揃って突っ込みを入れられ、豚がびくりと肩を震わせる。
……てか、もうあれね。
この豚は一回マジでお灸を据えてやった方がいい気がするわ……。
はあ……、と小さく息を吐き、あたしは言った。
「……わかったわ。なら一応セッティングだけはしてあげるから、あんたの好きな人妻たちを教えてちょうだいな」
「え、本当ですか!?」
「ええ。その代わりダメだったら素直に諦めること。いいわね?」
「はい、もちろんです!」
◇
そうして迎えたお見合い当日。
「あ、あの、こちらの方々は……?」
酒場の奥で待っていた豚の前にぞろぞろと三人の男たちが姿を現し、揃って着席する。
なのであたしは左から順に紹介してやった。
「えっと、こちらは一番人気クレタさんの旦那さん、続いて二番人気ダイダさんの旦那さん、そして三番人気アドネーさんの旦那さんよ」
「おう、またてめえか、豚野郎。だがまあ一番ってのは悪い気しねえな」
「ちっ、ふざけんじゃねえぞ、豚野郎。うちのかみさんが一番いい女に決まってんだろうが」
「ああっ? 舐めてんのか、豚野郎。俺のアドネーが三番とかぶっ殺すぞこの野郎」
「せ、聖女さまぁ~……」
すでに泣きそうな豚の肩にぽんっと手を置き、あたしは最後にこう優しく微笑んだのだった。
「これが人妻に手を出すということよ、豚。じゃああとは頑張ってね」
「ひい~っ!?」
その後、豚は各夫婦のラヴラヴなお話を散々聞かされ、血の涙を流しながら世界への復讐を誓ったとかなんとか。
まあそれでも全然懲りてないところが豚らしいんだけどね……。
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