《追章》その1:豚の婚活1


「まずはこれをお納めください」



 すっと豚が神妙な面持ちで菓子折らしき包みをあたしとナザリィの前に滑らせてくる。


 ミノタウロスの里の復興も大分進み、そろそろ豚たちドワーフ勢には鬼人の里など、ほかの地域の復興を手伝ってもらおうかという話が出ていた最中のこと、何故かあたしだけが豚に呼び出されたのである。


 そうしてご要望通り豚の仮住まいへと足を運んでみれば、そこにはナザリィの姿もあり、席に着くと同時に菓子折を取り出してきたというわけだ。


 一体なんなのかとあたしたちが怪訝そうに顔を見合わせていると、豚がやはり真剣な面持ちで言った。



「実はお二人にお願いしたいことがございまして」



「「?」」



 揃って小首を傾げるあたしたちに、豚はばんっとテーブルに両手を突き、深く頭を下げて声を張り上げた。



「――どうかこの不肖ポルコめを〝男〟にしていただきたいッ!」



「「……」」



 その瞬間、あたしたちはすっと無言で席を立ったかと思うと、



「「ふんっ!」」



 ――ばちんっ!



「げぶうっ!?」



 豚の顔を挟み込むように渾身の掌底を叩き込む。


 そして椅子から転げ落ちた肉塊を心底軽蔑した目で見下ろして言った。



「なんなの? まさかあんた、あたしたち二人のお胸を合わせて一つの巨乳だとでも思おうとしているんじゃないでしょうね?」



「い、いえ、決してそのようなことは……。というより、たとえお二人のお胸が合わさっても巨乳に届くことは――」



「「(ぎろりっ)」」



「あ、あるかもしれませんね……」



 あはははは……、とぎこちない笑みを浮かべた後、豚は言う。



「……と、そうではなく、実は私もそろそろ身を固めようかと思いまして……」



「ふーん、まあいいんじゃない? おめでとう、ナザリィ」



「いや、わしとじゃないわ!? 誰がこんなクソデブの嫁になどなるか!?」



 力の限りに豚を指差し、ナザリィが真っ向から否定する。


 すると、豚もまた「そ、そうですよ!?」と彼女を指差して言った。



「私だってこんな貧乳のお嫁さんなんてまっぴらごめんですよ!?」



「なんじゃとこのデブ!? もういっぺん言ってみよ!?」



 ――ぶんっ!



「ちょ、ちょっと落ち着いてナザリィ!?」



 愛用の大槌を両手で振りかぶるナザリィをどうどうと宥めつつ、あたしは豚に「……で」と半眼を向けて言った。



「あんたは結局あたしたちに何をして欲しいわけ?」



「あ、はい……。そのことなのですが、お二人には私〝婚活〟をサポートしていただきたいのです」



「婚活をサポート……?」



 そんなこと言って、本当はただのナンパなんじゃないでしょうね? と疑いの眼差しを向けるあたしに、豚はぐっと拳を握って言った。



「ええ、私も聖女さまのような素敵なお嫁さんが欲しいのです!」



「!」



 それを聞いたあたしは豚が倒した椅子をぱぱっと起こして腰掛け、身だしなみを少々直してから腕と足を組んで言った。



「ま、まあ確かにあたしはイグザのお嫁さんたちの中じゃ最上位っていうか、ぶっちゃけ一番素敵なお嫁さんだと思うけど……?」



「いや、おぬしどの面でそんなことを言っておるのじゃ……」



 と、今度はナザリィがあたしに半眼を向けてくる。



「う、うるさいわね!? いいじゃない!? 思うのは勝手でしょうが!?」



 まったく失礼しちゃうわ!? とあたしがそっぽを向く中、豚は言う。



「……まあそのようなわけでして、私がこの里に滞在中にピックアップしたお嫁さんにしたい爆乳人妻ランキングトップ3の方々とのお見合いの席を、なんとかご用意していただけないものかと」



「「……」」



 なんなのよ、そのクソみたいなランキング。


 それをわざわざあたしたちのような発展途上に頼む必要ある?


 てか、それ以前に〝人妻ランキング〟なら全員〝人妻〟じゃないのよ!?


 そんなもん用意出来るわけないでしょ!?



「ひいっ!?」



 ごごごごごっ、と揃って眉間に深いしわを刻むあたしたちにさすがの豚も危機感を覚えたようで、「ち、違うんです!?」と慌てて弁解してくる。



「こ、これにはきちんと理由が……」



「ふーん、じゃあ聞かせてもらおうかしら? 無謀にも人妻と婚活しようとしているそのきちんとした理由ってやつをね」



 あたしがそう促すと、豚はぷるぷると拳を握ってこう言ったのだった。



「この里の人妻は、色気が凄いんです……っ」



「「……」」



 はい、解散ー!


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