220 新たなる旅立ち
「……突然すまなかったな。本当はあなたたちの方があの人と話したかっただろうに……」
エリュシオンの最期を見送った後、レウケさんが申し訳なさそうに頭を下げてくる。
なので俺は「いえ、気にしないでください」と首を横に振って言った。
「俺たちじゃあいつを救うことは出来ませんでしたから」
「そう言ってもらえると助かる。もっとも、あの人のしたことを考えれば、救済を受ける資格などありはしなかったと思うのだが……」
「そう、かもしれません……。でも、それでも俺はこの結末でよかったと思っています」
「えっ?」
驚いたような顔をするレウケさんに、俺は微笑んで言った。
「だって俺たちの知っているエリュシオンは、あんなにも優しい顔をするやつじゃありませんでしたから。それを最後に娘であるあなたに向けてくれてよかったと、俺は心からそう思っています」
「イグザ殿……。ふふ、あなたはよい男だな……。何故あなたがこれだけたくさんの女性に囲まれているのかがよく分かった気がするよ……」
「いえ、そんな……」
じんわりと双眸に浮かんでいた涙を指で拭いながら、レウケさんがそう笑いかけてくる。
すると、うちの嫁さんたちも悪い気はしなかったようで、
「ふ、まあな」
「いや、なんであんたが一番誇らしげなんだよ……。年甲斐もなくデレすぎだろ、ババア……」
「で、デレてなどおらぬわ!? というか、〝年甲斐もなく〟とはどういう意味だ、貴様!?」
「落ち着いて、トゥルボーさま。あとわたしたちより目立つのはやめて」
わちゃわちゃと何やら楽しそうであった。
そんな彼女たちにやれやれと嘆息しつつ、シヴァさんが問う。
「ところで、あなたはこれからどうするつもりなのかしら?」
「そうだな、とりあえず父上の墓標を立てた後、出来ればこの里を再建させたいと考えている。とはいえ、里はこの有り様だ。恐らく気の遠くなるような時間がかかるだろうが、それでも私は鬼人の血を引く者として、いずれか必ず成し遂げたいと思う」
レウケさんが里を見渡してそう微笑むと、それを静かに聞いていたイグニフェルさまが「うむ」と大きく胸を張って言った。
「なかなか気骨のあるよい答えだ、鬼人の子よ。そういうことであれば〝豚の者〟に協力を仰ぐのがよかろう。そなたは胸も豊かゆえ、喜んで力になろうぞ」
「いや、〝豚の者〟って……」
それ絶対ポルコさんのことだと思うんだけど、とうとうイグニフェルさまからも豚扱いされてるっていう……。
てか、よくよく考えてみたらそれはもうただのオークなのでは……。
「ま、まあとにかくあれです。里の再建に関しては俺たちも力を貸しますんで、後ほど色々と相談しましょう」
「ああ、すまない。あなたたちには本当に助けられてばかりだな」
「いえ、気にしないでください。だってあなたは――」
「〝俺の嫁になる予定の女だからなッ!〟てか?」
びっ、とオフィールがどや顔で自分を指す。
が。
『……』
「あ、あれ……?」
いい感じに場が静まり返り、オフィールは困惑しているようだった。
「……オフィールさん」
「い、いや、だってよぉ!? 今までは大体そういう感じだったじゃねえか!?」
「だからってこれ以上お嫁さんを増やされても困るわ。あなたは気づいていないかもしれないけれど、ほかの亜人の女性たちも結構彼を狙っているのよ?」
「え、そうなの……?」
ザナの言葉に驚いたのはもちろん俺である。
そんな素振りを見せてくれた人いたっけか……、と俺が記憶の糸を辿っていると、ティルナが「うん」と頷いて言った。
「人狼のシャンバラはイグザの子を産みたいって言ってた。強いオスの子を産みたいと思うのはメスとして当然だって」
「はっ、ちげえねえや。つーわけでオレん時も一つ頼むぜ? 旦那さま」
そう快活に笑うフルガさまに釣られ、「が、頑張ります……」と辿々しく頷く俺。
すると、オフィールが思い出したように言った。
「あー、そういやぁミノタウロスの姉ちゃんも似たようなことを言ってたなぁ……。ほら、パウエっつーあたしよりも乳のでけえ族長いただろ?」
「あ、うん……」
確かにあれは凄かった……じゃなくて!?
「あの姉ちゃんもイグザとのガキが欲しいんだとよ。なんでも里の繁栄のためにゃ絶対不可欠なんだとか。なんなら〝寝込みを襲う〟っつってたぜ?」
「寝込みを襲う!?」
「どうしてちょっと嬉しそうなの……?」
「い、いえ、別に……」
真顔で問うてくるフィーニスさまから逃げるように視線を逸らしていると、ザナが呆れたように嘆息して言った。
「ほかにもエルフのエレインさんとかもそうね。直接聞いたわけではないのだけれど、あきらかにあなたを見る目が恋する乙女のそれだったし」
「そ、そうだったんだ……」
正直、全然気づかなかった……。
いや、まあ好意を向けてくれるのはとても嬉しいんだけど……。
「その上、今のイグザさまは世界中にその名を轟かせる文字通り〝救世主〟です。各国を凱旋した暁には一体どれだけの女性たちが群がってくることか……」
はあ……、と憂鬱そうなマグメルに、俺が「は、はは……」と引き攣った笑みを浮かべていると、エルマが半眼をこちらに向けて言った。
「てか、あんた、まさか来る者拒まずでぽんぽんお嫁さんを増やしていく気じゃないでしょうね? もしくはワンナイトラヴ的な?」
「そ、そんなわけないだろ!? 大体、そんなにも大勢の人の相手なんてしてたらさすがに俺の身体が持たねえよ!?」
『……えっ?』
「……えっ?」
いや、そこは否定してくれよ……。
じゃないとぽんぽん嫁を作っちまいそうになるわ……。
「はは、あなたはその……とても精力的なようだな」
「あの、あながち間違ってはいないんですけど、微妙に距離を取りながら言うのはやめてもらってもいいですかね……?」
すー、と笑顔で離れていくレウケさんにがっくりと肩を落とした後、俺は「ともあれ」と気を取り直して言った。
「そういうのは追々考えてくとして、今はまず一度 《神の園》に戻って魔族たちと合流しよう。それで彼らに事の顛末を説明した後、今度はナザリィさんたちのところに行って各地の復興やらなんやらを手伝いに行かないと。まだまだやることはいっぱいあるからな。まったりするのはそのあとだ」
「ええ、そうですね。世界樹も新しく育て直さないといけませんし」
「でしたら私も一度ノーグへと戻り、人魚たちと海の被害状況を確かめてくることにしましょう」
「ふむ、ならば我も一度子どもらのもとへと戻ることにしよう。構わぬな? イグザ」
「分かりました。じゃあお三方とは後ほどミノタウロスの里で合流ということで」
「はい」「ええ」「うむ」
「ふふ、これから忙しくなりそうだな」
どこか楽しそうな笑みを浮かべるアルカに、俺は「ああ」と大きく頷き、その場にいた全員を見渡して言った。
「でも皆がいればなんとかなるさ」
『――』
俺の言葉に、皆も微笑みながら頷いてくれる。
それをとても心地よく思いつつ、俺は皆にこう告げたのだった。
「よし、じゃあ行くか。〝新しい旅の始まり〟ってやつだ」
そうして、俺たちの旅路はこれからも続いていくのであった。
※ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!
ひとまず本編の方はこれで一区切りとなりますが、ちょいちょいその後のお話などを不定期に更新していけたらと思っておりますので、引き続き応援のほどをどうぞよろしくお願いいたします!
またダッシュエックス文庫さまより書籍版の一巻と二巻が好評発売中ですので、そちらも是非お手に取っていただけたら幸いですm(_ _)m
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