213 いざ決戦の地へ
「というわけで、後ほど父がお前をぶっ飛ばすそうだ。まあお前ならば目を瞑っていてでも父に勝てるだろうが、あれも存外しつこい男でな。母を手に入れるまで、それこそ不死者の如く蘇ってきたという」
「そ、そうか。ならまあ素直にぶっ飛ばされてこようかな……」
故郷であるアムゾネシアから帰還したアルカの報告を、俺は顔を引き攣らせながら聞く。
そりゃ久々に帰ってきた愛娘が15人以上の嫁を持つ男と結婚していた上、子どもまで出来たとなれば、当然ぶっ飛ばしたくもなるだろう。
少なくとも、俺が親だったら普通にぶっ飛ばすわ。
なのでケジメとしてぶっ飛ばされてこようと思います……。
「ふふ、そう心配するな。確かに〝ぶっ殺してやる〟とは言っていたが、同時に男としてお前を認めてもいた。まあ当然だろう。何せ、お前は最強の聖女であるこの私を打ち負かした男なのだからな」
「お、おう」
……って、あれ?
今〝ぶっ飛ばす〟が〝ぶっ殺す〟になってなかった?
「はっ、何言ってやがる。最強の聖女はおめえじゃなくてこのあたしだ。だからうちのババアもこいつにベタ惚れなんじゃねえか」
「黙れ。殺すぞ、14番風情が」
「なっ? すでに3番になったつもりでいるだろ?」
「~~っ!?」
かあっと顔を真っ赤にするトゥルボーさまに、オフィールがにししと嬉しそうな笑みを浮かべる。
と。
「え、戻ってきた側からなんなのこの惚気た雰囲気……」
ちょうどトピアの村からエルマが帰ってきたらしく、彼女はちょっと引いたような顔でそう言っていた。
「お、おう、お疲れ」
なので俺も彼女に労いの言葉をかけておく。
すると、エルマは「ええ、ただいま」と頷いた後、トピアでのことを報告してくれた。
「とりあえずあんたのかけた術のおかげで皆無事だったわ。もちろんおじさんたちもね」
「そっか。それはよかったよ」
「あとあんたに皆からの伝言。〝すまなかった〟――そして〝ありがとう〟って」
「……そうか」
「ええ。だから許すかどうかはあんたが直接会ってから決めてちょうだい。まあそれはあたしも含めてなんだけどね……」
そう申し訳なさそうに視線を逸らすエルマに、俺はふっと口元を緩めて言う。
「君のことはとっくに許してるよ。だって今の君は俺の大事な仲間……というか、〝お嫁さん〟だからな」
「!」
エルマが驚いたように目を丸くする。
そして彼女はどこか恥ずかしそうにこう言った。
「べ、別にあたし、あんたのお嫁さんになったつもりはないんだけど……」
「あ、あれ、そうだったのか? てっきり責任を取るべきだとばかり……」
「ま、まああんたがどうしてもあたしをお嫁さんにしたいって言うんなら考えてあげないこともないけれど……」
「ふむ、それが無自覚に恋人繋ぎをしていた女の言う台詞か? 16番」
「う、うるさいわね!? あんた、1番だからって調子に乗ってんじゃないわよ!? すぐにそこから引きずり下ろしてやるから今に見てなさい!?」
「落ち着いて、エルマ。トゥルボーさまと同じく無自覚嫁ムーブしてる」
そう冷静に突っ込みを入れるティルナたちの様子を、俺も微笑ましそうに眺めていたのだが、
「……?」
その時、ふと違和感に気づき、俺は足を止めてきょろきょろと辺りを見渡す。
恐らくは人々を救うのに必死で気づくのが遅れたのだろう。
周囲の気配が〝静かすぎる〟ということに。
「フィーニスさま」
「ええ、あなたも気づいたのね……。そう、この辺りには魔物たちが一匹もいないわ……。いえ、ここだけじゃない……。今も世界中からあの子たちの姿が消え続けている……。でもその気配は消えてはいない……」
「そ、それは一体どういうことでしょうか?」
マグメルの問いに答えたのは俺だった。
「さっきオルグレンに君を下ろした際、世界樹の方からエリュシオンの気配がするって言ったよな?」
「はい。ですからオルグレンにはとくに強い結界術を施したと」
「うん。海を跨いだここからでもはっきり分かるんだけど、やつの気配がどんどん大きくなっているんだ」
「ま、まさか……っ!?」
「ええ……。彼はあの子たちを一つの場所へと集めている……。恐らくはテラの世界樹を使って〝汚れ〟として大地に取り込んだのね……」
「〝汚れ〟として取り込んだって……」とザナ。
「でもそんなことが本当に可能なの? それが確かならとっくに女神テラが魔物たちを浄化しているようにも思えるのだけれど」
そう疑問を呈すシヴァさんに、テラさまが複雑そうな表情で言う。
「通常であればまず不可能でしょう。魔物と言えど世界の一部。その増加を抑制することはあっても、それらを全て浄化することを世界樹は目的としていません。あくまで均衡を保つことがかの大樹に課せられた使命なのです」
「なるほど。魔物もまた生命のサイクルの一つ。ゆえに完全に消滅させることはなく、その機能も世界樹にはないと」
「はい。ですがまさか調和の象徴たる世界樹をこのような形で使われるとは思いませんでした……。これも全ては私の力不足が招いたこと……。本当に申し訳ございません……」
そうやりきれない表情で俯くテラさまに、俺は「それは違います」と首を横に振って言った。
「悪いのはエリュシオンであってあなたじゃない。だからどうか謝らないでください。俺が……いや、俺たちが必ずあの神さま気取りのクソ野郎をぶちのめして、世界を元の形に戻してみせますから」
「……ありがとう、イグザ」
双眸に涙を浮かべながら微笑むテラさまに、俺も力強く頷く。
そして。
「じゃあ――行こう! これが俺たちの最後の戦いだ!」
『――』
俺たちは決戦の地に向けて、真っ直ぐに飛んでいったのだった。
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