パワハラ聖女の幼馴染と絶縁したら、何もかもが上手くいくようになって最強の冒険者になった ～ついでに優しくて可愛い嫁がたくさん出来た～

《聖女パーティー》エルマ視点58：ど、どどどどうしよう～っ!?

「そ、そんなの嘘だよ!?　だってエリュシオンさまは言ってくれたもん!?　〝あとで必ず迎えにいく〟って!?」

「無理よ……。それが可能なら、私はずっと《断絶界》に封印されていたはずだもの……。でもオルゴーはそうはしなかった……。何故ならたとえ私たち双生の神が力を合わせたとしても、ここから抜け出すことなんて出来なかったからよ……」

「そ、そんな……。じゃあボクは一体なんのために……」

　呆然と床にへたり込んでしまったパティを、皆がなんとも複雑な表情で見据える。

　きっとあの仏頂面はパティのちょっと抜けてるところというか、純粋に自分や仲間たちを慕っている気持ちを利用したんでしょうね……。

〝お前だけが頼りだ〟とか、〝同胞のために頑張れ〟とか、適当にそういういかにもな言葉でもかけてさ……。

　まあ、騙されやすそうな性格してるもんね、あの子……。

　あたしのことだって普通に助けてくれたし、言えばお茶も淹れてくれたし……。

　確かに魔族だけど、基本的に悪い子じゃないんだと思うわ。

「ごめん、ヨミ……アイティア……。ボクは……」

　それだけにちょっと同情もしてるのよね……。

　結局いいように使われて捨てられただけなんだもん……。

「気にするな。お前はただ主の命に従っただけだ」

「そうね。だから別に謝らなくていいわ。悪いのはあなたじゃなくて、あなたを騙した創造主さまだもの。まあでも、ここまで容赦なく切り捨てられると、逆に清々しくなってくるわね」

「「……」」

　そう肩を竦めるエロ魔族に、パティたちも言葉を失う。

　すると、エロ魔族はどこか吹っ切れたような表情でイグザに言った。

「というわけで、図らずともダーリンと永遠の時を過ごすことになっちゃったわけだけど、気晴らしにぱあっと楽しんじゃう？　もうそれくらいしかやることないし」

　だがそんなエロ魔族の誘いを、イグザは「いや」と首を横に振って断った。

「それはまた今度にしておくよ」

『……今度？』

「い、いや、別に深い意味はないから……」

　揃って半眼を向けてきた自称正妻たちに、堪らずイグザがたじろぐ。

　そりゃ性欲おばけのイグザだもん。

　魔族とはいえ、あんな痴女みたいなのにお誘いを受けたら、当然美味しくいただいちゃうに決まってるじゃない。

　まったく、いやらしいったらありゃしないわ！

　そんなに色気のある女の方がいいっていうの!?

　……。

　いや、なんであたしがキレてんのよ!?

　べ、別にイグザが誰と何しようが関係ないじゃない!?

　え、何してんのあたし!?　と意味も分からず頭を抱えていると、イグザが「心配するな、パティ」と笑みを浮かべて言った。

「お前たちは必ず俺がここから出してやる」

「えっ……？」

「ダーリン……？」

　当然、どういうことかと瞳を瞬かせるパティたちに、イグザは続けた。

「どうやらお前たちは一つ勘違いをしていたみたいだな」

「……勘違いだと？」

「ああ。たぶんお前たちは、フェニックスシールを何か〝強化術式の一つ〟だとでも思っていたんじゃないか？　それも聖女や女神さま専用のさ」

「え、ち、違うの!?」

　驚くパティに、イグザは「ああ、違うよ」と頷いて言う。

「元々フェニックスシールは、俺と聖女たちとの〝絆〟によって発動されたものだ。それが進化を続け、今となっては《スペリオルアームズ》や《インフィニットガッデス》なんかの融合技や、ダメージの〝身代わり〟に〝空間移動〟まで可能になった。でも本質が〝絆〟であることに変わりはない」

「……つまりそれが紡がれていれば、種族や性別は関係ないってこと？」

「い、いや、まあさすがに性別は関係あると思うけど……」

　そう困惑するイグザだが……何故だろう。

　パティなら普通に刻まれそうな気がする……。

　って、騙されちゃダメよあたし!?

　あの子、見た目は女の子だけど男の子なんだから!?

「とにかく今の俺ならたとえ力の戻った女神さま方にも、継続してフェニックスシールを刻むことが出来ると思う。ただ問題はそこじゃなくて、俺にはしっかりとフェニックスシールが刻まれた、聖女でも女神でもない普通のお嫁さんがもう一人いるんだ」

「「「――っ!?」」」

　それを聞き、パティたちが驚いたように目を見開く。

　あたしも今の今まですっかり忘れてたけど、そういえばいたわね……。

　はじめて会った時に、イグザを思い出してうっとり頬まで染めちゃってたいやらしい巫女さんが……。

「じゃ、じゃあキミは……」

「ああ。彼女――カヤさんを追ってここから脱出することが出来る。ただやっぱり《断絶界》ということもあってか、その存在がかなり薄い。それに皆を連れていくとなると、一度俺と融合してもらわないと無理だ。だから俺はこれから発動させようと思う。聖女七人と女神六柱による究極の《スペリオルアームズ》……いや、それを超えた〝究極の融合形態〟を」

「究極の、融合形態……」

「そうだ。その力で一気に向こうの世界に戻り、そしてエリュシオンを倒して女神さまたちの力を奪い返す。それらの力を合わせ、必ずお前たちを助けに戻ってくる。だからそれまで待っていてくれないか？」

「……信じていいの？」

　儚げなパティの問いに、イグザは大きく頷いて言った。

「ああ、信じろ。これでも救世主らしいからな。必ず救ってみせるさ」

「……うん、分かった。ならキミたちを信じて待ってる……。だからボクたちを助けて、イグザ……」

「おう、任せておけ」

　にっと歯を見せて笑うイグザの姿に、あたしを含め、その場にいた全員が微笑ましそうな笑みを浮かべていたのだが、

「……って、あれ？」

　そこであたしはふと気づく。

　その究極の融合形態とやらになるには、あたしにもフェニックスシールが刻まれなければならないということを。

　つまり……。

「～～っ!?」

　運命の時が――ついに来てしまったのであった。