202 果たされた目的


「――エルマ!」



「「「――っ!?」」」



 そうして玉座の間へと辿り着いた俺たちが目にしたのは、一足先に着いていたらしいティルナとテラさまに守られているエルマの姿だった。



「イグザ! 皆!」



 俺の呼びかけに、エルマが声を張り上げて応える。


 玉座の間の中央には巨大な穴が開いており、《八斬理サクリフィス》の一人と思しき女性も倒れているので、何か激しい戦闘でもあったのかと一瞬心配になったが、彼女の声を聞いた感じ、どうやら命の方に別状はなさそうだった。



「無事でよかった! ティルナとテラさまも!」



「うん、わたしたちは平気。エルマもそこまで酷い目には遭ってなかったみたい」



「そうか。それはよかった」



 ティルナの言葉にほっと胸を撫で下ろしつつ、俺は彼女たちを庇うように前に出る。


 すると、玉座に腰掛けていた白髪の男が気怠そうに言った。



「ようやくお出ましか。随分と遅かったな、救世主」



「エリュシオン……っ」



 そう、元〝剣〟の聖者にして現創世神――エリュシオンである。


 気配を察するに、どうやらこの場にいるのはやつ一人らしい。


 恐らくほかの《八斬理サクリフィス》たちは、そこで気を失っている女性同様、全員倒されたと思っていいのだろう。


 そんな状況下でも玉座に頬杖を突いていられるのは、何か余裕でいられるような策があるということなのだろうか。


 確かにエルマにフェニックスシールが刻まれていない以上、やつの優位性も分からなくはないのだが……。


 と。



「――我が主よ、あなたに一つお尋ねしたいことがあります」



 ヨミたちがエリュシオンの前に跪いて言う。


 すると、エリュシオンはやはり玉座に頬杖を突いたまま言った。



「いいだろう。言ってみろ」



「はっ、では失礼を承知で申し上げます。あなたは何故なにゆえ我らをお造りになられたのですか?」



「決まっているだろう? 新たなる世界の創造のためだ」



「そのためならばたとえ我らがヴァロンの贄になろうとも致し方がないと?」



 少々踏み込んだヨミの問いに、今まで無表情を貫いていたエリュシオンの眉がぴくりと動く。


 やはり気に障ったのだろうか。


 まあアイティアも言っていたが、エリュシオンにすればただの駒にしかすぎないだろうからな。


 気分次第であっさり処分してきそうだし、いざとなったらヨミのやつを守ることも考えておかないと。


 俺がそうエリュシオンの動向を注意深く窺っていると、やつは「……そうか」と何やら神妙な顔で呟いた。



「?」



 そんなエリュシオンの様子に、俺はなんとも言えない違和感を覚えていたのだが――その時だ。



 ――ずずんっ!



『――っ!?』



 突如何かにぶつかったかのように地面が大きく揺れたのである。


 一体何ごとかと俺たちが揃って周囲を警戒していると、「……どうやら我らの目的は果たされたようだな」とエリュシオンが玉座から腰を上げ、ゆっくりと階段を下り始めたのだが、



 ――ばちばちっ!



『――なっ!?』



 その姿が徐々に別の人物へと変わっていった。



「――残念だったね、キミたち」



 それはエリュシオンよりも大分小柄で、ぱっと見は10代半ばから後半くらいの美少女……いや、美少年だった。


 そう、ヨミたちと同じ《八斬理サクリフィス》の一人――パティである。



「な、何故お前がエリュシオンさまに……っ!?」



 あの驚きようを見るに、兄弟のようなものだと言っていたヨミですら、彼がエリュシオンと入れ替わっていたことを知らなかったらしい。


 ヨミ同様、唖然としていた俺たちを見渡し、パティはこう告げてきた。



「たった今、《神の園》は《絶界》の最深部――《断絶界》の底へと到達した。フェニックスシールを持つキミたち全員がここにいる以上、救世主はもうここから抜け出すことは出来ない。だから悪いけど、エリュシオンさまが新しい世界を創造するまで、ボクたちと一緒にここにいてもらうよ」



「なん、だと……っ!?」



《断絶界》って……。


 いつの間にそんな……。



「ボクたちの目的はね、最初からキミをこの《断絶界》に閉じ込めることだったんだ。でもキミはフェニックスシールを通じて聖女たちのもとへと移動することが出来る。だからそれを持つ全員をここに誘き出す必要があった。キミを攫ったのはそのためなんだよ、エルマ」



「あんた……」



 エルマが驚いたように眉根を寄せる中、パティは続ける。



「そしてこの計画はボクしか知らない。ゆっくりと下降し続ける《神の園》の存在を気取られないようにするためには、《八斬理サクリフィス》たちにも本気で戦ってもらわないといけなかったからね」



 まさかヴァロンがあんなことをするとは思わなかったけど……、と困惑した様子で視線を逸らすパティに、フィーニスさまが悲しげな表情で問う。



「あなた、自分が何をしたか分かっているの……?」



「もちろん。まあでも別に死ぬわけじゃないんだし、大人しく負けを認めて全部終わるのを待ってようよ。そうすればきっと新しい世界に住むことを許してくれると思うしさ」



「違う……。違うのよ……」



「?」



 そう首を横に振るフィーニスさまに、パティが小首を傾げる。


 そんなパティに、フィーニスさまはこう告げたのだった。



「たぶんあなたはあの亜人が助けに来てくれると思っているみたいだけど、それは絶対にないわ……。だってここに落ちた者は、たとえ創世の神であろうとも二度と抜け出すことは出来ないのだから……」



「えっ……?」

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