《閑話》待機組サイド1:異変
「「……」」
ちらり、とナザリィたちは岩陰から地上の様子を窺う。
晴れの日が多いはずのラビュリントスには珍しく、空は淀んだ色の厚い雲に覆われ、海もかなり荒れていた。
そして何より、
『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』
「「ひいっ!?」」
そこには偵察班からの報告通り、一面を埋め尽くす大多数の海洋系魔物たちが、〝獲物〟を求めて牙を剥き出しにし続けていた。
(な、なんなんですかあれは!?)
(わ、わしが知るか!? というか、どさくさに紛れて抱きついてくるでないわこの助平め!?)
(あうちっ!?)
ばちんっ! とポルコの頬にビンタをかましつつ、二人は魔物たちに見つからないよう慎重に辺りの様子を窺う。
ぱっと見ただけでもこれだけの数の魔物たちがいるのだ。
恐らくは島の陸上部分のほとんどがやつらに占領されているのだろう。
ただ幸いだったのは、黒人形化された〝斧〟の聖者の襲来以降、里の復興が終わるまで隠し通路以外の出入り口を全て潰しておいたということだろうか。
おかげで今のところ里への被害は報告されておらず、ナザリィたちもこのとおり無事であった。
(しかし先刻までこのような兆候などまったくなかったはずなのじゃが、一体何故いきなり魔物どもの行動が活発化し始めたのじゃろうな)
(ま、まさか揃って〝発情期〟に突入したとか!?)
(いや、なんでちょっと興奮しとるんじゃおぬしは……。というか、そんなことあるはずなかろう……)
まったく……、と嘆息しつつ、ナザリィはとある魔物たちを指差して言った。
(ほれ、見てみい。元来は敵対するはずの魔物たちですら、ああして諍いの一つも起こさず行動をともにしておるのじゃ。どう見てもまともな魔物のすることではなかろうて)
(つ、つまり誰かに操られていると?)
(うむ、その可能性が高いじゃろうな。となれば、恐らくは世界中で同じことが起こっておるはずじゃ。そして現状それが出来る者など一人……いや、〝一柱〟しかおらぬ。そう、元〝剣〟の聖者にして現創世の神――エリュシオンじゃ)
(エリュシオン……っ。女神さま方からそのお力を奪った
ぎりぎりと拳を握りながら怒りに燃えるポルコに、ナザリィは(ほう?)と感心したように言った。
(おぬしがそこまで憤るとは意外じゃったわい。ただのクソデブかと思いきや、なかなかどうして男気があるではないか。正直、見直したぞい)
が。
(当然です! 何故ならやつのせいで私の女神さま方がイグザさまに純潔を捧げることになってしまったのですからね! あの男だけはこの手で八つ裂きにしなければ……っ!)
(……すまん。わしが間違っておった。やはりおぬしはただのクソデブじゃったわ)
そう早々に前言を撤回しつつ、しかしとナザリィは三度魔物たちを見やって言う。
(もし本当にやつがこの騒動を引き起こしておるというのであれば、それは些かおかしな話じゃとわしは思う。何故ならやつは今頃 《絶界》内でイグザたちの相手をしておるはずなのじゃからな)
(確かに……。あ、もしかして皆さま戻ってこられたのでは? 私たちの目的は聖女さまの救出ですし、それを無事に達成されて件の聖者らが最終的な決着をつけるべく追ってきたとか?)
(じゃといいんじゃがのう……)
そう信じたいナザリィだったのだが、その胸中にはなんともすっきりしないもやもやが渦巻き続けていたのだった。
※ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!
どうぞよいお年をお迎えくださいませm(_ _)m
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