190 魔を祓う白銀の炎


「……何を笑っている?」



 ヨミにそう問われ、俺は瓦礫をごろりとどかしながら上体を起こす。


 ここが〝汚れ〟渦巻く《絶界》の中だからなのか、それとも俺たちが辿り着く前に文字通り死ぬほど修練を重ねたのかは分からない。


 やつは〝死ねば死ぬほど強くなる〟って言ってたからな。


 エリュシオンに殺されまくった可能性だってあるだろう。


 とにかくやつの力は以前の比ではないほど上がっており、スザクフォームの俺ですら凌駕するほどの成長を遂げていたのだ。



「いや、皆も頑張ってるんだと思ったらなんか嬉しくてな」



「ほう? 例の〝鳳凰紋章〟というやつか。そういえば、貴様は女どもの状況を逐一把握することが出来るんだったな」



「ああ。どうやらお前のお仲間たちと激しくやり合ってるらしいぞ」



「なるほど。揃いも揃って無駄な抵抗をしているというわけか。なんとも度し難い連中だ」



 そう淡々と言い放つヨミに、俺は「そんなことはないさ」と瓦礫の中から立ち上がって告げる。



「皆信じてるんだよ。俺が必ずエリュシオンをぶちのめして、そしてエルマとともに全員揃って無事に帰るんだってな」



「戯れ言を。この俺にすら後れを取る貴様如きが、よりにもよって我が主を倒すだと?」



「ああ、そうだ。もちろん俺の力だけじゃないけどな。今のあいつに対抗するには聖女全員の力が必要だろうし」



「なるほど。だから俺を倒して先に進むと?」



「ああ」



 こくりと首肯した俺を、ヨミは鼻で笑って言った。



「大した自信だな、人間。だが貴様の敗北はすでに決している。その無様な姿が何よりの証拠だ」



 しゅ~、と鎧を含めた身体を再生させつつ、俺は「そうだな」と頷いて言う。



「確かに今の俺じゃお前に勝つのは難しそうだ。それにしても随分と強くなったじゃないか。以前とは桁違いだ」



「当然だ。俺は貴様に後れを取って以降、我が異能――《超復活グロウレザレクシオン》を極限まで使い、死と再生を繰り返し続けた。何百、何千、何万とな。そうして今や貴様にも勝る力を手に入れたというわけだ」



「なるほどな。そりゃこんだけ強くなるのも当然だ。お前はすげえやつだよ」



 でもな、と俺はスザクフォームを解除して言った。



「お前は一つ勘違いをしている」



「勘違いだと?」



「ああ。お前は確かに強くなった。スザクフォームじゃもう歯が立たないくらいにな」



「ならば――」



「そう――〝スザクフォームじゃ無理〟だ」



「……何?」



 訝しげに眉根を寄せるヨミに、俺は静かに告げる。



「俺がいつスザクフォームを習得したか知ってるか? マグメル……〝杖〟の聖女を仲間にした時だ」



「それが一体なんだという?」



「なんだも何も、彼女は俺が二番目に仲間にした聖女――つまりはそれ以降、俺は新しいフォームを習得してないんだよ。彼女たちと一体化する《スペリオルアームズ》は別としてな」



「なんだと……?」



「というより、習得する必要がなかったんだろうさ。俺単体でピンチになる時なんてほとんどなかったからな。スザクフォームを習得したのも、単にマグメルを助けるためにより速く動きたかっただけだし」



「……つまり貴様にはまだ〝上〟があると、そう言いたいわけか?」



「ああ、そうだ。そしてそれをこの場で発動出来る確信が今の俺にはある。当然だろ? 何せ、今の俺にはフェニックスシールで繋がれた自慢の嫁がたくさんいるんだからな!」



「――っ!?」



 ごうっ! と激しい炎に包まれながら、俺は精神を集中させる。


 元来はもっと段階を踏んで新しいフォームが習得されるはずだったんだと思う。


 けれど、皆のおかげで俺はそれらが必要ないほど強くなることが出来た。


 だから俺がここで発動させるのは、それらの途中経過を全てすっ飛ばした現状俺が習得出来る最強のフォーム。


 この〝汚れ〟満ちる《絶界》内で、その恩恵をフルに受ける魔族たちにすら抗える究極の戦闘フォームだ。



「よく見ておけよ。これが――」



 どばんっ! と床が円形に陥没する中、俺の炎が真紅から白銀へと変わっていく。



「ぐうっ!?」



 その瞬間、ヨミの身体がじゅわっと焼け、やつは俺から逃げるように距離を取った。


 最中、俺は身体中に白銀の炎を纏って言った。



「――フェニックスフォーム。俺自身が浄化の炎となる対魔族用戦闘フォームだ」



「対魔族用の、戦闘フォームだと……っ!?」



 ぶしゅぅ~、と全身を浄化されかけながら、ヨミが驚愕に眉を顰める。


 そんなヨミに、俺は「せいぜい気をつけろよ」とこう忠告したのだった。



「言わば俺は〝太陽〟みたいなもんだ。近づけば火傷じゃ済まないし、そこにあるだけで全ての〝汚れ〟を浄化し続ける。言っただろ? お前を〝汚れ〟のない空間で倒すってな。それでも俺に挑む勇気があるならかかってこいよ、《八斬理サクリフィス》」



「ぐっ、化け物が……っ」

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