189 転生者
一方その頃。
ほかの女子たちもまた力を合わせねば地の利を得ている《
その力でアルカディアとフィーニスはエデンと、ティルナとテラはリュウグウと、シヴァとフルガはアイティアとそれぞれ激闘を繰り広げていたのだが、ほかのペアたちとは違い、ザナとイグニフェル、マグメルとシヌスだけは同じ大広間へと飛ばされていた。
そして彼女たちを待っていたのは、フードを目深に被り、全身をがちがちに拘束されている一人の男性だった。
それも。
「ああ、この時を待ち侘びていました。やはりあなたたちはとても美味しそうだ。またお会い出来て光栄です、ザナ王女。そして〝杖〟の聖女マグメル」
「「――っ!?」」
彼はザナたちのことを知っているようで、どこかで聞いたような柔和な口調でそう告げてきた。
「あなたはまさか……っ!?」
ザナが愕然と両目を見開く中、男性のフードが触ってもいないのにずるずると後ろに下がっていく。
そうして素顔を露わにした男性だったが、その顔は上部が〝汚れ〟のようなもので黒く覆われており、ぎょろりといくつもの目玉が蠢いていた。
だがあの端正な顔立ちと優男のような雰囲気には見覚えがあった。
そう、あれは――。
「ヴァエル、王……っ!?」
「ええ。そんな名で呼ばれていたこともありましたね。ですが今の私はヴァロン。我が主エリュシオンさまが配下 《
――ヴァエル王。
大国ラストールの若き王であり、ザナにとっては母親の仇とも言える人物だ。
しかし彼はイグザとの死闘の末、その炎によって灰燼に帰したはずである。
それが何故ここに、しかも魔族となって立ちはだかっているのか。
揃って言葉を失うザナとマグメルに、ヴァエル王……いや、ヴァロンは静かな笑みを浮かべて言った。
「確かに私は一度死にました。忌々しくもあの男の炎に焼き尽くされてね。ですが私はこうして生きている。何故なら彼が焼いたのは私の〝本体〟のみだったからです。戦いの最中に斬り落とされた私の左腕などは焼かれずに残っていた。それをあのお方が回収してくださり、再びあなたたちの前に立ちはだかるべく魔族として転生させてくださったのです」
「そんな……」
衝撃の事実にマグメルが酷く動揺する中、イグニフェルは「なるほど」と全てを察したように頷いて言った。
「〝蘇生〟ではなく〝転生〟ときたか。それも元ある人の肉を混ぜ込んでの転生だと。ならばその醜悪な見てくれも頷けよう。そなた、声音こそ優雅なれど、すでに〝ヴァエル〟なる元の人格は残っておらぬな?」
イグニフェルの指摘に、ヴァロンは肩を竦めて言った。
「ええ、恥ずかしながら仰るとおりです。主曰く、今の私は〝ヴァエルだったもの〟と彼の持っていた〝魔物を取り込み続ける〟という欲望が合わさっただけの存在だといいます」
だからなのでしょうね、とヴァロンの雰囲気がぞわりと変わる。
「私はとにかくお腹が空いて堪らない……っ。とくにあなたたち聖女を食べたくて食べたくて仕方がないのです……っ」
ぐぱあ、と耳まで裂けた口で大きく笑いながら、ヴァロンは餓えた獣のようによだれを垂らす。
――ばきんっ!
すると、彼の身体を縛っていた拘束具が弾け飛び、ぐにゃぐにゃと鋭い歯牙を持つ触手のようなものが何本も飛び出してくる。
それはまるで軟体系の魔物――〝クラーケン〟のようで、肥大化を重ねた彼の身体はすでに人の形を保ってはいなかった。
「うっ……」
そのあまりのおぞましさに堪らずマグメルが吐き気を催したほどだ。
「……これは少々不味いですね。あの者の力は我らのそれを遙かに上回っています。このままでは前言通り彼の者の餌食となるのは時間の問題でしょう」
「で、ですが私たちにはイグザさまの〝フェニックスシール〟があります。たとえ呑まれたとしても、内部から攻撃すれば……」
「いや、恐らくはそれを見越して我らを取り込むつもりだろう。確かに肉体は無事だろうが、呑まれた瞬間意識を奪われ、やつの一部となるのは必至。最悪、我らを通じてイグザの力をやつに奪われかねん」
「そ、そんな……」
「つまり現状打つ手無しと?」
ザナの問いに、しかしイグニフェルは首を横に振って言った。
「まさか。これでも我らは創世の神の片割れぞ? この程度の窮地、いかようにも乗り越えてくれるわ」
ごうっ! とイグニフェルの身体が炎に包まれる中、「そうですね。ほかの半身たちも各々攻勢に出ているようですし」とシヌスの身体もまた激しい水流に包まれる。
そして。
「ゆくぞ、聖女たちよ! 我らが力、全てそなたたちに託そう!」
「どうかその力を以て、必ずや彼の者に
ここに二つの神姫兵装が同時に発動されたのだった。
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