159 風の女神は決意する
「悪い、思ったよりも時間がかかっちまった。トゥルボーさまは?」
そう問いかけつつ、俺は皆の待つ大部屋へと足を踏み入れる。
もちろんその後ろに続くのは、どこか恥ずかしそうに頬を染めているテラさまと、同じく伏し目がちに赤い顔のシヌスさまだった。
彼女たちがそそくさと自分のベッドへと向かっていく中、今の今までトゥルボーさまの説得を続けていたらしいオフィールが肩を竦めてくる。
「いや、無事っちゃ無事なんだけどよ。相変わらず〝段階を踏め〟ってうるせえんだこれが」
「う、うるさいとはなんだ!? 我はただ男女の営みはその場の勢いに任せてよいものではないと言っているだけだ!?」
「……なあ?」
「う、うーん……」
確かにトゥルボーさまの言いたいことも分からなくはない。
俺だって真面目な恋愛ごとならきちんと段階を踏みたいとも思う。
ま、まあうちのお嫁さんたちに関しては聖女や女神さまという特殊な方々が多いせいか、結構段階をすっ飛ばしてきたんだけどな……。
戦闘がデートみたいなものだったし……と、それはさておき。
とにもかくにも、今は非常時だ。
命の危機がかかっている以上、そんなことを言っている場合ではないと思うのだが……。
「だ、大体お前はそれで本当によいのか!? 仮にも母同然の女が自らの男と肌を重ねるのだぞ!?」
「あー……」
トゥルボーさまの言葉を聞き、オフィールが一瞬天井を見上げる。
が。
「――まあいいんじゃねえか?」
「何っ!?」
あっけらかんとそう言い放ったオフィールに、トゥルボーさまはがーんっとショックを受けているようだった。
だがそんな彼女に、オフィールはにっと歯を見せながら笑いかける。
「だってそれであんたの命が助かるんだろ? ならあたしは別に構わねえよ」
「お前……」
「へへっ♪」
ぐっとオフィールが親指を立てる。
「くっ、憎らしいほど無垢に笑いおって……っ」
ぐぬぬと唇を噛み締めた後、トゥルボーさまはこれ見よがしに大きく嘆息する。
そして顔を上げるなり、決意を秘めたようにこう声を張り上げてきたのだった。
「――いいだろう。不本意ではあるが、オフィールの献身を無下にするわけにもいかぬ。ゆえにこの身は貴様に預けてやろう。だが勘違いするな、人間! 我が身に触れる以上、我を満足させられなかったその時は――貴様を108の肉片に引き裂いてやるからな!」
「わ、分かりました! なら俺も全力でお相手を務めさせていただきます!」
そういえば前にも同じようなことを言われたことがあったなと懐かしく思いつつも、俺は力強くそう頷いていたのだった。
余談だが、後ろの方でオフィールが「いや、全力はやめた方が……」と何やら忠告してくれていたようなのだが、その時の俺にはまったく聞こえていなかったのだった。
◇
そうしてイグザたちが別室へと移動したあとのこと。
「やっとトゥルボーさまの説得が終わったみたい。今は別室で治療中だってザナが言ってた」
一人二階の様子を見に行っていたティルナが、エルマたちのもとへと戻ってくる。
すると、すでに大分酔いの回っていたポルコがやはり泣きながら言った。
「つまりもうあのお二方はイグザさまのものになられてしまったというわけですね……。そしてトゥルボーさまも今まさに……ぐすんっ。こんなのもう〝NTR〟じゃないですかぁ~!?」
「「「……」」」
いや、NTRも何もそもそもお前のものじゃないだろ――三人は揃ってそう思ったが、言うと面倒そうなのであえて何も言わなかったのだった。
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