160 強がり女神と淫魔な勇者


「ふん、限りなく神に近い力を持つとはいえ、所詮は人間――口ほどにもなかったわ」



 皆の待つ大部屋へと戻ってきて早々、そうばっさりと酷評を下したのは、もちろんトゥルボーさまである。


 さすがは厳格なことで知られる〝風〟と〝死〟の女神。


 かなり激しめの処置を終えた直後だというのに、その表情や口調からは一切〝緩み〟というものが感じられなかった。


 感じられはしなかったのだが、



「いや、その人間に腰を抜かされ、愛娘に背負われる羽目になった状態で何を言っているのだ、そなたは」



「……」



 イグニフェルさまの突っ込みに、今まで冷静を装っていたトゥルボーさまの顔がかあっと赤くなっていく。


 そう、口ではああ言っていたトゥルボーさまだったが、現在の彼女はちょこんっとオフィールに背負われている状態だったのである。



『……』



「~~っ!?」



 じー、と全員から無言の視線を向けられること数秒ほど。


 ついに耐えられなくなったらしいトゥルボーさまは、「だ、黙れこの尻軽女!?」と力の限りにイグニフェルさまを指差して声を荒らげ始めた。



「だ、大体なんなのだこの人間は!? あ、あんなものたとえ淫魔の雌であろうとも耐えられるはずなかろう!? むしろこの男自身が淫魔なのではないかと途中から勘ぐったぐらいだわ!?」



「ええっ!?」



 ちょ、そんな風に思われてたの!?


 俺、普通に頑張っただけなんだけどなぁ……。


 まさかの淫魔呼ばわりに俺ががっくりと肩を落としていると、イグニフェルさまが「はっはっはっ!」と鷹揚に笑って言った。



「〝淫魔〟とはまた言い得て妙なことを。よほどよき契りであったようだな」



「よ、よいことなど何もないわ!?」



「クックックッ、だが〝満足させろ〟と煽ったのはそなたの方であろう? ならば自業自得というものぞ?」



「そ、それは……。だ、だが誰もあそこまでやれとは言っておらぬ!? お、おかげで我はあんな……あんな……っ!?」



 ~~っ!? と何かを思い出したらしく、トゥルボーさまが愕然と真っ赤になった顔を両手で覆う。



「……ぷっ」



「笑うなーっ!?」



 そしてそんな彼女の様子に、イグニフェルさまは笑いが止まらなそうなのであった。



      ◇



 とにもかくにも、これで全員にフェニックスシールが刻まれ、女神さまたちに迫っていた危機は回避出来た。


 それは純粋に嬉しく思うのだが、問題はエリュシオンのことである。


 今や創世神となったあの男を止めるには、やはりそれに比類する力が必要不可欠であろう。



 そう、《スペリオルアームズ》の究極形――聖女七人による〝同時融合〟だ。



 だがそのためにはエルマにもフェニックスシールを刻まねばならない上、さらにはエリュシオンによって砕かれてしまった神器――つまりは〝剣〟の聖神器についてもどうにかしないといけないのだが、神器は元々フィーニスさまが生み出したものだからな。


 彼女も「私が直すから大丈夫……」と微笑んでくれていたので、それに関しては問題ないと思うし、俺たちもそのつもりでいた。


 が。



「えっと、なんか普通に浄化出来ちゃったんだけど……」



『えぇ……』



 というように、エルマが試しに聖剣を近づけてみたところ、普通に折れていた神器ごと聖神器に昇華出来たらしく……。



「なんで、勝手に直したの……っ? 私が直して、あの子に、いっぱい愛してもらうはずだったのに……っ」



「ひ、ひいぃ~!? ご、ごめんなさい~!?」



 ごごごごごっ、とフィーニスさまから理不尽にぶちギレられていたのだった。

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