《聖女パーティー》エルマ視点47:くっ、豚のくせに……っ。


 話は少々遡り、エリュシオンとかいう顰めっ面のおっさんが、魔物たちとともにどこかへと去っていったあとのことだ。



「!」



 とにもかくにも一度ドワーフの里へと戻ろうという話になる中、ふとあたしの目に止まったのは、エリュシオンに踏み砕かれて真っ二つに折れてしまった一振りの剣だった。



 ――そう、あたしの聖神器になる予定だった〝剣〟の神器である。



「……」



 ――つんつん。



 こんな状態だし、使い物にならないのは分かっているのだが、なんとなく神器のことが気になったあたしは、もの凄く腰の引けた状態でこれをつま先つんつんする。


 べ、別に怖いとかそういうことじゃなくて、触れたら乗っ取られる的な話も聞いてるじゃない?


 だから念のためよ、念のため!


 まあ普通に大丈夫だったみたいだけど……。


 と。



「――何をしているの?」



「ひゃぎいっ!?」



 ふいに背後から声をかけられ、あたしは女子にあるまじき悲鳴をあげる。


 ちょ、ちょっといきなり誰よ!?


 思わずおしっこ漏らしちゃうところだったじゃない!? と抗議の視線を向けながら振り返ったあたしに、声の主であるティルナが不思議そうに小首を傾げて言った。



「それは……神器? 持って帰るの?」



「え、ええ、一応ね。あとで何かの役に立つかもしれないでしょ?」



「そう。分かった」



「え、ちょっ!?」



 そう頷くなり、ティルナは折れた神器をむんずと掴むと、それをぐるぐると布で包み、「じゃあ行こう」とそのままイグザたちの方へと向けて踵を返していったのだった。



「えぇ……」



 いや、そんな簡単に持っていかれたら、すんごい腰が引けた状態でつんつんしていたあたしが馬鹿みたいじゃない……。



      ◇



 ともあれ、ドワーフの里へと戻ってきたあたしは、イグザたちの邪魔にならないよう密かに豚を工房へと呼び出して言った。



「ねえ、あんたさ、これ直せたりしない?」



「えっ?」



 両目をぱちくりさせながら豚が包みを受け取り、それをぐるぐると開ける。



「……うん? ――ちょっ!?」



 言わずもがな、中身は先ほど回収した〝剣〟の神器であった。



「な、なんてものを渡してくれてるんですか!? わ、私も一応〝聖者〟なんですよ!?」



 当然、めちゃくちゃビビりまくる豚に、あたしは「大丈夫よ」と腕を組んで言う。



「だってあんた一度黒人形だかになってるんだし、免疫みたいなのがあるでしょ?」



「いや、そんな風邪みたいに言われても!?」



 がーんっ、とショックを受けている様子の豚だが、あたしは気にせず問う。



「で、どうなの? 直せそう?」



「そ、そう言われましても……。確かこれはフィーニスさまのお力で出来ているのですよね?」



「みたいね。それをあたしの聖剣で浄化することで、二つが融合して聖神器になるらしいわ。まあ折れていなければの話なんだけどね」



「……なるほど」



 そう神妙に頷いた後、豚は真顔でこう言った。



「――では一度その〝浄化〟というものを試してみるのはいかがでしょうか?」



「……はっ?」



 え、何言ってんのこの豚。


 話聞いてなかったの?


 そう訝しげな瞳を向けるあたしに、豚は神器を机の上に広げて言う。



「元々フィーニスさまのお力で出来ているというのであれば、実体はあってないようなものですし、聖剣と混ざり合った際に修復出来るのではないかと思いまして」



「いや、そんな単純な話じゃないでしょ……」



 はあ……、と嘆息しつつ、あたしは一応聖剣を鞘から抜いて神器に近づけてみる。


 すると。



 ――ぱあっ!



「「えっ?」」



 突如聖剣が淡い輝きを放ち、粒子状に分解されたかと思いきや、神器に吸い込まれるように同化していく。


 そして輝きが一層激しくなった直後――神々しい一振りの剣があたしたちの前に姿を現したのだった。



 ――紛れもなく〝剣〟の聖神器である。



 もちろん刀身はがっつり修復済みだ。



「「……」」



 いや、普通に出来ちゃったんですけど……。


 当然、呆けながらその光景を見据えるあたし。


 まあ皆が喜んでくれるんなら別にいいんだけどね……。



「ふっふっふっ(にやっ)」



 でも豚がどや顔してるのは微妙にムカつくわー!

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