155 人妻と全裸神


 何故神であるフルガさまの身体にフェニックスシールが刻まれているのか。


 もしやと思い、俺はイグニフェルさまにもフェニックスシールが刻まれていないかを確認してもらおうとする。



「ふむ、よかろう」



 ――ごうっ!



「ちょっ!?」



 すると、イグニフェルさまは男らしく(?)衣服を燃え上がらせ、俺たちの目の前で仁王立ちのまま全裸になった。


 以前拝見させてもらったが、相変わらず抜群のスタイルである。


 一応ここには俺と女性陣しかいないので、別段見られても構わないのだろうが、出来ればもう少し恥じらいを持っていただけると……。



「やっぱり……」



「ほう、これは驚きだ」



 ともあれ、やはりイグニフェルさまの下腹部にも、フルガさまと同じくフェニックスシールが刻印されていた。


 恐らくは力を奪われたことで神から人へと堕とされたような感じになっているのだろう。


 だから神には刻まれるはずのないフェニックスシールが刻まれているのだ。


 そしてフェニックスシールが刻まれているということは、すなわち彼女たちに俺の力が流れ込んでいるということ。



 つまり――〝消滅を回避出来る〟ということにほかならない。



「なるほど。そういうことか」



 やっと得心がいったと頷き、俺は皆にその事実を告げる。


 すると、イグニフェルさまが腕を組み、不敵な笑みを浮かべながらその豊かな胸をどんっと張ったのだった。



「さすがは我の見込んだ男よな。誠に天晴れなりぞ!」



「ど、どうも……」



 ただ褒めてくれるのは嬉しいのだが、出来れば服を着てもらえるとありがたい俺なのであった。



      ◇



 というわけで、なんとか女神さまたちを助けることの出来る術を見つけはしたものの、方法が方法である。


 となれば、当然素直に受け入れられない方がいるのも頷ける話だった。



「いや、四の五の言ってる場合じゃねえだろ!? ちょちょいとヤッちまえばそれで助かるんだぞ!?」



「ば、馬鹿者!? そういう問題ではないわ!?」



 というか、普通にトゥルボーさまである。


 本当は上体を起こしているだけでも辛いはずなのに、彼女は真っ赤な顔で声を荒らげていたのだ。



「やれやれ、同じオルゴーの半身とは思えぬ臆病さよな。一体何を恥じらう必要があると?」



 いや、あなたはもう少し恥じらってください。


 てか、早く服を着てください。



「黙れこの痴れ者めが!? 我は貴様のように尻の軽い女ではないのだ!? 〝歌〟の一つも交わしておらぬ男となどまぐわえるはずなかろう!?」



「……歌?」



 一体なんのことだろうと俺が小首を傾げていると、ティルナが「うん。歌は大事」と説明してくれる。



「わたしたちのような人魚やエルフなんかの亜人は、気になる人に〝歌〟をプレゼントするの。そしてそれを受け取った方もまた歌でお返事をする。歌は感性の塊のようなものだから、お互いの相性を知るのにとても重要」



「な、なるほど……」



 まあお付き合いをする上で相性は大事だからな。


 たぶん歌詞のないメロディー的なものを贈るのだとは思うけど、なんともロマンチックな風習である。


 トゥルボーさまが気に入るのも分かる気がするな。


 ただそうなってくると、俺も何か歌った方がいいということになるのだろうか。


 でも歌と言われてもなぁ……。


 二人で旅をしていた頃にエルマが口ずさんでいた変な歌くらいしか思いつかないんだけど……。


 うーん、と俺が難しい顔で唸っていると、イグニフェルさまが困惑したように言った。



「そなた、あれだけ人の子を育てておいて今さら生娘のようなことを言うのだな。風格的にはすでに人妻ぞ?」



「だ、誰が人妻だ!? というか、貴様はいい加減早く服を着ろ!?」



 ずびっと力の限りに指を差されたイグニフェルさまは、未だに全裸のまま仁王立ちを継続中なのであった。

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