149 女神の子


「……あなたはイグザとの子どもが欲しいの?」



 俺たちが唖然と固まる中、ティルナがフィーニスさまに問いかける。


 すると、フィーニスさまは「ええ、欲しいわ……」と頷いて続けた。



「だって私には魔物たちしかいないもの……」



「それは……」



「でも魔物たちは私とお話をしてはくれない……。創造主だとは認識していても、〝母〟だとは思ってくれない……。私はこんなにも愛しているのに、彼らは私を愛してはくれないの……」



「「「「「「……」」」」」」



 どこか寂しそうに淡々とかぶりを振るフィーニスさまに、俺たちも思わず口を噤む。


 確かに彼女のしてきたことを考えれば、到底許すことは出来ないだろう。


 だが正直、フィーニスさまの心情も分からなくはない。


 生まれた瞬間からオルゴーさまとの対比に悩み、迫害され、あまつさえ虚無の彼方へと封印されてしまったのだ。


 それも永劫に等しい時間を独りぼっちでである。


 彼女の根底にあるのが〝寂しさ〟だということも、なんとなくだが理解している。


 だからこそ同じ時を生きられる存在が欲しいのだろう。


 決して自分を迫害せず、愛した分だけ自分を愛してくれる存在。



 ――そう、〝子ども〟を。



 それもただの子どもではない。


 フィーニスさまと同じ〝神〟としての力を持つ子ども。


 それを彼女は俺と作ろうとしているのだ。



「で、でもちょっと待ってください!? いくらイグザさまが限りなく神に近い力を持つとはいえ、彼は紛れもなく〝人間〟です!? 人の形をしているとはいえ、エネルギー体であるあなたたち女神と子どもを作れるとは思えません!?」



 マグメルの疑問を聞くなり、フィーニスさまが一転して嬉しそうに顔を歪めて言った。



「ええ、ええ、そうなの……。だから私はこの子に〝神器〟を与えているの……」



「……えっ?」



「神器を浄化した〝聖神器〟は、私とオルゴーの力が混ざり合った極めて珍しい武装……。そしてそれら七つを持つ者たち全てを制御出来るこの子なら、私たちよりも完璧な神になれるわ……。そう、私に赤ちゃんを宿すことだって出来るようになるの……」



「……つまりあなたはイグザを真の意味で〝神〟にしようとしていると?」



 訝しげに問うアルカに、フィーニスさまはこくりと頷いて言う。



「ええ、そうよ……。《スペリオルアームズ》だったかしら……? 確かにあれの究極形なら今の私ですら倒すことが出来るわ……。でもそれを発動させた瞬間、あなたは極めて神に近い存在へと昇華する……。その時にオルゴーの力を取り込んだ私と接触したら何が起こると思う……?」



 うふふ……、と不気味な笑みを浮かべるフィーニスさまに、俺はごくりと固唾を呑んで尋ねる。



「……何が、起こるんですか?」



 すると、フィーニスさまはやはり大きく口を歪めて言ったのだった。



「私と、身も心も〝一つ〟になることが出来るの……」



      ◇



 一方その頃。


 ドワーフの里のお色気相談は、さらに踏み込んだ内容へと移行していた。



「そんなもん、さっさと子作りでもなんでもすればよかろうて」



「こ、〝子作り〟とか言わないでよね!? 余計恥ずかしくなってくるじゃない!?」



「じゃがやらねば〝終焉の女神〟とやらは倒せんのじゃろう? ならば悩んどる場合ではないじゃろうに」



「そ、それはそうだけど……」



 ちらり、とエルマがシヴァに助けを請うべく視線を向けると、彼女は妖艶に笑って言った。



「言っておくけど――彼、凄いわよ?」



「んなっ!?」



 かあっとエルマの顔が一瞬にして茹で上がる。


 確かに以前イグザが一晩で聖女全員の相手をする性欲おばけだという話は聞いていたが、そんなものを未経験のエルマにぶつけられた暁には、ポルコの持っていた本のような展開になってしまうこと間違いなしであろう。


 だが未だ若干の気まずさが残っているイグザの前でそんな恥ずかしい真似は絶対にしたくない。


 ゆえにエルマは至極真剣な面持ちで二人にこう頼み込んだのだった。



「お、お願い! どうすれば〝ダブルピース〟しなくて済むか教えてちょうだい!」



「「……えっ?」」



「……えっ?」



 一拍の後。



「「「えっ?」」」



 その後、自分がとっても恥ずかしい勘違いをしていたことを知ったエルマは、「……あたしもう何も喋らない」としばらくの間工房の隅で膝を抱えることになるのだった。

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