148 いじめる人たちは嫌い
〝あなたと同じ顔の子たち〟――間違いなくフィーニスさまはそう言った。
それが指し示すものなど一つしかない。
そう、ザナを元に作られ、今も軍事都市ベルクアにいるはずのアイリスたちだ。
しかも彼女たちを犠牲にして、もう一人の《剣聖》を生み出すとフィーニスさまは言った。
ならばアイリスたちは――。
「……待ちなさい。あなた、あの子たちに何をしたの?」
愕然と両目を見開き、ザナがフィーニスさまに問いかける。
すると、フィーニスさまは両手を合わせ、嬉しそうに言った。
「あなたたちにはとても感謝しているわ……。たとえ紛い物でも、あれだけ《天弓》が揃っていれば、《剣鬼》のスキルを無理矢理 《剣聖》にすることが出来るもの……」
「質問に答えなさい! アイリスたちに何をしたの!?」
もの凄い剣幕で問い質すザナだが、フィーニスさまの顔から笑みが消えることはなく、しかも彼女を無視して「もう少しだけ待っていてね……」と俺に笑いかけてくる。
「馬鹿にして……っ」
当然、この状況で無視されたザナが冷静でいられるはずもなく、オフィール同様聖神器を構え始める。
「ちょ、ザナさん!?」
慌てて止めに入ろうとするマグメルだが、今のザナに彼女の声は届かず、静かにこう警告した。
「どきなさい、マグメル。でないとあなたごと射貫くことになるわ」
「うっ……」
よほど強い殺気を放っていたのだろう。
思わずマグメルが後退る。
そんなザナの様子に、オフィールがククッと笑みを浮かべて言った。
「おい、どうしたよ? お姫さま。今は落ち着いた方がよかったんじゃねえのか?」
「前言を撤回するわ。行くなら合わせてあげるから好きになさいな」
「はっ、そう来なくっちゃな!」
「――っ!」
どんっ! と揃って大地を蹴った二人をアルカ一人で止めることは出来ず、「くっ、馬鹿どもが……っ」と唇を噛み締める。
「このクソ女神がッ!」
――ぶんっ!
「アイリスたちを返しなさいッ!」
――どひゅう!
そうして同時にフィーニスさまへと仕掛けた二人の攻撃を、
――がきんっ!
「「――なっ!?」」
俺が――受け止めた。
オフィールの戦斧を籠手の上腕で、ザナの矢を横から掴むように、それぞれ彼女たちに背を向けたまま受け止めたのである。
「おい、イグザ!?」
「どうしてその女を庇うの!?」
当然、納得がいかないとばかりに声を荒らげる二人に、俺は「ごめん、二人とも……」と一言謝りつつ、フィーニスさまに鋭い視線を向けて言った。
「彼女たちの攻撃は俺が防ぎました。だからあなたも彼女たちに向けて放とうとしていたあの〝黒い槍〟を解除してください」
「「……えっ?」」
二人が揃って目を丸くし、そして自身の周囲を見やって〝それ〟に気づく。
そう、彼女たちの背後の地面からは、その背を射貫かんばかりに〝黒い槍〟らしき物体が生えていたのである。
もし二人の攻撃を俺が止めていなければ、今頃はフィーニスさまによって容赦なく串刺しにされていたことだろう。
それが分かっていたからこそ、俺は二人の攻撃を止めさせたのだ。
「こいつは……」
「嘘……。だってそんな気配なんて全然……」
ずずず、と地面に吸い込まれていく黒い槍を二人が唖然と見つめる中、フィーニスさまは薄らと笑みを浮かべて言う。
「私ね、嫌いなの……。私をいじめようとする人たちのことが、我慢出来ないほど嫌いなの……」
「ええ、分かっています。でもあなたは彼女たちの大切な人たちを奪った。いじめられるのは当然です」
「でも殺してはいないわ……。トゥルボーはただ眠っているだけだし、あの子たちも用事が済めばきちんと解放してあげる……。あなたが望むのなら、全部終わったあとにほかの女神たちを解放してあげてもいいわ……」
「……全部終わったあと? それは〝人と亜人を全て滅ぼしたあと〟ということですか?」
険しい口調で問う俺に、しかしフィーニスさまは「いいえ……」と首を横に振って言った。
「私とあなたの〝赤ちゃん〟が出来たあとのことよ……」
「「「「「「――っ!?」」」」」」
当然、何を言っているのかと揃って固まる俺たちだった。
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