141 二度は負けさせない


 黒人形化を克服したボレイオスは、まさに鬼神の如き強さを誇っていた。



「ぬおあああああああああああああああああああああああああああッッ!!」



 ――ずがあああああああああああああああああああああああんっ!



「「ぐうっ!?」」



 力任せに振り下ろした一撃は巨人状態の時とほぼ同等――しかも人の身に戻ったことで速さだけが格段に増しており、避けたかと思いきや即座に二撃目三撃目が飛んでくる始末だった。


 おかげで里はほぼ壊滅状態であり、攻撃の余波を必死に避けていたシヴァさんも、「いい加減にしないと全員まとめて海の底に沈めるわよ!?」と額に青筋を浮かべていた。


 と。



「どうした? 避けるばかりでは我には勝てぬぞ?」



 ボレイオスが相変わらず厳かな顔つきでそう挑発してくる。


 もちろん俺たちだってこのまま回避に徹するつもりはない。



「はっ、てめえの力がどんなもんか確かめてたんだよ」



 そう、オフィールの言うとおり、俺たちは黒人形化を克服したボレイオスの力を見極めていたのだ。



「ほう? それは殊勝なことだ。で、何か成果はあったのか?」



「おうよ。相変わらず馬鹿みてえに力がつええ上に動きも無駄にはええ。ついでに言うなら顔もこええの三冠王だぜ」



「クックックッ……。貴様は相変わらず面白い女だな、聖女オフィール。救世主の女でなければ我がものにしたかったくらいだぞ」



「はっ、そいつは嬉しいねえ。あたしもあんたみたいに強い男は嫌いじゃないぜ? でもやっぱりダメだ。何せ、あんたより強い男が今ここにいて、あたしを優しく包み込んでくれている。そしてあたしはそいつにぞっこんだ。つーわけで諦めてくんな」



 オフィールがそう肩を竦めると、ボレイオスはにやりと口元に笑みを浮かべて言った。



「いいだろう。ならば貴様の言う強き男――このボレイオスが打ち倒してくれるわッ!」



 どぱんっ! と大地を蹴り、ボレイオスが特攻してくる。


 その速度は〝雷〟の力を得た俺たち並みで、次の瞬間にはすでに眼前へと迫っていた。



「――グランドトールハンマあああああああああああああああああああああああああッッ!!」



 ――ぶおんっ!



 ボレイオスが両腕で神器を振り上げる。


 紛う方なき全霊の一撃だ。


 もしこれを避けたのならば、その衝撃でこの大空洞は瞬く間に崩壊するだろう。


 ゆえに俺たちは真正面からこれを迎え撃った。



「「――グランドテンペストブレイクッッ!!」」



 暴風を身につけ、限界まで身体を捻った横薙ぎの一撃だ。


 以前、オフィールは単身この武技でボレイオスに戦いを挑み、ただの力技に押し負けている。


 その武技がこうして再び全力のやつを迎え撃つことになろうとは、これも運命だろうか。


 通常で考えれば、力技に負けたものが武技として放たれた一撃に敵うはずはない。



 だが――あの時とは何もかもが違う。



 さらなる女神の力も得たし、《スペリオルアームズ》も発動済みだ。


 そして何より――。



「――今ここには〝俺〟がいるッ!」



 ずがああああああああああんっ! と互いの得物同士がぶつかり合い、衝撃で周囲の瓦礫が枯れ葉のように宙を舞う。



「「おるあああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」」



 シヴァさんが何かしらの防御壁を張っていてくれることを信じ、俺たちは全力で踏ん張り続ける。



「ぬああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」



 それはボレイオスも同じで、やつも全身の筋繊維をぶちぶち言わせながら、俺たちを打ち砕くべく雄叫びを上げていた。


 最中のことだ。



 ――べきっ!



「――っ!?」



 凄まじい衝撃と閃光が辺りを目映く照らす中、ボレイオスの持つ神器の刃に亀裂が走る。



「まだだああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」



 だがボレイオスはさらに力を込め、限界を超えたやつ自身の身体も徐々に砕け散っていく。


 たとえ〝もうやめろ〟と告げたところで、ボレイオスは退かないだろう。


 ならば俺たちに出来ることはただ一つしかない。



「「うおあああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」」



 全力で――やつを叩き潰すことだ!



 ――ばきんっ!



「――なっ!?」



 その瞬間、ボレイオスの神器は粉々に砕け散った。


 当然、無防備になったやつに俺たちの一撃を防ぐことは出来ず――。



 ――ずしゃあっ!



「がはあっ!?」



 その巨体に聖斧が深々と食い込んだのだった。

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