142 決着と復興


「……見事だ、救世主。そして聖女オフィールよ……」



 地面に力なく横たわり、ぼろぼろと身体を風化させながらボレイオスが笑みを浮かべる。


 その顔は実に満足げで、なんの未練も残っていなそうだった。


 通常であれば、黒人形化された人物が死んでいない場合、浄化によって元に戻ることが出来るはずなのだが、どうやらこれを克服すると浄化しても元には戻れないらしい。


 フィーニスさまの意思に背いた報いなのか、なんとも救われない結末だ。


 だがきっとボレイオスもシャンガルラ同様、蘇生は望まないだろう。


 ゆえに俺たちは揃って地に片膝を突き、彼の最期を見届けていた。



「おめえも相当強かったぜ? おっさん。まあうちの旦那ほどじゃねえけどな」



「……ふ、そうか。確かに貴様の男は強かった……。聖女を己が力にするなど、まさに救世主にしか出来ぬ奇跡だ……」



「いや、俺だけの力じゃないさ。《スペリオルアームズ》は互いの心が通じ合ってはじめて発動出来る代物だからな。褒めるならオフィールを褒めてやってくれ」



「おう! あたしは褒められて伸びるタイプだぜ!」



 にっと歯を見せて笑うオフィールを微笑ましく思いつつ、俺は「それに」と続ける。



「〝奇跡〟だって言うのなら、それはむしろあんたの方だろ? 何せ、あんたは聖者たちの中で唯一黒人形化を克服したんだからな。創世の女神の片割れ――終焉の女神フィーニスの力をあんたは打ち破ったんだ」



「……そう、だな。我が意思は、神にすら一矢報いることが、出来た……。せいぜいあの世で、シャンガルラのやつに……語り、聞かせて……やろ、う……」



 ふっと笑みを浮かべながら、ボレイオスの身体が塵となって風にさらわれる。



「「……」」



 その様をきちんと見届けた俺たちは、互いに頷いた後、未だ水を塞き止め続けているシヴァさんのもとへと急ぎ向かっていったのだった。



      ◇



 そうして族長の女性に現状の説明をしつつ、ボレイオスの掘り進めてきた穴を海側から塞いだ俺たちだったが、ここでとある問題に直面していた。



 ――そう、ほぼ壊滅状態となったミノタウロスの里の復興に、ポルコさんを招喚するか否かである。



 いや、普通に考えれば呼ぶに越したことはないのだが、あの人〝超〟がつくほどの巨乳好きだからなぁ……。


〝巨乳の楽園〟とも言うべきこのミノタウロスの里に呼んでいいものなのか、その判断に迷っていたのだ。



「まあ別にいいんじゃないかしら? 確かに一抹の不安は残るけれど、大好きなおっぱいがたくさんあるのだもの。ちょっと餌を吊り下げてあげれば死に物狂いで頑張るでしょう?」



「だな。あのデブ、乳のことになると目の色変わりやがるからな。ドM女にぞっこんかと思いきや、あたしたちのことも舐めるように見てきやがったし」



 それは初耳である。


 ちょっとあとで話をしようか、ポルコさん。



「まあでも確かにここの復興にはポルコさんの――〝ドワーフ〟の力が必要不可欠だし、彼に頼むしか……って、うん?」



 そこで俺はふと考える。



 ――別にドワーフであればポルコさんでなくともよいのではなかろうか、と。



 得意分野ではないかもしれないが、〝稀代の天才〟の異名を誇るナザリィさんなら安心してお任せ出来るし、彼女は何より〝女性〟である。


 であればおっぱいに固執することもないし、皆さんにご迷惑をかけることもないはずだ。


 うん、いいかもしれない。


 というわけで、俺はポルコさんの代わりにナザリィさんを呼ぶのはどうかと提案してみたのだが、



「――いや、あいつ乳ねえけど大丈夫なのか?」



「……」



 とんでもない事実を忘れていたことに気づき、「そうだった……」と思わず頭を抱えたのであった。

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