140 武人の矜持


「「――グランドヘルディストラクションッッ!!」」



 ――ずぐしゃああああああああああああああああああああああああああっ!



「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!?」



 防御無視の超強力な斬撃がボレイオスの胸元に深く刻み込まれる。


 元来ならば、その強固な胴ごと真っ二つに分断しているところなのだが、さすがはフィーニスさまに黒人形化された聖者と言ったところだろうか。


 かなりの深手を与えはしたものの、未だ戦闘続行の意思を見せ続けていた。


 まあ恐らくは耐えるだろうと思ってぶちかましたので、こちらとしては予想通りなのだが。



「やっぱ図体がでけえと攻撃も通りづれえなぁ」



「でも今のは結構効いたみたいだぞ。ほら、その証拠に足が止まってるしな」



 俺の言葉通り、ボレイオスは「グググ……ッ」と砕かれた胸元を押さえながらこちらを睨みつけていた。


 確かに図体がでかければでかいほど攻撃も通りづらくはなる。


 だが同時に的もでかくなる分、攻撃を当てやすくなるのも事実だ。


 そしてそれが分かっていたからこそ、ボレイオスは雷の鎧を纏ったのだろうが、あいにくとこっちは不死身の上に脳筋だからな。


 悪いがあんたの戦法は端から意味がないんだよ。



「さて、おっさんの勢いも随分と削がれちまったようだし、このままだとオフィールちゃんたちの独擅場になっちまうぜ?」



「グ、ガ……ッ」



 オフィールの挑発に、悔しそうな表情を見せるボレイオスだったのだが、



「……アリ、アドネ……ゲル……ニカ……ッッ!!」



 ――ぶおうっ!



「「――っ!?」」



 先ほど雷を纏った時同様、何か呪文のようなものを口にした瞬間、やつの身体が黒いオーラのようなものに包まれる。


 また新しい防御術だろうかと揃って警戒していると、目を疑うようなことが起こった。



「お、おい!? おっさんが縮んでいくぞ!?」



 そう、ボレイオスの身体がみるみる縮み始めたのだ。


 まさか先ほどのダメージで幻想形態を維持出来なくなったのだろうか。



「とりあえず俺たちも降りてみよう。もしかしたらこのまま浄化出来るかもしれないしな」



「ちょ、マジかよ!? あたしはまだ全然暴れ足りねえぞ!?」



 不満げな様子のオフィールを宥めつつ、俺たちは地上へと降り立つ。


 ボレイオスはほぼ元のサイズまで戻りつつあり、未だに黒いオーラが身体中を渦巻いていたのだが、



 ――ばしゅうっ!



「「!」」



 唐突にそれが弾け飛び、身体こそ黒い装甲に覆われてはいるものの、顔はボレイオス本来の容姿が剥き出しになっていた。


 そしてやつは厳かに閉じていた瞳を開けて言う。



「……久しいな、聖女オフィール。そして救世主よ」



「「――っ!?」」



 その言葉に、俺たちは揃って目を見開く。


 見た感じ、完全に正気を取り戻しているようにも思えるのだが、まさかフィーニスさまの呪縛を自ら破ったというのだろうか。



「お、おい、おっさん!? おめえ、普通に意識があるのかよ!?」



 驚いたように問うオフィールに、ボレイオスは「ああ、そうだ」と頷いて言った。



「女神フィーニスによる神器の浸食を受けた際、我は完全に乗っ取られる前に自ら自我を封じた。そして貴様らの攻撃によって隙の生まれた仮初めの人格を、今まで溜め込んだ力で一気に塗り替えたというわけだ」



「お、おう、そうか……。よく分かんねえけど、おっさんの根性が勝ったってことだな?」



「まあそういうことだ。だが身体の方は完全に浸食されてしまった。これは貴様らの〝浄化〟とやらを受けぬ限り元には戻らぬだろう」



「あ、なら――」



 と俺が浄化を提案しようとした瞬間。



 ――ぶおんっ!



「「ぐっ!?」」



 突如ボレイオスが神器を大きく振り回し、俺たちを衝撃波が襲う。


 一体何をするのかと眉根を寄せる俺たちに、ボレイオスは神器を構えながらこう言ってきた。



「勘違いするな、救世主。我は今のこの肉体を気に入っている。我が力を最大限に引き出せるこの異形の姿をな」



「なんだと……?」



「そして目の前には地上最強の男と、それを最強たらしめている聖女がいる。ならば我のとるべき道は一つしかなかろう?」



 じゃきっと神器を握り直すボレイオスに、堪らずオフィールが笑い声を上げた。



「はっ、いいじゃねえか、イグザ! 要はさっきの続きをしようってこった! わざわざ正気を取り戻してまであたしたちの前に立ったんだ! 断る理由なんざなんもありゃしねえよ!」



 とても嬉しそうにそう声を張り上げるオフィールに、俺も仕方ないと口元を和らげて言ったのだった。



「……分かったよ。なら今度こそぐうの音も出ないほどに叩き潰すぞ!」



「おうよ!」



 大きく頷くオフィールとともに、俺たちはボレイオスとの最終決戦へと臨んだのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る