134 不可能への挑戦


「早く揉んでぇ~!? そしてあたしを爆乳にしてぇ~!?」



「お、落ち着け、エルマ!? それは物理的というか可能性的に無理だ!?」



「〝可能性的に無理〟って何よ!? 少しぐらいはあるでしょ!?」



 それがないから困ってるんだろ……。


 乳を揉めとひたすら迫ってくるエルマに、俺が為す術なくいた時のことだ。



「――落ち着いてください、聖女さま」



「「!」」



 どこからともなく聞こえてきた男らしい声音に、俺たちははっと意識を持っていかれる。



 そこで静かに佇んでいたのは――そう、ポルコさんだった。



 どうやらマグメルが治癒術をかけてくれたらしく、瀕死状態から奇跡の生還を果たしたらしい。


 唖然と口を半開きにする俺たちに、ポルコさんはやはり男らしい顔で言った。



「大丈夫です。あなたのお胸はこの不肖ポルコめが必ずや爆乳へと育て上げてみせます!」



 ぐっと拳を握って断言するポルコさんに、エルマも「豚……」と希望を見たかのように距離を縮めていったのだが、



「って、あんたはただあたしのおっぱい触りたいだけでしょ!?」



 ――ぱんぱんぱんぱんぱんぱんっ!



「あぶおぶあぶおぶあぶおぶっ!?」



 あっという間に本心を見透かされ、怒りの往復ビンタを食らっていた。



「ちょ、ちょっと待ってください!? た、確かにそういう気持ちがないわけではないですが、でも聖女さまの望みを叶えて差し上げたいというのは本当です!」



「……ふーん。嘘じゃないでしょうね?」



「も、もちろんです! 不可能への挑戦――イグザさまですら成し遂げられなかったこの偉業を達成させた暁には、私は男として彼の上に行けると信じていますから!」



「いや、そんなことで上に行かれても……」



 俺が呆れ気味に肩を落としていると、エルマは「なるほど。あんたの本気度は理解したわ」と頷いた後、



「でも〝不可能への挑戦〟って何よ!? あんたも可能性的に無理だと思ってるんじゃない!?」



 ――ぱんぱんぱんぱんぱんぱんっ!



「あぶおぶあぶおぶあぶおぶっ!?」



 再び怒りの往復ビンタを容赦なく見舞っていたのだった。



      ◇



 そんなこんなでポルコさんが再び死に瀕していることはさておき。


 俺たちは半壊した宿の一階に集まり、今後についての話し合いをしていた。


 ちなみに、宿に関しては後ほどポルコさんがドワーフパワーで修復してくれるらしい。


 正直、どうしたものかと悩んでいたのでありがたい限りである。


 ともあれ、元来であればフェニックスフォームに皆を乗せ、黒人形化された〝斧〟の聖者――ボレイオスのもとへと向かうはずだったのだが、先の一戦を挟んだことで時間的に余裕がなくなってしまったのだ。


 となれば、ティルナを主体とした水中戦は諦め、ほかの黒人形たちと同じく対応した聖女とシヴァさんを連れていくしかない。


 そう判断を下したところ、



「いやぁ、そりゃ残念だなぁ!」



「「「「「「……」」」」」」



 HAHAHA! とにやにやの止まらないオフィールに、ほかの女子たちが揃って半眼を向ける。


 まあ当初の予定だと、オフィールの《スペリオルアームズ》は出番がなかったからな。


 当然、危険度は上がるわけだが、彼女としては願ったり叶ったりだったのだろう。



「おう、デブ! おめえもなかなか役に立つじゃねえか!」



「い、いえ、喜んでいただけたようで何よりです……ごふっ」



 ご機嫌なオフィールに背中をばんばん叩かれ、瀕死だったポルコさんのライフがさらに減っていく。


 てか、顔がジャガイモみたいになっているのだが、あれは大丈夫なのだろうか……。


 と。



「礼代わりに乳の一つでも触らしてやりてぇところなんだが……わりぃな。こいつは揃ってうちの旦那のものだからよぉ」



「ぐぎぎ……っ」



 いや、そんな血の涙を流すほど悔しがらなくても……。



「あー、じゃあ代わりにあれだ。ドM女の乳でも触ってこいよ」



「えっ!? よろしいのですか!?」



「よ、よろしいわけないじゃないですか!? というか、何故〝ドM女〟と聞いて私の方を向かれたのです!?」



 ぎょっと両目を見開くマグメルに、何故かポルコさんは恥じらうように言った。



「い、いえ、なんかこう雰囲気的に……。そうだったらいいなと……」



「と、とにかく私の全てはイグザさまのものですから絶対にダメです!?」



「ぐぎぎぎぎ……っ」



 いや、だからそんな血管切れそうな顔でこっちを見るな……。


 今一度黒人形化しそうなポルコさんに、俺はがっくりと肩を落としていたのだった。

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