132 砕け散る想い


「「――グランドフルアダマントキャッスル!!」



 どがんっ! と大盾を構えた俺たちを覆うように、まるで城塞を思わせる巨大な建造物が出現する。


 何人もこれ以上は絶対に通さない完全無欠の大防御壁――それがこの《アダマントキャッスル》である。


 シヴァさんの《スペリオルアームズ》の中でも最上位の術技ゆえ、一度発動させれば動くことは叶わないが、そもそも動く必要などありはしなかった。



「――来いよ。この盾は俺たちの絆の強さで出来ている。だからあんたには絶対に破れはしない」



「グ、ギギ……ッ」



「ふふ、そうね。私たちの愛の力をせいぜい思い知りなさいな」



 シヴァさんが余裕を孕ませた声でそう告げると、黒人形の中で何かが切れたらしく、やつは声を荒らげながら猛然と大地を蹴った。



「ハーレムオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウウウウウッッ!!」



 ――ずがああああああああああああああああああああああああんっっ!!



 俺たちの〝盾〟と黒人形の〝盾〟が峻烈にぶつかり合い、巻き起こった衝撃波が凄まじい勢いで積もった雪や氷を弾き飛ばしていく。


 当然、周囲の民家などは大丈夫かと心配になったが、このエストナは豪雪地帯ゆえ、それらも頑丈に出来ているらしく、ぱっと見倒壊などは起こしていないようだった。


 そしてこれだけの衝撃を受けているにもかかわらず、俺たちの〝盾〟はびくともしていなかった。


 その証拠に、俺たちの後ろにいる女子たちは衝撃波などの影響をまったく受けておらず、皆平然とした顔で事の成り行きを見守っていた。



 ――べきっ!



「グギッ!?」



 最中、黒人形の〝盾〟に亀裂が走る。


 自ら放った衝撃に装甲が耐えられなくなったのだろう。



「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」



「「!」」



 だが黒人形は一切退かず、逆に踏ん張りを強めて迫ってきた。


 一体何が彼をそこまで駆り立てているのだろうか。



「女アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」



「……」



 いや、駆り立てている理由は分かっているのだが、このままではいずれ自滅するだけだ。


 それでもなお前に進もうというのか、ポルコさん……。



「嫁エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッ!!」



 ――べきばきっ!



「……分かった。ならあんたのその思いは俺たちがここで全部受け止めて――そして打ち砕く。いいかな? シヴァさん」



「ええ。あなたの御心のままに」



「――っ!?」



 ばきんっ! とついに耐え切れなくなった黒人形の装甲が砕け散り、やつは衝撃で仰け反る。



「――マグメル!」



「は、はい!」



 その瞬間、俺は《アダマントキャッスル》とともに《スペリオルアームズ》を解除し、声を張り上げてマグメルを呼んだ。



 ――ごうっ!



 そうして飛び込んできたその華奢な身体を俺が優しく抱き締めると、彼女は目映い輝きとともに力強い炎へと変化し、俺と一つになる。



「「聖女武装――スザクフォームスペリオルアームズ!!」」



 本来ならば黒人形化されたヘスペリオス相手に使うはずだった〝杖〟の《スペリオルアームズ》だ。


 一層神々しくなった杖は言わずもがな、俺たちの周囲を七つの球体が浮遊している。


 それらは俺たちが黒人形に杖を向けた瞬間、杖の先端でくるくると円を描き始め、徐々にそのスピードを上げていった。


 そう、エネルギーを収束させているのだ。



「見てのとおり、マグメルは俺の嫁だ。だからあなたに渡すわけにはいかない。悪いな、ポルコさん」



 そして。



「「――グランドフルシャイニングレイ!!」」



 ――どばああああああああああああああああああああああああんっっ!!



 強烈な七色の閃光が黒人形に向けて放たれたのだった。

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