131 疾走する城壁
「~~っ!?」
「……」
なんか先ほどからエルマの顔色が赤くなったり青くなったりと無駄に忙しそうなのだが、一体どうしたのだろうか。
まあ操られているとはいえ、今まで一緒に旅をしてきたポルコさんが敵になってしまったのだ。
動揺するのも無理はないと思うのだけれど、さっき思いっきりぶん殴ってたからなぁ……。
たぶん動揺は全然関係ないんじゃないかなぁ……。
と、そんなことを思いつつ、俺は再びポルコさんへと視線を移す。
「グギ……ッ。ギギギ……ッ」
ドワーフと言うよりはオークのような見てくれになっているポルコさんは、俺に対して殺意にも似た感情を剥き出しにしているようだった。
俺のことを〝ハーレム王〟とか言っていたし、よほど羨ましく思っているのだろう。
だが俺だって最初からハーレム王だったわけではない。
散々辛い思いをしてきた末にそれが報われただけなのだ。
まあその辛い思いをさせてきた人がそこで悶えているのはさておき。
「俺……オ前……倒ス……ッ。ソウスレバ……女……全部……俺ノモノ……ッ」
べきばきとポルコさんの身体が肥大化し、全身が強固な装甲で覆われていく。
とくに前面の防御は厚く、両腕に装着されている大盾の異様さも相まってか、まるで全身が一つの〝盾〟のような感じになっていた。
恐らくはこれが彼の幻想形態。
いや、エルマの話だとポルコさんもまた五柱の女神たちの力を授かっているのだ。
ならばこれはフィーニスさまの力にオルゴーさまの力が合わさったはじめての形態と言ってもいいだろう。
その証拠に、これだけ重装なら満足に動けないはずだと考えていたのだが、
「俺ノ……女神イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!」
「「「「「「「「――っ!?」」」」」」」」
どばんっ! と凄まじい脚力で地を蹴ったポルコさんは、砲弾の如く俺たちの方へと突っ込んできた。
「くっ!?」
――どんっ!
「「きゃっ!?」」
――ずがんっ!
「ぐわっ!?」
「「「「「「「イグザ(さま)!?」」」」」」」
即座にマグメルとシヴァさんを突き飛ばした俺を、走る城壁と化したポルコさんが容赦なく轢いていく。
そのあまりに強烈な衝撃に、思わず意識が飛びそうになる俺だったが、なんとか歯を食い縛ってポルコさんにしがみつく。
というか、もしあのままマグメルとシヴァさんを弾き飛ばしていたらどうするつもりだったんだ?
なんとなく会話が成立しているから、まだ理性が残っているものと錯覚していたのだが、今ので確信した。
今の彼に理性はほとんど残っていない。
というより、欲望をぶつけることだけが頭を支配していて、ぶつける相手のことなどまったく考えてはいないのだ。
だから〝女神〟と慕っていたマグメルさえ轢こうとした。
黒人形化されている以上、それは仕方のないことなのだろう。
ポルコさん自身の意思ではないことも承知している。
だが――。
「それでも彼女たちを傷つけようとしたことに腹が立つッ!」
どがんっ! と俺は全力の拳をポルコさん……いや、〝盾〟の黒人形の顔面に叩き込む。
――ごごうっ!
そのまま装甲の隙間に炎を流し込むも、黒人形の足は止まらず、俺は一度やつから距離を取ることにした。
――ずざざざざっ!
すると、黒人形は両足で踏ん張るようにブレーキをかけ、先の攻撃にまったく怯んだ様子を見せずに言った。
「……女……俺ノ嫁……ッ。邪魔ヲ……スルナ……ッ」
「あんたの嫁じゃない。俺の嫁だ。今その証拠を見せてやる。――シヴァさん」
「ええ、準備は出来ているわ」
そう言って、シヴァさんが寄りかかるように俺の首に腕を回してくる。
「グギ……ッ」
その瞬間、黒人形がさらに苛立ったのが分かったが、俺は気にせず彼女の腰を抱く。
――ごうっ!
それが合図となったのかは分からないが、俺たちはともに猛々しく燃える炎に包まれ、〝盾〟の《スペリオルアームズ》を発動させたのだった。
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