110 発動条件


 そんなこんなで次の目標をダークエルフの聖者――カナンの浄化に決めた俺たちは、シャンガルラの時同様、〝眼〟となるシヴァさんと神器に対応する聖女――ザナを連れ、スザクフォームで急ぎエルフの里へと向かっていた。


 エルフの里はエストナから遙か南東の大森林地帯にあるといい、この速度なら先回り出来るかもしれないという話だった。


 もちろんエルフたちを巻き込まないで済むのならそれに越したことはない。


 出来れば途中で追いつけるといいのだが……。


 と。



「――ところで、例の彼女を抱く算段は出来たのかしら?」



「「……はっ?」」



 唐突にシヴァさんがそんなことを言い出し、思わずザナともども目が点になる。


 すると、シヴァさんは「ごめんなさい。私、一つ勘違いをしていたわ」と前置きしてからこう続けた。



「恐らくだけど、女神フィー二スを倒すには七人の聖女全員と《スペリオルアームズ》になる必要があるみたいなの」



「え、でも七つの疑似レアスキルを持っていれば大丈夫なんじゃ……」



「ええ、私も今まではそう思っていたわ。だからあの時もあなたにフィー二スを殺すよう言ったのだけれど……ごめんなさい。どのみちあの時点では無理だったみたい」



「えぇ……」



 じゃあもしあの時俺がフィー二スさまに一撃を入れていたら、殺すどころか逆に全員揃って殺されてたってことか……。


 たぶんフィー二スさまなら不死身の俺だって殺せるだろうし……。


 ひえぇ、早々に束縛を解いてくれてよかったぁ……。


 じゃなきゃ普通に一撃入れてたんですけど……。


 俺がそう顔色を青くしていると、ザナが不満そうに嘆息して言った。



「……で、その《スペリオルアームズ》を発動させるためにはイグザと物理的にも一つになる必要があると?」



「そうね。だってそうしないと〝フェニックスシール〟が刻まれないでしょう?」



「「!」」



 シヴァさんの言葉に、俺たちは揃って目を丸くする。


 なるほど。


 重要なのは抱く行為そのものではなく、フェニックシールによる繋がりというわけか。


 いや、でもなぁ……。



「えっと、事情は分かったんですけど、さすがにエルマを抱くのはちょっと……」



「あら、好みじゃなかったかしら? 確かに胸は控えめだったけれど」



 うん、それは俺が一番よく知ってる――って、そうじゃなくて!?



「いえ、そういうことではなく……。一応和解は出来ましたけど、まだ全然気まずさが残ってますし、そもそもあいつの方が嫌がるんじゃないかと……」



「ふふ、それはどうかしら?」



「えっ?」



 意味深な笑みを浮かべるシヴァさんに、俺が呆然と瞳を瞬いていると、ザナも不本意そうに同意してきた。



「そうね。ああいうタイプは押しとギャップに弱そうだし、気弱だったはずのあなたが男らしくぐいぐい行けば、意外とすぐ落とせるかもしれないわよ? なんなら壁ドンでもしてみたらどうかしら?」



「いや、壁ドンって……」



「あら、いいじゃない。帰ったら是非やってみてちょうだい。私も見てみたいし」とシヴァさん。



「いやいやいや……」



 壁ドンであのエルマが落ちたら苦労はせんわ……。


 てか、〝見てみたい〟ってそれただの興味本位じゃねえか!?



      ◇



 一方その頃。


 エストナの宿に残ったマグメルたちは、各々鍛錬をしたりお茶を飲んだりと、それぞれが自由に時間を潰していたのだが、やはり気になっていたのはエルマの存在だった。


 愛するイグザの幼馴染であり、彼を傷つけて絶縁されたという彼女に対し、全員が少なからず意識を向けていたのである。



「……はあ」



 まあ隅っこで膝を抱えているアルカディアのような者もいるが……。



「あの、エルマさん」



 ともあれ、このままではなんとも雰囲気が重苦しいので、マグメルは同じく部屋の隅で大人しくしていたエルマに話しかけることにした。



「な、何かしら?」



 急に話しかけられてびっくりしたのだろう。


 困惑している様子のエルマに、マグメルはなるべく優しい口調で言った。



「いえ、そろそろお連れの方を起こして差し上げてもよろしいのではないかと思いまして」



「あ、ああ、そういうこと……」



「はい。もしよろしければ私が治癒術をおかけしますがどうでしょうか?」



「ええ、お願いするわ。ありがとう、マグメル……さん」



「ふふ、マグメルで構いませんよ。では治癒術をおかけしますね」



 そう微笑み、マグメルは白目の男性――ポルコに治癒術をかけ始める。



「……う、ん~……」



 単に気を失っているだけなので、ポルコはすぐに意識を取り戻したのだが、



「――っ!?」



「?」



 マグメルの姿を見た彼は驚いたように目を見開いたかと思うと、彼女の手を取ってこう言ってきたのだった。



「め、女神さま……」



「えっ……?」

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