《聖女パーティー》エルマ視点35:超アウェーなんですけど……。
その少し前のこと。
あたしたちはフルガさまに連れられ、遙か北にある雪の都――エストナへと降り立っていた。
もちろん防寒装備もない上に寒冷系の耐性もないあたしは凍えるような思いをしていたのだが、豚は平然としており、この時だけは豚のお肉が羨ましく思えた。
ただ寒がるあたしの弱みにつけ込んで「て、手でも繋ぎましょうか……」と頬を染めてきた時は、限界まで振りかぶった渾身の右フックでもお見舞いしてやろうかと思った。
「フルガさま! ご無事で何よりです!」
「おう、お前らもな」
ともあれ、宿へと赴いたあたしたちを迎えたのは四人の女性たちだった。
性欲おばけ……もとい馬鹿イグザの毒牙にかかったというほかの聖女たちだ。
全員あたしよりもほんの少しばかりお胸が大きかったことはさておき。
当然、あたしたちが何者なのかを不思議がっている様子で、フルガさまが〝剣〟の聖女たちだと紹介してくれたのだが、
「――ほう、お前がイグザを散々な目に遭わせたという例の幼馴染か」
「げっ!?」
「はて? なんの話です?」
などといきなりあたしのイメージがぶっ壊れそうなことを言ってきたので、
「……おや? いきなり私の後ろに回られて一体どうしふぎゅうっ!?」
くたり、と豚には少々眠ってもらうことにした。
当て身だと風の防壁が発動しかねないので、今回は首をきゅっとした感じである。
白目をむいている豚を床にごろりと寝かせたあたしは、小さく嘆息して彼女に半眼を向けた。
「……危うくあたしのイメージが壊れるところだったんだけど?」
「なるほど。聞いていたとおりの性格らしいな。ともあれ、私はアルカディア。〝槍〟の聖女だ」
「私はマグメルと言います。〝杖〟の聖女です。それでこっちが――」
「オフィールだ。〝斧〟の聖女をやってる」
「そして私が〝弓〟の聖女――ザナよ」
「そう。もう聞いているとは思うけど、あたしはエルマ。〝剣〟の聖女でイグザの幼馴染よ」
てか、何この超アウェー……。
めちゃくちゃ気まずいんですけど……。
そして馬鹿イグザのやつはどこ行ったのよ……。
あたしがきょろきょろとあいつの姿を捜していると、アルカディアと名乗った女性が残念そうに口を開いた。
「すまんがイグザはここにいなくてな。今はほかの聖女たちとともに出払っているんだ」
「あ、そうなの……。ふーん……」
いや、なんでこのタイミングでいないのよ!?
余計気まずいじゃない!?
例えるなら元カノと今カノ(複数)が本人不在で同じ部屋にいるみたいな状況なんですけど!?
なんなのこれ!?
いや、その前にあたし元カノでもなんでもないんだけどね!?
……。
って、元カノだったわよ!?
世間的にはそういうことにしてたのすっかり忘れてたわ!?
と。
「――よし、んじゃオレは一度家に戻るから、あとは聖女同士適当にやってくれ」
……はっ?
「あ、はい。お気をつけて」
「おう。またな」
そう軽快に手を振って、フルガさまが部屋を出ていこうとする。
いやいやいやいや!?
普通この状況で出ていく!?
話聞いてたでしょあんた!?
が。
――ばたんっ。
無情にもフルガさまは部屋を出ていってしまった。
「「「「「……」」」」」
え、この空気どうすんの……。
ずーんっ、とあたしは一人魂が抜けそうになっていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます