78 無限の刃をこの手に


「「「イグザ(さま)!」」」



 女子たちの呼びかけに無言で頷いた俺は、スザクフォームでオフィールをお姫さま抱っこしたままマグメルたちのもとへと赴く。


 するとアルカたちも合流してくれたので、俺は全員に範囲治癒術を施した。



「う、ん~……」



「大丈夫か? ザナ」



「……ええ、心配ないわ。マグメルもありがとう。ずっと治癒術をかけていてくれたのでしょう?」



「いえ、ご無事で何よりです」



 ザナが意識を取り戻したことで、マグメルもほっと胸を撫で下ろしているようだ。



「さてと」



 全員の無事を確認した俺は、彼女たちをこんな目に遭わせたやつらへと視線を向ける。



「クックックッ、やっと本命のお出ましってわけか。――ざまあねえな、デカブツ」



「ああ、弁解の余地もない。この俺が防ぐことすら叶わなかった。――やつは強いぞ」



 三白眼の男の呼びかけに、大男がむくりと身体を起こす。


 最中、アルカが「気をつけろ、イグザ」と忠告してきた。



「やつらの名はシャンガルラとボレイオス。それぞれ〝拳〟と〝斧〟の聖者だ」



「ああ、そうじゃないかと思っていた。遅れて悪かったな。あとは俺に任せてくれ」



 そう言ってぽんっと頭を撫でた俺に、アルカは一瞬面食らった様子で、「う、うむ……」と恥ずかしそうに頷いていた。



「ずるい。わたしも頑張ったのに……」



 当然、後ろの方でティルナが頬を膨らませていたので、俺はふっと顔を綻ばせながら彼女の頭も同様に撫でてやる。



 そして全員に離れているよう告げ、再び聖者たちと対峙した。



「はっ、俺たち二人を一人で相手するってか? かっけえなぁ、救世主さまはよ」



「それに足るだけの実力があるということだ。甘く見ていると足をすくわれるぞ」



「はっ、そいつはどうかなッ!」



 だんっ! と地を蹴り、シャンガルラが大振りの特攻を仕掛けてくる。


 が。



 ――ずがんっ!



「ぐがあっ!?」



「「「「「「――なっ!?」」」」」」



 突如振り下ろされた大剣がやつを地面に叩きつけたのだった。



      ◇



「がっ……!?」



 全身の骨が軋む音を聞きながら、シャンガルラは理解に苦しんでいた。


 シャンガルラの一撃はあきらかに目の前の男を捉えようとしていたはずなのだ。


 なのに気づけばこちらの方が倒され、地べたに這い蹲っていた。


 しかもどこから取り出したのかも分からない大剣に押し潰されてだ。



「て、てめえ……っ」



 シャンガルラが憤りに満ちた視線を男――救世主へと向ける。


 やつが武器を抜いた素振りは一切見えなかった。


 いや、そもそもやつは武器を所持してすらいなかった。


 前に聞いた話だと、この男は二本の短剣を様々な武器に変化させると言っていた。


 ところがどうだ。


 そんな短剣などどこにも見当たりはしないではないか。


 ならば今やつが握っているこの武器はなんだ?


 こんなものシャンガルラは知らない。


 こんなもの……っ。


 と。



「――ふんッ!」



 どがんっ! とボレイオスが神器を振るう。


 大方シャンガルラを助けようとしたのだろう。


 余計な真似を……っ、とシャンガルラは唇を噛み締めていたのだが、



「「――なっ!?」」



 そこでボレイオスともども驚愕に目を見開く。


 当然だろう。



 何せ――やつは二本目の大剣でボレイオスの剛撃を防いでいたのだから。



 先ほどと同様に、やつは一瞬にして武器を取り出したのだ。


 そして〝一瞬で取り出せる〟ということは――すなわち〝一瞬で消せる〟ということ。



「――グランドアースバレット!」



 ――どぱんっ!



「ぐぼあっ!?」



 二本の大剣を消失させた救世主は、代わりに右腕を真紅の籠手で覆い、がら空きとなったボレイオスの腹部に強烈な正拳突きを叩き込んだ。



「……そういう、ことかよッ!」



 ボレイオスの巨体が再び宙を舞う中、重しのなくなったシャンガルラもまたやつに向かって攻撃を仕掛ける。



「――っ!」



「ぐっ!?」



 だがそれを予期していなかった救世主ではなかったようで、すでに飛びかかろうとしていたシャンガルラに向けて左手で杖を突きつけていたのだった。



「――グランドギガフレア!」



 ――ごごうっ!



「があああああああああああああああああああああああああああっっ!?」



      ◇



「す、すげえ……」



「ああ、イグザさま……。素敵すぎます……」



「う、うむ、確かに凄まじい強さなのだが、しかしあれは一体……」



 女子たちが驚きの声を上げる中、俺は両手の武器を一瞬で消失させる。


 すると、消し炭になる寸前だったシャンガルラが、必死に上体を起こそうともがきながら言った。



「……てめえ、武器を身体に内包してやがるな……っ」



「「「「「!」」」」」



 その言葉に、女子たちが揃って目を丸くする。


 見破られてしまったものは仕方あるまい。


 ああ、と頷き、俺は両手の甲で輝いていた勾玉をシャンガルラに見せつけながら言ったのだった。



「無限刃――〝アマテラスオーブ〟。それがこいつの名前だ」

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