76 聖者たちの襲来
――カンッ! カンッ! カンッ!
工房内に響くのは、ナザリィさんが大槌を振り下ろす音だった。
――ごうっ!
もちろん彼女の側で炎を絶やさずにいるのは俺だ。
女子たちの採寸を一通り終えた後、彼女たちの希望をほかのドワーフたちと話し合ったナザリィさんは、あとのことを彼らに任せ、俺の武器製作へと入った。
てっきり全部ナザリィさんが作るのかと思っていたのだが、どうやら彼女の得意分野は主に鍛冶らしく、裁縫などは別のドワーフの方が腕がいいらしい。
というわけで、重要な金属部分以外の工程に関しては、ほかのドワーフたちにお任せしているのである。
もっとも、ここにいるのは人よりも遙かに優れた技術を持つ超一流の職人さんばかりだからな。
きっと最高のものを仕上げてくれることだろうさ。
「――よし、とりあえずこんな感じじゃな。あー、炎は止めるでないぞ? こやつは今命を注がれている最中なのじゃからな」
「わ、分かりました」
頷き、俺は言われたとおり加工中のヒヒイロカネを炎で包み続ける。
「ふぃ~……」
すると、ナザリィさんが暑そうに手でぱたぱたと自身を扇ぎながらこう問いかけてきた。
「そういえば、おぬしが前に使っておった〝魔刃剣〟とやらは、どこぞの町の鍛冶師に依頼したんじゃったな?」
「ええ。武術都市レオリニアのレイアさんという方に頼みました」
「そうか。多少の制限はあるが、おぬしの力をありとあらゆる武装に変換させるなど、そう簡単に出来るようなものではない。よほど腕の立つ鍛冶師じゃったのじゃろうな。うむ、あっぱれじゃ」
「はは、その言葉今度お会いした時に伝えておきます。稀代の天才ドワーフのお墨付きだなんて言ったら、すげえ喜んでくれると思いますし」
「うんむ、大いに伝えておくとええわい。それでさらに腕が上がるならめっけもんじゃ」
にっと歯を見せて笑うナザリィさんに、俺も微笑みを浮かべつつ尋ねる。
「それで今度の武器はどんな感じにするんですか?」
「ふっふっふっ、それを言ってしまったらお楽しみがなくなるじゃろう? じゃがそうさな、あえて言うならば――〝おぬしとともに歩む武器〟じゃ」
「俺とともに歩む武器……?」
それは一体どういう……、と俺が小首を傾げていた――その時だ。
『――おい! 聞こえてんだろ、クソ聖女ども! さっさと出てこねえと里ごとぶっ潰すぞ!』
「「――っ!?」」
突如里中に男性の怒鳴るような声が響き渡ったのだった。
◇
当然、動けぬイグザの代わりに急いで里の外へと出たアルカディアたちが目にしたのは、不敵な笑みを浮かべている三白眼の男性と、その隣で泰然と佇む筋骨隆々の大男だった。
どちらも人の顔をしてはいるものの、男性は手足が獣のそれな上、大男は頭から二本の太い角が生えており、どうやら揃って別々の亜人種のようであった。
「お、やっと出てきやがったか。クックックッ、こいつはいい退屈しのぎになりそうだぜ」
にやり、と嬉しそうに笑う男性に、アルカディアは「やはり聖者か……っ」と聖槍を構えながら問う。
「貴様らは何者だ!? 何故聖者でありながら罪なき者たちを襲う!?」
「はっ、そんなこと知らねえよ。俺はただこのクソみてえに退屈な時間を潰してえだけだ」
「そんな理由で里を襲ったのか、貴様らは……っ!?」
怒りを露わにするアルカディアに、男性は鬱陶しそうに言った。
「だから知らねえっつってんだろ? あれは我らの偉大なリーダーさまが決めたことだ。ドワーフになんざ興味の欠片もありゃしねえよ」
「つまりあなたたちも一枚岩ではないと?」
マグメルの問いに、今度は大男が口を開く。
「然り。ゆえに安心するがいい、聖女たちよ。我らの目的はドワーフどもではない。今日は貴様らの力量を測りにきたまでのこと。個人的な興味ゆえの来訪だ」
「そう。でもその言葉を信じろというのは、些か無理があるんじゃないかしら?」
「信じる信じないは貴様らの自由だ。とにかく我らの相手をしてもらうぞ」
大男がそう厳かに告げると、オフィールが聖斧をやつに突きつけながら言った。
「はっ、いいぜ。ならてめえの相手はあたしがしてやるよ」
「ちょ、オフィールさん!?」
何を考えているのかと眉根を寄せるマグメルを手で制し、オフィールは続ける。
「もちろん文句はねえよな? ええ? ――〝斧〟の聖者さんよ」
オフィールの言葉に、大男は背負っていた禍々しい戦斧を握って言った。
「無論だ、〝斧〟の聖女よ。我が名はボレイオス。ミノタウロス種の亜人にして、貴様の言うように〝斧〟の聖者だ」
――ぶんっ!
「「「「「――っ!?」」」」」
ただ斧を取り出しただけにもかかわらず、凄まじい風圧が一同を襲う。
だがオフィールは臆さず、逆に笑みを浮かべて言った。
「そうかい! あたしはオフィール! 風の女神――トゥルボーに育てられた最強の聖女さまだ!」
どぱんっ! とオフィールが地を蹴り、ボレイオスに飛びかかる。
そうして両陣営の戦いが幕を開けたのだった。
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