《聖女パーティー》エルマ視点26:ついに本性を現したわね、豚ぁ!?


 大勢の人の前ということもあり、豚の処刑をすんでのところで踏み留まったあたしは、気を取り直してラストールからさらに南へと向けて旅を続け、港町――イトルへと辿り着いていた。


 トゥルボーさまの話にあった水の女神――シヌスさまのいる海域に一番近い町がここなので、何か情報はないものかと色々聞き込みを行ってみたところ、なんでもこの町には〝人魚〟の伝説があるらしい。


 ちなみに〝人魚〟というのは、上半身が人間で下半身が魚の亜人種だというが、マーマンと何が違うのかはよく分からなかった。


 でもあたし的にはその人魚が怪しいと睨んでいる。


 だって水の女神さまがいるという海域近くの町にそんな伝説が残っているんだもの。


 そりゃ関係ないはずがないに決まってるわ!


 というわけで、さっそくその人魚とやらを捜そうとしたのだが、



「人魚の住処ですか? そりゃ海の中でしょうな」



 HAHAHAHAHA! と戯けたように笑う男性を処刑予定リストに加えつつ、あたしは豚と合流する。



「どうです? 何か情報はありましたか?」



「ええ、二つほど気になるお話を聞くことが出来ました。まず一つ目は、この町の漁師が昔人魚の女性と恋に落ちたというもので、もう一つが別の聖女さま方が海の神さまをお鎮めになったというお話です」



「別の聖女……?」



 え、何それどういうこと!?


 もしかして馬鹿イグザたちもシヌスさまに会いにきたってこと!?


 いや、テラさまに続いてトゥルボーさまにも会ってるみたいだし、別の女神さまに会いにきていてもおかしくはないんだけど……。


 でもちょっと欲張りすぎじゃない!?


 どんだけ神の力が欲しいのよ、あいつ!?


 ぐぬぬ……っ、と唇を噛み締めるあたしだったが、そんなことをしている場合ではない。


 これ以上馬鹿イグザに差をつけられて堪るもんですか!



「分かりました。では二つ目のお話の方を詳しく聞きに参りましょう」



 そう頷き、あたしたちは豚が話を聞いたという漁師のもとへと、急ぎ向かったのだった。



      ◇



 そうしてあたしたちは年配の漁師から詳しい話を聞き、ダメもとで彼が海の神さまとやらを目撃したという海域へと船を借りて向かってみたのだが、そこでまさかのアクシデントが起こってしまった。



「――はわあっ!?」



 ――ざっぱーんっ!



「ちょっ!?」



 なんと体勢を崩した豚が海に転落してしまったのである。



「た、助けてください、聖女さまああああああっ!?」



 しかも泳げなかったらしく、豚は必死に助けを求めていた。



「ま、待ってください!? い、今助けますから!?」



 いくら豚が抹殺対象とはいえ、こんな死に方をされては後味がもの凄く悪い。


 なのであたしも助けようとはしたのだが…………はい、実はあたしも泳げませんでした。


 でも人間不思議なものなのよね……。



「くっ……。この……っ!」



 ――ざっぱーんっ!



 ええ、飛び込みましたとも。


 思いっきりカナヅチなのに。



「おぶっ……あぶっ……!?」



 当然、泳げないのだから溺れるわけで、不覚にもあたしの意識は次第に遠退いてしまったのだった。



      ◇



「……う、ん~……」



 あれ……?


 生きてる……?


 もしかして海の神さま……いえ、シヌスさまが助けてくださったのかしら……?


 そんなことをぼんやりと考えつつ、冷たい土の感触を背に感じながら、あたしはゆっくりとまぶたを開ける。


 そこで目にしたのは、



 ――ちゅう~~~~~~~っ。



「……」



 口をすぼめ、今まさにあたしの唇を奪おうとしている豚男のキス顔だった。



「ひぎゃああああああああああああああああああああああああああああっっ!?」



 ――ばちーんっ!



「あびゅうううううううううううううううっっ!?」



 ――ごろごろごろごろびたーんっ!



 当然、反射的に渾身のビンタをお見舞いしたあたしは、豚の凶行に愕然と身体を震わせていたのだが、



「――あら? 気がつかれましたか?」



「……えっ?」



 ふいに女性の声が聞こえ、ゆっくりとそちらを振り向く。



「あなたは……」



「ふふ、ご無事で何よりです」



 そこにいたのは、上半身が人間で下半身が桃色の光沢を放つ魚の尾をした女性――そう、〝人魚〟であった。

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