75 とりあえず全員服を脱げ!


「「「聖神杖!?」」」



 ヒヒイロカネを手に里へと戻ってきた俺たちに告げられたのは、まさかの事実だった。


 なんとマグメルの持つ聖杖とヘスペリオスの神器が融合し、〝聖神杖〟へと進化を遂げたというのだ。


 もちろんあの禍々しい神器を扱うなど到底容認出来ないと、揃って危機感を募らせる俺たちだったのだが、いざ目にした聖神杖は聖杖以上の神々しさを放っており、思わず言葉を失ってしまった。



「一応皆さんに見守られる形で術技を使用してはみたのですが、呪詛などの不安要素もとくには見当たらず、むしろ大幅な威力の向上を確認出来ましたので、恐らくは見た目通り聖なる属性の杖なのではないかと」



「……なるほど。ナザリィさん的にも同じ見解なのかな?」



 俺の問いに、ナザリィさんは「うんむ」と大きく頷いて言った。



「わしの方でも色々と調べてはみたのじゃが、マグメルの言うとおりそいつに〝汚れ〟は一切存在せん。むしろそれに対抗する側――つまりは〝聖杖〟と同じ類のものじゃと考えておる」



「じゃあ本当にパワーアップしただけなのね?」



「うむ、そういうことになるのう。というより、せっかく神に会いに行ったのじゃ。何故そのイグニフェルとやらに神器について尋ねなかったのかえ?」



「そ、それは……」



 正直、それ以上に衝撃的なことがあって忘れてました……。


 いや、だっていきなり契り的な話になっちゃったし……。


 気まずそうに視線を逸らす俺たちに、ナザリィさんも色々と察したようで、やれやれと嘆息して言った。



「まあよいわ。どうせこのあと雷の女神とやらのもとへ行くのじゃろう? ならばそやつに直接問い質せばよかろうて。それより例の代物は手に入れられたんじゃろうな?」



「はい、もちろんです」



 頷き、俺は緋色に輝く金属塊をごとりと机の上に置く。


 それはまるで内部に太陽でも封じ込められているのではないかと思えるくらい神秘的な輝きの金属だった。



「ほう、これが噂のヒヒイロカネというやつか。なんとも面妖な面持ちの金属だな」



「そうですね。これから私たちの聖具……いえ、私の場合は聖神器になるのですが、それが出来ていると思うと不思議な感じです」



「いや、それ以前に神器ってヒヒイロカネで出来てんのか?」



「べ、別にいいじゃないですかそこは!? 一つになってしまったからまどろっこしいんですぅ!?」



 ムキになって反論するマグメルを、ティルナが「落ち着いて、マグメル」と窘める。



「とにかくわたしたちはヒヒイロカネを手に入れることが出来た。これでイグザの武器を作れるの?」



「もちろんじゃ。すでに構想は練っておる。ただしこいつの加工にはやはり超高火力が必要じゃて、おぬしには存分に付き合ってもらうがのう」



 そう不敵な笑みを浮かべるナザリィさんに、俺もまた「もちろんです」と笑顔で頷いたのだった。



      ◇



 まあそれはそれとして、だ。


 ヒヒイロカネを加工するための準備中、俺は意を決してカヤさんのことをアルカたちにも伝えた。


 てっきり反対してくるかと思ったのだが、三人の反応は意外なものだった。



「まあもうこの際仕方あるまい。増やしたいだけ増やすがいい」



「そうですね。〝英雄色を好む〟とも言いますし」



「おう、その方が男らしくていいんじゃねえか?」



「皆……」



 というように、それぞれが理解を示してくれて、俺もありがたいなと温かい気持ちになっていたのだが、



「まあ私を一番に愛することが条件だがな」



「ええ、私を一番に想ってくださるのでしたら構いません」



「おう、あたしを一番可愛がらねえとタダじゃおかねえぞ」



「……」



 でしょうね……、と内心黄昏れたような顔になっていたのだった。


 まああれだ。


 頑張れ、俺……。


 と。



「――さて、おぬしらに少々提案があるのじゃが聞いてくれるか?」



「……提案?」



 俺たちが揃って小首を傾げる中、ナザリィさんは頷いて言った。



「うむ。装備というのは攻守が揃ってはじめて効力を発揮するものじゃ。おぬしらの武器は特別製ゆえ、取り立てて言うこともないのじゃが、防具に関してはあきらかに力不足に思えてのう。じゃからこれを機に一新するのはどうじゃろうか?」



「ほう、それは願ってもないことだな」



「そうね。デザインの要望は聞いてもらえるのかしら?」



「もちろんじゃ。おぬしらのもっとも使いやすい形に仕上げてやるから安心せい」



 そう頷くナザリィさんの言葉に、女子たちのテンションも上がる。



「なら今度はもう少し足を出すような感じに……。いえ、それだとはしたない気も……」



「あたしはとにかく動きやすいのが一番だな! あとはこうド派手なやつだと最高だぜ!」



「わたしはイグザが可愛いって言ってくれるようなのがいい」



 などなど、すでに色々と考えているようだった。


 まあティルナは何を着ても可愛いと思うけどな。


 ともあれ、ナザリィさんもやる気満々のようで、ずびっと女子たちを指差して声を張り上げたのだった。



「よし、ならば今すぐ全員服を脱げ! さっそく採寸じゃ!」

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