74 巫女さんはヤンデレ?


 時は少々遡り、昨夜のこと。


 ドワーフの里に残ったアルカディアたちにとある変化が起こっていた。



「な、なんじゃ!? 何故おぬしら揃って腹が光っておる!?」



 そう、ナザリィの言ったように突如聖女たち三人の下腹部――つまりはフェニックスシールがほのかに輝き始めたのだ。



「これは……」



 当然、アルカディアたちも理由が分からず唖然としていたのだが、



「……なるほど。どうやらイグザたちは無事イグニフェルさまに会えたようだな」



「ええ、そうみたいですね。そしてさらなるお力を賜ったご様子」



「へへ、こいつはすげえ。まさかその場にいないあたしたちにまで恩恵がくるとはな」



 感覚的に状況を理解したようで、三人揃って頷いていた。



「むむ……」



 が、それはもちろん聖女たち三人に限った話である。


 一人だけ蚊帳の外だったナザリィは、少々不満そうに言った。



「なんじゃ、おぬしらだけで盛り上がりおって。わしにも分かるよう説明せんか」



「ああ、すまん。どうやらイグザが火の女神から新たな力を授かったようでな。我らに刻まれているフェニックスシールを通じて力が流れ込んできているのだ」



「なぬっ!? そんなことが可能なのか!?」



 驚くナザリィに、マグメルが「ええ、そのようです」と頷いて続ける。



「これはほかの女神さま方からお力を賜った時と同じなのですが、感覚的に新たな術技などを習得していることが分かるんです」



「ほほう、それは凄いのう。一体どういう理屈でそうなるのかは分からんが、おぬしらが小僧と深く繋がっておることだけは理解したぞい」



「はっ、あったぼうよ! なんたってあたしたちはあいつの〝嫁〟だからな!」



 オフィールがそう歯を見せて笑うと、ナザリィは「ええのう」と羨ましそうに言った。



「わしもそう自信満々に言えるような婿が欲しいもんじゃわい」



「ほう? ならばお前もイグザの妾になるか? いや、だがしかし妾の数もかなり増えてきたからな。さすがにこれ以上増えると正妻である私に構う時間が少なくなるのだが……」



「そうですね……。正妻の私的にもこれ以上の増加はどうかと……」



「まあ仕方ねえよな。ここは正妻のあたしに免じて許してくれ」



 一拍の後。



「「「いや、正妻は私(あたし)だろ(でしょう)?」」」



「……」



 揃って正妻主張をする聖女たちに、ナザリィは一人この輪に入るのは面倒臭そうだからやめておこうと黄昏れたような顔になっていたのだった。



      ◇



「それじゃお世話になりました」



 揃って頭を下げる俺たち(というか、むしろ俺)に、カヤさんが寂しそうな表情を見せる。



「あの、次はいつお会い出来ますか……?」



「え、えっと、とりあえずこれからこのヒヒイロカネを里に届けて、雷の女神さまにも会いに行かないといけないので、もし会えるとしたらそのあとかなと……」



「……分かりました。では必ずまた会いに来てくださいましね? カヤはいつまでもイグザさまのことをお待ちしておりますので」



「も、もちろんです! 絶対に会いにきますから!」



 ぐっと拳を握る俺に、カヤさんはやはり寂しそうではあったものの、「はいっ」と微笑んでくれた。



 そうしてマグリドを出立した俺たちだったのだが、



「――あの子、きちんと定期的に会ってあげないとダメよ?」



「えっ?」



 ふいにザナがそんなことを言い出し、俺は一瞬呆ける。


 すると、ティルナもザナの意見に同意してきた。



「わたしもそう思う。じゃないとたぶん――殺される」



「えっ!?」



 どゆこと!? と困惑する俺に、ザナが嘆息して言う。



「ああいう大人しい子に限って独占欲がもの凄く強かったりするのよね」



「いや、だからって殺すことはないだろ!?」



 まあ俺不死身なんだけど!?



「うん、それはわたしも言いすぎた。ごめんなさい。でもきっとカヤはとても寂しがり屋。だからあまり悲しい思いをさせるのは可哀想」



「そうね。フェニックスシールで温もりを感じられるとはいえ、やっぱり実際に会えるのとは違うもの」



「……そうだな。分かったよ。イグニフェルさまのおかげで今よりも速いスピードで飛べるようになったし、暇を見つけてはカヤさんに会いに行こうと思う」



「ええ、それがいいと思うわ。まあ同じくらい私たちにも構ってくれないと困るのだけれど」



「うん、カヤだけ特別扱いはダメ」



「お、おう、分かった。じゃあまああれだ。皆まとめて全力で構ってやるさ。何せ、体力だけは馬鹿みたいにあるからな」



 俺がそう力強く頷くと、二人はとても嬉しそうに顔を綻ばせていたのだった。

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