73 契りの後
翌朝、俺はカヤさんの温もりを胸元に感じながら目を覚ましていた。
以前も言ったように、本当に好きな人とした方がいいと再三に渡って説得したのだが、「私がお慕いしているのはほかでもないあなたさまだけです!」と懇願するような表情で言われてしまい、ならばもう責任を取るしかないと腹を括ったのである。
ただ神であるイグニフェルさまより先に抱くのは色々と問題があったので、そこだけは理解してもらった。
幸いだったのは、ザナとティルナもまた理解を示してくれたことだろうか。
これがほかの三人だったら、まずは自分たちを抱けと言ってくる可能性が大だったからな。
まあこれからその三人にもカヤさんのことを伝えなければならないのだが……。
ともあれ、イグニフェルさまとの契りを終えたことで、俺の力はさらなる進化を遂げた。
彼女が冗談でも「これからはそなたが火の神を名乗ればよいのではないか?」などと言ってきたくらいなのだから、相当パワーアップしたのだろう。
スキルも《不死鳥》から《不死神鳥》に変わっていたのだが、説明文は同じだったので、たぶん位的なものが上がったんだと思う。
しかもフェニックスシールを通じてほかの聖女たちにも新たな武技と術技が習得されているといい、まさに至れり尽くせりであった。
当然、こんなにもいいこと続きで本当にいいのだろうかという感じだったのだが、「それだけそなたたちが苦難に立ち向かってきたということだ。報われるのは当然だろう?」とイグニフェルさまに言ってもらい、とても救われた気持ちになった。
ならばこの力を存分に活かそう――そう考えた俺たちは、当初の目的であったアダマンティアの行方について、カヤさんから重要な情報を聞いた。
なんと未だにこの近海をうろうろしている姿が漁師たちに目撃されているというのだ。
というわけで、さっそくティルナに海中の探索を依頼した俺たちは、船で彼女の帰りを待っていたのだが、
「ところで、カヤさんは〝現地妻〟ということになるのかしら?」
「いきなりどうした……」
ふいにザナがそんなことを言い出し、俺は彼女に半眼を向ける。
「だってそうでしょう? 聖女ではない彼女を連れ回すわけにもいかないし、旅が終わるまではここにいてもらうわけだもの」
「まあそりゃそうなんだけど……」
「ならやっぱり現地妻じゃない。よかったわね。誰かが待っていてくれるというのは意外と大きな力になるものよ」
「……確かに」
本気かどうかは分からないが、アイリスをお嫁さんにするという約束もしているからな。
うん、俺を待っていてくれる人たちのためにも全力で頑張らないと。
ザナの言葉を俺が真摯に噛み締めていると、ぷかりとティルナが海面から顔を覗かせて言った。
「――見つけた。かなり深いところで殻に閉じこもってる」
◇
いくら炎が強化されたとはいえ、さすがに海中でヒヒイロカネを作ることは不可能である。
ゆえに俺たちはやつを海面に引きずり出すことにした。
「じゃあ悪いけど頼めるか? 少しだけ浮かしてくれたらあとは俺がなんとかするから」
「うん、任せて。わたしが絶対にアダマンティアを連れてくるから」
「ああ、頼んだ」
そう頷き、俺はティルナの頭を撫でる。
すると彼女は嬉しそうに口元を綻ばせた後、再び海の底へと潜っていった。
なので俺もスザクフォームに変身し、ティルナからの合図を待つ。
「ねえ、イグザ」
「うん? どうした?」
最中、ふいにザナがこんなことを言ってきた。
「私も頭を撫でられるととってもやる気が起きるのだけれど?」
「はは、分かったよ」
微笑みつつ、俺はザナの頭も優しく撫でてやる。
「ふふ、ありがとう。とてもいい心地よ」
ティルナ同様、彼女も嬉しそうに頬を染めていた。
そういえば最近はこういうスキンシップもしてなかったからな。
喜んでくれたようで何よりである。
と。
――どぱあああああああんっ!
「――キギャアアアアアアアアアアアアッ!?」
「「!」」
突如海面から巨大な亀が飛び出してくる。
――アダマンティアだ。
「はああああああああああああああああああっ!」
もちろんやつの腹部に渾身の正拳突きを叩き込んでいるのはティルナである。
恐らくはシヌスさまにいただいた最高位の武技を使用しているのだろう。
「イグザ!」
「おう!」
ザナの呼びかけに大きく頷いた俺は、全速力を以てティルナのもとへと飛ぶ。
そして。
「――プロメテウスエクスキューションッ!」
――どばあああああああああああああああああああああああああんっっ!!
虚空にもう一つの太陽が現れたのだった。
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