47 魔物の王
「二人とも大丈夫か!?」
当然、俺はすぐさま二人に無事を問う。
「いってぇ……」
「すまん、油断した……っ」
だが見た感じそこまで大きな怪我はなかったようで、二人ともすでに上体を起こしている最中だった。
正直、心臓が止まるかと思ったが、とにかく無事で何よりである。
「マグメル、一応二人に治癒術をかけてきてくれ」
「わ、分かりましたっ」
頷き、マグメルが二人のもとへと駆けていく。
それを確認した俺は、再びヴァエル王へと視線を移す。
そこで見たのは、左腕を何か尻尾のようなものへと変化させている王の姿だった。
「おや、これは驚きました。通常の人間であれば即死するレベルの一撃だったのですが、さすがは聖女と言ったところでしょうか」
「はっ、この程度の攻撃なんざ屁でもねえってんだ! こちとら地上最強の男と一戦交えてんだぜ! それに比べりゃぬりぃなんてもんじゃねえよ!」
「右に同じだ。確かに重く鋭い一撃ではあったが、臆するほどのものではない。次はないと知れ」
マグメルに治療されつつも、意外と元気そうな二人の様子に、俺もほっと胸を撫で下ろす。
すると、ヴァエル王が俺を見やって言った。
「ふむ、彼女の言う〝地上最強の男〟というのは、もしかしてあなたのことですか?」
「まあ一応な」
ごうっ! と片刃剣のヒノカグヅチを顕現させる。
それを見たヴァエル王は「なるほど」と頷いて言った。
「あなたが例の〝火の神の遣い〟というやつだったのですね。これで合点がいきました。てっきり聖女たちの荷物持ち辺りかと思っていたのですが」
てか、どこでも荷物持ち扱いだな、俺。
まあ仕方ないんだけど。
「はは、よく言われるよ。それであんたのその力はなんだ? それが〝人ならざるもの〟ってやつなのか?」
「ええ、そのとおりです。なかなか面白いでしょう?」
そう言ってヴァエル王は左腕を元の状態へと戻す。
何か変身系のスキルや術技かとも思ったが、どうやら違うらしい。
「これはベルクアのホムンクルス技術を応用したものです」
「やはりあなたたちは私たちの技術をすでに手に入れていたのね」
「ええ、もちろんです。内偵の方々がよい仕事をしてくれました。もっとも、私たちが欲しかったのは〝素体にベース情報を取り込む技術〟でしたので、ホムンクルスなんてものにはまるで興味がなかったのですが」
「それは、どういう意味かしら?」
訝しげに眉根を寄せるザナに、ヴァエル王は相変わらず余裕の微笑みで言った。
「もうお分かりなのではないですか? あなたたちの技術が私を人ならざるものへと進化させてくれたのです」
このように、と振り上げた王の右腕は、まるでグレートオーガのように筋骨隆々で大きなものだった。
いや、実際のグレートオーガよりも二回りは太い腕だ。
「あんた、まさか……」
「ええ、そのまさかです。私は自らの身体にありとあらゆる魔物の情報を取り込みました。もちろん最初は拒否反応で死にかけたりもしましたが、ある時を境にぴたりとそれが止み、〝ああ、私は魔物たちに認められたのだ〟と悟りました」
「〝乗っ取られた〟の間違いじゃないのか?」
皮肉を込めて言う俺だが、もちろんヴァエル王は意に介さない。
「きっと彼らにも〝王〟が必要だったのでしょう。そして私はその〝王〟に選ばれた」
言わば、とヴァエル王は肥大化した腕を振りかぶる。
「――〝魔王〟。それが私――ヴァエル=ア=ラストールのあるべき姿です」
どばんっ! と突きの衝撃で壁にどでかい穴が開く。
見た目同様とんでもない威力だが、躱せない速度ではない。
「ザナ、援護を!」
「ええ、分かったわ!」
俺たちは同時に左右へと飛び、そのままヴァエル王目がけて特攻する。
――だんっ!
だがさすがは魔物の王――すぐさま脚部が異なる魔物のものへと変化し、移動速度が飛躍的に向上する。
「ファランクスブロー!」
――どががががががががっ!
ザナの連撃を壁走りで躱しながら、ヴァエル王は両腕を合わせて竜種の頭部を再現し、その口元になんらかのエネルギー体を収束させる。
が、そんなものをこんな狭い場所で放たせるわけにはいかない。
「させるかあっ!」
――ずしゃっ!
「くっ!?」
俺もまた壁を駆け、大剣に変化させたヒノカグヅチをやつの口元へとぶち込む。
「今だ!」
「ああ!」「おう!」
そして俺の叫びに呼応するかのように、復活したアルカとオフィールが左右同時に攻撃を仕掛ける。
――ざしゅっ!
「がっ!?」
「皆さん、離れてください! ――グランドテンペストファング!」
「「「!」」」
さらにマグメルがトゥルボーさまから習得した風属性の術技で追い打ちをかける。
――どひゅううううううううっ!
「ぐうっ!?」
吹き荒れる風の奔流で身体をずたずたに切り裂かれたヴァエル王は、そのまま天井の壁にぶち当たったかと思うと、崩れ落ちた瓦礫に埋もれてしまった。
やったのだろうか……?
俺たちが警戒しながら成り行きを見守っていると、ふいにがらっと瓦礫の中から人影が姿を現した。
「……はは、さすがですね。どうやらこのままの状態では勝つのは難しそうです」
「ならここら辺で諦めてくれると助かるんだが?」
「残念ですがそれは出来ない相談です。私には――〝目的〟がありますから」
……目的? と俺たちが眉間にしわを寄せる中、ヴァエル王がぱちんっと指を鳴らす。
すると。
「「「「「――グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」」」」」
「「「「「――なっ!?」」」」」
とっくに避難していたと思っていたお付きの人や衛兵たちが、次々に魔物へとその姿を変えていったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます