48 魔を討つ英雄
「グオアッ!」
――がきんっ!
「ぐっ!?」
魔物となった衛兵の攻撃を、俺は双剣にしたヒノカグヅチで受け止める。
が、その膂力は本当に魔物のものと同等で、俺は攻撃を弾くと同時にヒノカグヅチを槍に変え、柄の方で突きを繰り出す。
「ったくなんなんだよこいつらは!?」
「いいからとりあえず行動不能にするぞ! 足の一本くらいならあとでいくらでも繋げられる!」
「そうは言われましても……きゃっ!?」
「油断してはダメよ! この人たちは完全に理性を失っているわ!」
だが女子たちも対応には苦慮しているようで、皆一様に苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
最中、悠然と微笑みを讃えていたヴァエル王が小首を傾げながら言った。
「おや? どうして殺さないのですか?」
どうやら先ほど俺たちが与えた傷は完全に塞がっているらしい。
たぶん何かしら再生力の高い魔物を取り込んでいるのだろう。
「そりゃ当然だろ!? この人たちはさっきまで人間だったんだぞ!?」
「でも今はただの魔物です。人間を襲う凶悪で無慈悲な怪物――何を躊躇する必要があるのです?」
「そうしたのはあんただろうが!?」
ごうっ! とスザクフォームを纏い、俺は片刃剣でヴァエル王に斬りかかる。
が。
――ずしゃっ!
「ギゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッ!?」
「――なっ!?」
直前で魔物の一体が俺たちの間に割って入ってきた。
――そう、盾になったのだ。
ずずんっ、とその巨体を横たえる魔物に俺が唖然としていると、ヴァエル王はやはり微笑んで言った。
「王の身を守るのは兵として当然のこと。見事な最期でした。後ほど遺族には見舞金を送っておきましょう」
「お前……っ」
――ごごうっ!
俺の怒りに呼応するかのように身体中から炎が溢れ出す。
すると、ヴァエル王が思い出したようにこう言ってきた。
「ああ、そうでした。そういえばあなたには死者を蘇らせることの出来る力がありましたね。どうでしょう? 蘇らせて差し上げたら。ええ、それがいいです。だってそうすれば遺族も悲しみませんし、また元気に私を守ってくれるでしょう?」
「……」
――今、理解した。
この王は……いや、こいつは人ならざるものなんかじゃない。
ただの――〝人でなし〟だ!
だから俺は決意する。
「……そうだな。でもそれは――お前を殺してからだッ!」
今ここで――この男を討つ! と。
◇
――ずがんっ!
広間の壁を破って外へと飛び出した俺たちは、互いに翼を翻して満月の中睨み合う。
ヴァエルの翼はまるで飛竜のように雄々しく、その華奢な身体には些か不釣り合いのようにも思えた。
「美しい翼でしょう? この力強さを手に入れるのには苦労しました。いくら人体に魔物の細胞を取り込める技術があったとしても、それに適応出来なければなんの意味もありませんからね」
「だから罪のない人々を実験台にしたってのか!?」
「それは違います。彼らは愛する祖国の礎となったのです。彼らの尊い犠牲があったからこそ、私はこの力を、そして先ほどあなた方が戦った方々は死の運命から逃れることが出来るようになったのです」
恐らくは病気の治療などにその技術を使っていたのだろう。
ヴァエルの再生力を思えば、そういうことが出来たとしてもなんらおかしくはない。
「だとしてもお前の意志一つで魔物に変えられるんだろ!?」
「それはあなた方が私を殺そうとしたからです」
「何っ!?」
「あなた方さえ私の邪魔をしなければ、彼らは人のまま余生を過ごしていたことでしょう。――そう、あなた方さえいなければね」
「くっ……」
確かにヴァエルの言うとおり、俺たちが彼を追い詰めたからこそ人々は魔物に変えられてしまったのだろう。
でも――。
「お前のやり方は間違ってる! そんなのは救いでもなんでもない! ただお前に都合のいい駒を増やしているだけだ!」
「やれやれ、やはりあなたとは意見が合わないようですね。残念です。あなたの力があれば、ともに平和な世界をつくっていけたというのに」
肩を竦め、呆れたようにかぶりを振ったヴァエルは、次第にその様相を変貌させていく。
黒く、大きく、身体中を外骨格のようなものが覆い、まるで竜種が人の形を成したような――そんな変貌を遂げていったのだ。
「以前は力の制御が出来ずに巨大化してしまいましたが――今は違います。何故なら私は〝魔王〟――全ての魔物を統べる王なのですから」
「……そうかい。なら俺は地上最強の男でも神の遣いでもなく、救世の英雄――〝勇者〟としてお前を討つ!」
そうして、俺たちの戦いは幕を開けたのだった。
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