45 不老の王
例の如くラストール近郊でヒノカミフォームを解除した俺は、女子たちを連れて城下町へと赴いた。
町は周囲を高い城壁で覆われてはいるものの、城門は普通に解放されており、人々が自由に往来出来るようになっているようだった。
ベルクアとは緊張状態にあると聞いていたのだが、町は活気に溢れており、住民たちの雰囲気もかなり明るい感じだ。
第一印象としては、そう――〝豊かな国〟である。
「ふむ、これは意外だな。聞いていた話とは随分異なる気がするのだが……」
「そうですね。皆さんとても楽しそうに生活されているように見えます」
「まあ表面上はこんなものでしょう。でも気を抜かない方がいいと思うわ」
「だな。あたしもそう思うぜ。目に見えるものが全てじゃねえからな」
「はは、そのフレーズはアフラール以来だな」
「おうよ!」
そういえば、あの時も一見すると活気のある商業都市だったけど、裏じゃ奴隷市場なんてものが行われていたからな。
とくに今回は国の根幹に関わるやつらが相手だし、用心していかないと。
「とりあえずゼストガルド王の書簡を届けにラストール城に向かおう。話はそれからだ」
「「「「――」」」」
頷く一同を連れ、俺は前方に聳えるラストール城へと、真っ直ぐに向かっていったのだった。
◇
「――ようこそ、我がラストールへ。私が王のヴァエル=ア=ラストールです」
そう爽やかな笑みを浮かべるのは、見た目20代半ばくらいの若い男性だった。
ぱっと見は誠実そうな好青年である。
顔立ちもかなり整っており、たぶん女性からはかなり人気があるのではなかろうか。
「しかしまさかこれほど多くの聖女たちに会える日が来るとは思いませんでした。とても光栄に思います。しかもベルクアの聖女――ザナ姫もお越しとか」
「え、ええ、私がそのザナでございます、陛下……」
「?」
なんだろう。
どこかザナの様子がおかしい気がする。
気のせいだろうか。
「はは、そんなに緊張なさらないでください。確か以前一度お会いしたことがありましたね?」
「そ、そうですね……」
「あの頃はまだ可憐な少女だった気がしますが、随分とお美しくなられたようで嬉しく思います」
「……ありがとうございます。勿体なきお言葉です」
ザナがそう頭を下げると、ヴァエル王は相変わらず顔に微笑みを讃えたまま言った。
「それでお父上――ベルクア王から書簡を預かっているとか。是非見せていただいても構いませんか?」
「はい、こちらに」
ザナがお付きの人に書簡を渡すと、それはそのまま静かに玉座へと運ばれていき、ヴァエル王の手へと渡る。
「――なるほど。我が国との緊張状態を解消し、再び友好国としてともに歩みたいと」
「はい、父はそのように考えています」
そうザナが頷くと、ヴァエル王もまた頷いて言った。
「もちろん歓迎いたします。なんでも聞くところによると、火の神の遣いが現れ、我が国との争いを防ぐために亡きリフィア妃を蘇らせてくださったのだとか」
さすがに情報が早いな。
まだ国境の規制も緩和されていないはずなんだけど。
「なんと素晴らしいことでしょうか。まさに神の奇跡です。我らラストールの民一同を代表して、心よりの祝福を申し上げます」
「……ありがとうございます、陛下」
「……」
そう微笑みを浮かべるザナだが、俺は見逃さなかった。
彼女が何かを堪えるように肩を震わせていたことを。
先ほどから様子もおかしいし、あの王さまに対して何か思うところがあるのかもしれない。
俺がそんなことを考えていると、ふいにヴァエル王が俺たちを見やって言った。
「ともあれ、長旅でお疲れでしょう。最上級の宿を用意させましたから、今日はそこに泊まり、ゆっくりと旅の疲れを癒してください。本当は城の客間を用意したかったのですが、少々来客の方々がいらっしゃいまして。申し訳ございません」
「いえ、陛下のお心遣いに感謝いたします」
◇
ヴァエル王との謁見後、俺たちはお付きの人の案内で城下町の宿へと足を運んだ。
彼が言ったとおり、確かに宿はとても高級な感じで、部屋も一体一泊いくらするのかというくらい豪奢な装飾が施されたものだった。
当然、盗聴などの危険性も考慮した俺たちは、それらの気配や痕跡をくまなく探索したのだが、何一つとして怪しいものは見つからなかった。
本当に善意でここを用意してくれたとでも言うのだろうか。
ふとそんな考えも過ぎったが、あの時のザナの様子を思い出し、俺は自分が一瞬でも馬鹿げた考えを抱いていたことを反省した。
そして俺は彼女に問う。
「ザナ、別に言いたくなかったら構わないんだけど……あの王さまと何かあったのか?」
「ごめんなさい。やっぱり不自然だったわよね。自分では自然に振る舞っていたつもりだったのだけれど……」
伏し目がちに言うザナだが、彼女は続けてこう言った。
「……あの人よ」
「えっ?」
「私の母を殺し、父を狂わせた張本人……。でも私が驚いたのはそこじゃないの……」
「「「「?」」」」
眉根を寄せる俺たちに、ザナは信じられないと言わんばかりの表情で言った。
「変わってないのよ……。あの時から何も……。外見が――10年以上前とまったく変わっていないの……」
「「「「――っ!?」」」」
それは一体どういうことなのか。
俺たちはしばらくの間、彼女の言葉に唖然とし続けていたのだった。
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