36 量産型の聖女!?


 翌朝。


 俺は旧盗賊団のアジトで目を覚ましていた。


 というのも、あれからあまりにもオフィールが抱け抱けとしつこかったので、ご要望通り神殿に戻って彼女を抱こうとしたところ、トゥルボーさまがぶち切れ一歩手前みたいな顔で「失せろ」と追い出してきたのである。


 まあお子さまの精神衛生上よくないとでも思われたのだろう。


 というより、娘同然のオフィールが男を連れてきてこれから色々始めます的に言えば、そりゃ失せろと言われてもおかしくはないのかもしれない。


 少なくとも俺が父親だったらショックでハゲるレベルである。



「……うん?」



 ともあれ、未だまどろみの中にあるオフィールの頭を優しい気持ちで撫でていると、ふいに柱の方から人の気配を感じた。



「「……」」



 ――じー。



「いや、あの……」



 言わずもがな、アルカとマグメルである。


 一応昨日は嫁加入の儀式的な感じで空気を読んでくれたのだが、いい加減我慢が限界に達したらしい。


 そろそろいいだろと言わんばかりに、二人は柱の陰から揃って俺たちを見つめていたのだ。


 いや、せめて何か言ってくれよ……。


 普通に気まずいわ……。



      ◇



 そんなこんなでトゥルボーさまのもとをあとにした俺たちは、火の鳥形態ことヒノカミフォームに三人を乗せた状態で南を目指していた。


 今までは目立ちすぎるのでスザクフォームを主に使用していたのだが、トゥルボーさまから賜った術技――《インビジブルコーティング》により、移動中の姿を隠すことが出来るようになったのである。


 ゆえに、これは楽ちんとばかりに女子たちは空の散歩を楽しんでいたのだ。



「しかしこのパーティーも大所帯になってきたな。私と二人きりだった頃が懐かしく思えるぞ」



「確かお二人は武術都市レオリニアでお会いになられたんでしたっけ?」



「ああ。たまたま私が腕試しの旅をしている時にな、こいつがライバル店の冒険者として現れたのだ。武神祭は各武具店の対抗試合だったからな」



「へえ、そりゃもったいねえことをしたな。あたしが出てりゃさっさと優勝してたのによ」



「ほう? 昨日イグザに負けておいてよく言えるな、斧の聖女」



 アルカの言葉に、オフィールは寝転がったまま言った。



「はっ、当然だろ? その頃のイグザはまだ《疑似剣聖》の派生スキルのみで、スザクフォームだかもマスターしてなかったんだからな」



「やれやれ、お前はおつむもオーガ並みなのか?」



「あん?」



 さすがに今のはイラッときたらしく、オフィールが上体を起こす。


 すると、アルカは確信を持った顔で言った。



「イグザの力の神髄は〝無限に成長すること〟にある。それも相手が強ければ強いほどにな。つまりたとえお前があの時あの瞬間にイグザと戦ったとしても、こいつはお前の強さを糧にしてさらなる高みへと到達しただろう。よってお前が勝つのは不可能だ」



「あーそうかい。聖女アルカディアさまにはなんでもお見通しってわけだ」



 そう吐き捨てるように言われたアルカだったが、彼女はどや顔かつその豊かな胸を張って言った。



「ふふ、当然だろう? 何故なら私はイグザの〝正妻〟なのだからな」



「「(イラッ)」」



 なんでもいいけど、人の背中の上で喧嘩しないで欲しいなぁ……。


 そんな俺の願いもむなしく、オフィールが「てかよう」とあぐらを組み直して言った。



「単に一番早く出会っただけで正妻面っておかしくねえか?」



「……なんだと?」



「そ、そうです! 愛の深さでしたら私の方が上なんですし、むしろ私を正妻にすべきだと思います!」



「ほら、嫁二号からも不満の声が上がってるぞ? これで二対一だ」



「ふん、それがなんだと言うのだ。私とイグザが心の底から愛し合っているのはもはや自明の理。お前たちとは格が違うのだ、格が」



「それを言うなら私たちだっていっぱい愛し合っています!」



「おう、あたしだって昨日はたっぷりと愛し合ったぜ?」



「そ、そういう肉体的なことを言っているのではない。私が言いたいのはだな――」



 と。



「――危ねえ!」



「「「――っ!?」」」



 俺が声を張り上げた次の瞬間。



 ――どひゅううううううううううううううううううううっ!



 俺たちのすぐ側を何か光の矢のようなものがかすめていった。



「な、なんだ今のは!?」



「おいおい、見えてねえんじゃなかったのか!?」



「そ、そのはずですが……」



「って、また来るぞ! 皆掴まれ!」



 ――どひゅううううううううううううううううううううっ!



 再度狙い撃ちされるも、俺たちはぎりぎりのところでそれを躱す。


 誰が狙ってきているのかは分からないが、どうやら完全にこちらの居場所はバレているらしい。



「このままじゃいい的だ! 一旦下の森に隠れよう!」



「承知した!」「分かりましたわ!」「ああ、了解だ!」



 三人が揃って頷いた後、俺は高度を下げて森の中へと逃げ込む。


 そしてヒノカミフォームを解除し、全員の無事を確認しようとしたのだが、



「――無駄な抵抗はやめなさい。あなたたちはすでに包囲されています」



「「「「――っ!?」」」」



 いつからそこにいたのか。


 木の上から無機質な表情で弓を構えている少女の姿があった。


 しかも。



「――無駄な抵抗はやめなさい」



「――あなたたちはすでに包囲されています」



「――無駄な抵抗はやめなさい」



「――あなたたちはすでに包囲されています」



 まったく同じ顔の少女が幾人も俺たちを囲み、やはり同じことを口にし続けていたのである。


 一体この子たちはなんなのか。


 怪訝そうに様子を窺う俺たちだったが、そこでふとマグメルが驚愕の表情で言った。



「し、信じられません……。あの子たちは皆――〝聖女〟です……」

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