35 VS斧の聖女


 そうしてオフィールと真剣勝負をすることになった俺だったが、「子どもらに怪我をさせたら殺す」とトゥルボーさまに脅され、神殿はおろか砂嵐の防壁から出て戦うことになっていた。


 しかしトゥルボーさまはすっかり母性の塊みたいな人になってるなぁ……。


 最初の印象から比べるとほぼ別人レベルの変わりようである。



「さあて、それじゃあいっちょぶちかましてやるか!」



 ともあれ、オフィールが得意げに聖斧を構える。


 もちろん少し離れたところではアルカとマグメルが固唾を呑んで状況を見守っていた。



「本当に全力でいいんだな?」



「当たり前だ。もし少しでも手を抜いたら許さねえからな」



「分かった」



 なら! と俺はスザクフォームへと変身する。


 そして魔刃剣ヒノカグヅチを片刃の長剣にし、低い位置で構える。



「……なるほど。こいつは――楽しめそうだぜッ!」



 どんっ! と大地を蹴り、オフィールが肉薄してくる。


 そのスピードたるや、アルカの刺突にも及ぼうかというレベルだった。



 ――がきんっ!



 当然、俺は彼女の一撃を最速の抜剣で弾き返す。


 手に伝わる衝撃はかなりのもので、スピードだけでなくパワーも規格外であった。


 さすがは女神の娘として育てられた聖女だ。


 戦闘能力だけで言うのならば、あきらかにほかの聖女たちを凌駕しているだろう。


 だが。



 ――ざんっ!



「おっと!」



 俺は即座にヒノカグヅチを双剣に変え、追撃を行う。



「おもしれえ武器だな! 確かにいい速度だ!」



 けどな! とオフィールが大振りで薙ぎ払う。



「パワーが足りねえ!」



 ――ぶうんっ!



「そうかい! だったらこれならどうだ!」



 オフィールの攻撃をすれすれで躱した俺は、そのままヒノカグヅチを大剣に変え、身体を捻って兜割りを放つ。



 が。



「テンペストブレイクッ!」



 ――どがんっ!



「うおわっ!?」



 オフィールの放った武技によって大剣ごと弾き飛ばされてしまった。


 なんつー威力だ!?



「へへっ、どうだい? 風の女神さま仕込みの武技は骨身に染みるだろ?」



「ああ、君は本当に強いな。おかげで身体が温まってきたよ」



「はっ、強がりはよしな。てめえの技は大体見切った。変則的な攻撃で一瞬面を食らったが、その程度じゃあたしは倒せねえよ」



「ああ、そうだろうな。だから見せてやるよ。――俺の〝全力〟ってやつをな」



 そう告げた後、俺は上空へと舞い上がる。


 そしてヒノカグヅチを杖に変化させて言った。



「穿て! 清浄なる光の牙――サンライトヴァーミリオン!」



「ちょっ!?」



 ――どがああああああああああああああああああああああああああんっっ!!



「おい、こら!? てめえは剣士じゃねえのかよ!?」



 慌てて砂漠の中を逃げ惑うオフィールに、俺は「悪いな」と前置きして言った。



「俺は《剣聖》であって《神槍》であって《無杖》でもあるんだ」



「はあっ!? そんなことあるわけねえだろ!? って、うおおっ!?」



 どばんっ! と槍状に変化させたヒノカグヅチで特攻する。


 オフィールは間一髪のところでそれを避けたようだが、俺の攻撃にはまだ続きがあった。



「そしてな――」



 ヒノカグヅチが組み直されていく。


 それは大きな刃を持つ長柄の代物――そう〝斧〟であった。



「――これが《冥斧》の力だ」



「――なっ!? て、てめえまさか!?」



「テンペストブレイクッ!」



 ――どがんっ!



「うおあああああああああああああああああっ!?」



 俺の一撃をまともに食らい、オフィールが砂の上をごろごろと転がる。


 遅れて彼女の聖斧がざんっと上から降ってきた。



「言い忘れていたが、俺は戦った相手のスキルと技量をそのまま自分のものにすることが出来るんだ。ついでに言えば不死身だから死なないし、受けた傷も一瞬で治る」



 あと任意のタイミングでお子さまを作ることも出来るんだけど……それはまあ言わなくていいや。



「な、なんだそりゃ……っ。そんなの反則じゃねえか……っ」



 悔しそうに唇を噛み締めるオフィールに、俺は静かに頷いて言った。



「そう、その反則なのが俺だ。自分で言うのもなんだが、俺は反則級の強さを持っている。しかもまだ成長途中だ。正直、自分でさえどこまで強くなれるのかも分からん」



 戦う相手が強ければ強いほどさらにそれを超えていくわけだからな。


 一体どれだけの高みに達することが出来るのか――俺自身、微妙に期待しているのも事実だ。



「と、まあ君の相手にしたのはそんな男なわけなんだけど……お眼鏡には適ったかな?」



 俺がそう控えめに問いかけると、オフィールはどさりと砂の上に大の字になって言った。



「あ~あ、そりゃ勝てるわけねえだろ……。まったく、とんでもねえやつがいたもんだぜ……」



「はは、ごめんな」



 苦笑いを浮かべる俺に、オフィールは「けどよ」と口元を不敵に歪めて言った。



「このあたしの男としては最っ高じゃねえか! ――いいぜ! 今からあたしはてめえのもんだ! さあ、さっさと抱いちまいな!」



 ――ばさっ!



「ちょっ!? 何してんの!?」



 豪快に上着をぶん投げてトップレスになったオフィールに、俺はずんむりと両目が飛び出しそうになっていたのだった。

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